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屋根からの景色

« 屋根の上に登りたい»なんて思った事、ありますか?私はそれこそ中学生の時に、実家の屋根の上に家族が眠った夜中に登ったりなんかした事が1度あります。(今思うと完全に不審者。中二病。笑。)私の部屋の窓から、ちょうど都合よく屋根に出られたんだよね。

1度登ってしまえばまぁ満足で、夜中の住宅街のシーンとした感じの中にたまに通る車の音とか、何だか悪い事をしてる様な気分とか、冬の空気とか、これからの将来の事とか、ごちゃごちゃな感情が溢れていたなぁって思う。ほら、なんせ当時は思春期真っ只中な中学生だし。笑。

それから時は流れて、屋根に登ったりしていた事なんてすっかり忘れた頃。遊びに行った彼の家の窓を開けたら隣の一軒家の屋根が見えた。東京の住宅事情のせいなのか、思い切ってジャンプしたら渡れそうなくらい近い。急にあの時、実家の屋根の上に登った事を思い出して何故か1人で切なくなった。「屋根、登りたいなぁ。」なんて気がついたら口から出ていた。実際には無理だと分かってるけど、あの頃の気持ちを思い出していた。それからその彼の家に遊びに行く度に屋根に登りたい欲が強まった。まぁ、実際には登れる訳もないけれど。

「外壁工事が始まって、今うちの家うるさいんだよね。」多分、彼は何気なく私に言ったと思う。彼の家に行くと足場が組まれていて、シートで覆われている。私が遊びに行った週末は工事が休みらしく人の気配はない。彼の家でお酒を飲んで完全に2人で酔っ払ってしまった深夜、彼が私に「ねぇ、今ならこの家の屋根に登れるんじゃない?だって、足場があるよ。前に屋根の上に登りたいって言ってたよね?」と言った。

酔ってても一応理性はあって、ダメなことだとは分かってる。「危ないし怖いよ。」と言ったけど、でも今ならと思う気持ちもあったのは事実。「行こう。」彼が玄関から靴を持ってきた。そして私は好奇心に負けた。飲みかけの缶チューハイとスマホを持って、窓から足場にそっと飛び出した。

1歩ずつ慎重に前に進む。足を引っ掛けて上に登ったら、屋根の上だった。あの頃と同じ。違うのは手に持つお酒と見える景色。何とも言えない感情が込み上げてくる。彼と2人で寝転んだ。星なんか1つも出てやしないけど、空をぼーっと眺めていた。しばらくして起き上がって、「あっちが新宿かなぁ?」「あの光は病院じゃない?」なんて言いながら笑ってお酒を飲んだ。

同じルートを通って窓から部屋にまた戻った時、1人満足感に浸った。多分これから先、屋根に登るなんて事は二度とないと思う。(いい大人だし。危険だし。本当に工事の人に申し訳ないと思っている。)そして、私のやりたい事を強引にでも1つ叶えてくれた彼には本当に感謝してる。大人になっていくにつれて、窮屈な事が増えていき久しぶりに開放感を感じたよ。そして、1ヶ月後に外壁工事は終わり屋根には二度と登れなくなるのでした。


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