札幌の好きな道の話。
札幌の話だから伝えるのがとてもむずかしいのだけど、書きたいので書く。好きな道の話を。
札幌の南側から市内中心部までをつらぬく大動脈とも言える道がある。時計で言えば4時の方角からやってくる極太の道の名は「国道36号線」。
片側二車線で交通量は非常に多く、おそらくだが札幌で最も混んでいる道のひとつである。たとえば札幌から新千歳空港に一般道で向かうためには国道36号線を通るしかない。古くはクラーク博士も通ったとされる由緒正しき大動脈だ。
仕事で札幌市外、南の市町村に出て、おわって車で帰る。当然国道36号線を通らなければならない。私の自宅は札幌市内の真ん中にある。どれくらい真ん中かというと、札幌の人に「私が住んでる場所はかくかくしかじか、あそこですねん」と言うと「なまらど真ん中だべや」とみな口を揃えて言う場所である。札幌が太陽系であればまさしく太陽の位置に我が家はあるわけだ。地方都市の矜持である。
だからこそ自宅に帰るためには国道36号線を通るのが最短で、それが最も効率がいい。
がしかし、この国道36号線。
吐き気がするほどにつまらない。
予定調和すぎるし景色もよくない。建物に囲まれた、ただの道。太めの道。この道を進むと不二家があって、ケンタッキーがあって、エネオスがあってスタバがあって、トヨタがあって郵便局があって。なんの工夫もない。あぁつまらない。クソ味噌につまらない。国道36号線を通る人たちは移動のこと以外なにも考えられなくなる。国道36号線がおもんないからだ。
なので、私は市外から帰ってくるとき、途中まで国道36号線を通るが、札幌の南にある区、清田区にあるコストコを左折する。国道36号線と並行に走る羊ヶ丘通りに入るために。
そこから札幌の中心部に車を走らせる。羊ヶ丘通りも車通りが多い。国道36号線の裏道といえど、片側三車線の道である。が、これもはっきりいってつまらない道だ。この道を通る人も移動のことしか頭にない。
羊ヶ丘通りを札幌ドームあたりまで北上すると、大きな交差点がある。丸紅エネルギーのクソボロいガソリンスタンドが目印だ。これを左折する。上り坂である。ここも車通りが多いはずなのだが、夜走るとそれなりに暗い。あの道は街灯を増やしたほうがいい。で、道なりに進むと西岡まで行き、さらにずっと進む。ひたすらひたすらまっすぐ進む。
やがて地下鉄南北線の澄川駅の高架も超え、巨大な本屋であるコーチャンフォーも超えると、豊平川にかかるミュンヘン大橋にさしかかる。そしてミュンヘン大橋を渡る。
渡り切ったら右折だ。ミュンヘン大橋を右折してほしい。話はここからだ。
豊平川通りに出るのである。
豊平川通りが好きだ。
川沿いを走る道なのである。
ここが最高だ!
豊平川通りは二車線。川沿いの土手をうねるように進む道で、信号が比較的少ない。対面通行ではなく一方通行である。右手に川、左手にマンションなどの建物、進行方向の前方、奥に札幌の夜景が広がる。テレビ塔はもちろんのこと、中層から高層のマンションのオレンジの灯り、それから航空障害灯と呼ばれる赤いランプたち、星のようでもある。
この道は「サビ」だと思っている。
それまでのクソみたいな国道36号線、アホしか通らない羊ヶ丘通り、ボケカスの西岡、降り立ったこともないし今後も一生行かないであろう澄川駅を超えて、センスのかけらもない名前のミュンヘン大橋。ここまでがAメロであり、Bメロ。信号も多いしやたら暗いし交通量も多い。ほんとイヤになる。
が、ミュンヘン大橋を右折し豊平川通りに入ってみて? 一気にサビだぞ?
片側二車線、交通量は少なく、うねる道ですいすい進む。右に川、左に構造物、奥に夜景、迫りくる札幌中心部。うなりをあげるエンジン、左右にかたむくハンドル。車が高速エスカレーターに乗ったかのようになめらかに進むのだ。
サビやん。これサビやん。
なので豊平川通りはスピードを出す車が多い。危ない。気をつけて。
で、豊平川通りをずいずい進んで、幌平橋を左折して中島公園を突っ切る。こうしてサビはおわり、あとは家まで帰るだけ。
要するに、豊平川通りが好きだという話。
わざわざ少し遠回りしてでも通る価値があると思っているので、国道36号線など通らず、こっちの道で帰るようにしている。
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