めちゃくちゃ喋る人とめちゃめちゃ聴く人。
これは今日の15時台の話だ。
札幌市内でアポイントを終えた私は、いつものようにとある喫茶店に入った。カウンターテーブルに横並びで椅子が並んでおり、私の右側はひと席あいていて、そのとなりには2人の男性が座っていた。
年齢はみたところ20代前半に見える。
片方は黒髪マッシュで右耳には銀色のピアス。静かそうな佇まいをしている。もう一方の男性は髪の毛を雑にかき上げていて、なんだか起業家のような独特の風貌をしている。
こういう風貌の人は、
私も19歳から25歳にかけて見たことがある。
若くして修羅場をくぐってんだか、くぐってないんだかよくわからない、でも独特の空気感を醸し出しているタイプの人たちだ。すばらしい。
アップルジュースと少し遅めのカレーライスを頼んだ私は、スプーンを動かしながらパソコンを開く。
なにやら急ぎで対応せねばならないメールが何通か来ていたような気がする。作るべきものも多いし盛りだくさん。そんな中でよくもまぁ、こんなnoteなんて書いてるな、と思う。
…
パソコン画面に目を光らせて「うーむ」とうなっていると、隣の席の20代男性の会話が聴こえてきた。時刻は15時05分である。
まさか! これは!
だ、大好物のやつだ!
いつものパターンじゃないか!
ネタの神様ありがとう!
……にしても、
やりたくないことをやらないためには、やりたくないことをやるしかないだと?
いいことを言うではないか。意味が分かりそうでわからないけど、ちょっと聞いてみようじゃないか。私の手は完全に活動を停止している。
哲学か?
髪をかき上げて、肌にはちょっとにきび跡がありそうな彼は、黒髪マッシュの男性にそう語りかけている。
気になったのは、話を聴いている方の男性が何も言わない、という点である。おそらくあいづちを表情でうつタイプなのだろう。
次から次へと捲し立ててしゃべるなぁ。後半が呪文に聴こえるくらい速い。宙に浮きそうだ。
これ、黒髪マッシュの人はどう思ってるんだろう。
あまりにも矢継ぎ早に、息つくひまもなく喋るもんで、私は途中から「この人はいったい何分間ひとりで喋り続けてるんだろうか」と思いながらカレーを食べる。
彼が落語家ならば話もわかる。
落語家の仕事はひとりでしゃべり続けることだから。でも、私のとなりで展開されているのは、2人による会話のはずだ。
パッと時計を見ると、時刻は15時17分だった。
かれこれ10分以上、ひとりでしゃべっていることになる。
この2人の会話は、
いったいどんな着地を見せるんだろう。
あれ? 前後の文脈がわからなくなった。
いきなりウォーリーを探せが出てきた気がする。
どういう例えでウォーリーの話が出てきたんだろう。
私の手元にあるカレーライスはまもなく無くなる。
時刻を見る。
まもなく15時26分。
20分ひとりでしゃべってるぞ。
一人しゃべりの達人といえば、伊集院光だけど、伊集院さんだってラジオでは、となりにいる放送作家の笑い声やあいづちを確認しながら話すじゃないか。一方、この2人はどうだ。ずっと片方がしゃべっているぞ。
こうなってくると、起業家風の人の話がべらぼうに巧いのか、それとも、聴く側の黒髪マッシュの青年の傾聴力がず抜けているのか、それともその両方なのか、よくわからなくなる。
奇跡的なバランスで成り立っている2人組なのかもしれない。聴く側はどう思っているんだろうか。
そう言って2人の間に割って入りたい欲求を閉じ込める。私のカレーライスはなくなった。
この謎の会話は、どのように終わるんだろう。
なんだかハラハラしてくる。ずっと一人がしゃべっている。想像して欲しい。片方がずっとしゃべっているのだ。ずっとだ。20分以上、ずっと。
と、思っていたら、
黒髪マッシュの青年が口を開く。
いや、口を開く瞬間は見てないんだけど、要は何か言葉を発したわけだ。20分以上ずっとしゃべっていた起業家風の彼に対して、傾聴力の鬼はなんと言うのだろう?
……
…
..
.
何かが解決したようだ。
となりにいた私は、カレーがなくなってカラになったお皿をぶん投げそうになった。
椅子から転げ落ちそうになった。
一体この20分間のどこに「そういうことかぁ」ポイントがあったのだろう。
よくわからなかった。
【告知】今週日曜、夜9時は音声配信LIVE