世の中の「ムズい」をキッズや若者が面白がれる体験に
株式会社TRYBE 代表 山口 陽さん
《原体験》「気を引きたい」から始まったゲームづくり
ごきょうだいがいる方なら、おわかりいただけるかもしれませんが、年下のきょうだいが生まれると親の愛情を取られたような淋しさを感じることがありませんか。
長男だった僕は、弟ができてから、そのような淋しさを感じることがありました。
「何とか、親の気を引きたい」
そして僕が取った行動は「ゲームをつくる」というものでした。
最初は紙を切り貼りして作ったカードゲームで、いかにも小学生の作品というクオリティでしたが、両親が一緒に遊んでくれるのがうれしくて、その後もたくさんのゲームを作りました。
実際に売っているゲームのオマージュだったり、ルールをシンプルにしたもの、有名なアニメのキャラクターに混じって自分の家族が登場するものなど、本当に数えきれないほど作りました。
作り方も、最初は切り貼りするだけだったのが、テレビの画面をタブレットで撮影してプリントするなど、少しずつ高度になっていきました。こうして、いつも自分で遊びやゲームを作っていたので、市販のおもちゃで遊ぶことはほとんどありませんでした。
そんなことを高校に入るまで続けていた僕に、もうひとつの原体験となる出来事が待っていました。それは高校の休み時間でのことです。
当時、すでに多くの高校生がスマホを持っていて、クラスの友達も休み時間になるとスマホをいじっていました。友達どうしで机の周りに集まるものの、それぞれがスマホでSNSを見ている、というのが日常の光景でした。
僕はその光景に淋しさを感じていました。
「何とか、友達の気を引いて、もっと面白い休み時間をともに過ごしたい」
そこで僕が取った行動は、小さい頃に親の気を引こうとしたのと同じく、ゲームを作ること。ノートを破ってカードゲームを作り、休み時間にはそれで友達と遊ぶようになりました。
そのゲームは友達の間でも「本当におもしろい!」と好評で、後に起業するきっかけにもなります。
やがて高校を卒業して大学に入った僕に、今度は新型コロナという試練が訪れます。大学は休講になり、アルバイトにも行けない日々。高校時代の友達とも連絡を取っていましたが、みんなも同じような状況でした。
そんな時、ふと家の机の引き出しを開けると、高校時代に遊んだカードゲームが出てきました。
「あの時、楽しかったよな。もう一回、遊んでみない?」
そんなやりとりをする中、話は盛り上がり…
「これ、本当に面白かったから、商品として販売してみようよ」
という話になりました。
メンバーをSNSで募り、資金調達はクラウドファンディングで実施。すると目標金額の4倍近い資金が集まり、商品化プロジェクトを進めることになりました。
そして、製造や販売の計画を進めている中で、「実際に商品を流通させるなら、法人を設立したほうがいい」という話になり、株式会社TRYBEを設立することになりました。
つまり、もともと「起業したい」と思っていたわけではなく、「一緒にゲームづくりを楽しみたい」と集まった友達との活動の延長線上に起業があった、という感じです。
よく「友達どうしでの起業はうまくいかない」という話がありますが、僕らは友達としての関係を壊さないために、「もし会社を巡ってメンバーとケンカ別れすることになった場合は、すぐに会社をつぶして友達に戻る選択をする」というルールを設けています。
そのおかげで、設立から5年、一度もそのような危機はなく現在に至っています。そして5年目の今は、「ゲーム開発とその技術転用」を武器に、世の中のムズい物事を、現代のキッズや若者が面白がれる体験に構成しなおし、人の気を引こうとしてます!
《現在の事業》世の中のムズい物事を現代のキッズや若者が面白がれる体験に構成しなおす・運用する
自社開発のゲームをはじめ、ゲーム開発の技術転用でつくるイベントや法人向けの研修プログラムなど、リアル(オフライン)コンテンツを中心に8つのシリーズを運営。ゲームやイベントの受託開発も行っています。
事例としては
・「人狼ゲーム」より簡単で悪質な新しい人狼カードゲーム
・「麻雀」の面白い瞬間だけを切り取ったタイパ麻雀ゲーム
・「言語化」スキルを鍛えられるカードゲーム
・「サステナビリティ」の啓蒙カードゲーム
・「受験」に合格するために集めるカードゲーム(開発中)
・「キャリア」を考え直すために1日だけ高校時代に戻るイベント
・「謎解き」に親子で挑戦するエデュテイメントイベント
・「アイデア」で世界を変えるゲーム型研修プログラム
・「起業」をVアバターとショート動画で体験学習するプログラム
など。
それぞれ対象年齢は6〜25歳程度で、若い世代に楽しんでいただくためのコンテンツを考えるのが好きです。
《10代の皆さんへメッセージ》
10代の自分にひとつ言うならば「自分基準の面白さがどこからなのか気付いておくこと。それも、なる早で」と言います。
そうでないと、比較対象がクラスから全世界に広がったSNS社会、つまり人の評価基準が丸見えの世界に生まれて育つキッズや若者は、キツいと思います。
楽しそうにしているから楽しいわけではないし、華やかそうにするから華やかなわけではありません。見誤らないよう、自分基準の面白さが重要だと思います。
多くの人は自分で見たり聞いたり匂ったり味わったり触ったりしたことの順列組み合わせと類推、転用でしか自分をつくれないそうです。
僕らはムズい物事をキッズや若者向けに展開し、一生出会わない、もしくは未来で出会うはずだった面白さに早めに出会ってもらいます。そうすることで、自分基準の面白さに気付きやすくします。
その引き金となる体験を、五感へのインパクトが大きいリアルコンテンツでつくり提案したいと考えています。
自分基準の面白さに気付いてしまえば、みなさんの毎日はきっと、いいかんじになると思います!!
(取材日:2024年7月25日)