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魔女のくすり屋さん<for やよいさん from ぱんだごろごろ>

東京都、目黒区――。

そこには、鬱蒼とした森が広がっていました。

近所の住人たちにとっては、あるのが当たり前の森ですが、他所から来る人たちの目には見えないし、存在すら知られていない、
そんな不思議な森。

その森の中に、一軒の薬局がありました。
その名も、「MAGIA PHARMACIA (マジア・ファーマチア)」
「魔法のくすり屋さん」
という意味です。

噂では、そのくすり屋さんのオーナー、店主で薬剤師の女性は、空を飛ぶことができるのだとか。
ほうきに乗って、夜空を飛んでいるのを見た、という証言が多数あります。


「あなたは、空を飛べるの?」
と訊かれたとき、彼女は、
「まあ、勿論ですわ。私は魔女ですもの。
でも、お巡りさんには内緒にして下さいね。
道路交通法に違反していると言われては困りますから。
道路じゃなくて、空ですけど」
と答えたので、近所の人たちは、彼女のため、薬局の薬剤師さんが魔女で、空を飛べることは黙っていようと、町内会に諮って、全会一致で決めたのでした。

さて、彼女の薬局の裏には、広い薬草畑があります。
彼女はその畑で、数多くの薬草を育て、薬に精製して、体の不調を訴える人々に、処方しているのです。

一度、彼女が薬草畑で、ある草に話し掛けると、その草が一気ににょきにょきのびてきて、あっという間に彼女の背丈を越すほどの大きさに育ったのを、ある老婦人が目撃したことがありました。
老婦人がびっくり仰天していると、
「これは魔法の薬草なんですよ」
と彼女は説明しました。

「あなたの喉の痛みにも効きますよ」
と言われた老婦人はまたもやびっくり。
「どうして私の喉が痛いとわかったの?」
「あら、私は魔女ですもの。わかりますわ」

そう言って、薬草を切って煎じ薬にしてくれました。

喉の痛みが治った老婦人はたいそう喜び、それから、「マジア・ファーマチア」のお得意さんになりました。


今日も朝の9時、開店の時間にあわせて、その老婦人、園田さんは、薬局を訪ねてきました。
「今日は、ちょっと寒気がするので来たのよ」
「でしたら、くしゃみの薬をお出ししますね」
「ありがとう、私には、あなたの薬が一番効くのよ」
「そう仰っていただけると嬉しいですわ」

薬の処方が終わってからも、二人はのんびりとよもやま話をしていました。
そこへひょっこりと顔を出したのは、背の高い高校生の女の子。
「お母さん!」
「あら、弥生ちゃん、こんにちは」
「あ、園田さんのおばさん、こんにちは。ねえ、お母さん、進路調査の紙、書いておいてくれた?」
「あなた、本当にあれでいいの?」
「もちろんよ。私は魔法薬科大学に行きたいの」
そう言うと、女の子は家の奥に姿を消しました。

「弥生ちゃん、魔法薬科大に進学するの?
まだ、高校二年生じゃなかったかしら」
「飛び級で、一年早く、大学への入学を認められたんです。魔法薬科大学からも、入学の許可が下りて、あとは書類を揃えるだけなんですけれど」
「すごいわね、弥生ちゃん、優秀なのね。親として誇らしいでしょう」

魔女の薬剤師さんは、嬉しそうな、ちょっと困ったような顔をしました。

「でも、まだ高校生なのに、親元を離れて、遠い魔法薬科大へ行くなんて。家からは通えませんから、学生寮に入るしかないんですよ。あの子を手離すなんて」
「まあまあ、子どもはいつか巣立っていくものよ。弥生ちゃんの場合は、ひとよりちょっぴり早く、その時期が来てしまったのね」
「大学に通う間だけでも、6年間かかりますもの。その間、あの子に会えないなんて」
「大丈夫よ。弥生ちゃんは、あなたに似て、空を飛ぶのは得意じゃないの。これから練習すれば、お休みの日に、大学からここへ戻ってくるくらい、飛べるようになっているわよ」

「そんなこと、できるでしょうか」
「そりゃ、魔法薬科大学ともなれば、実習やレポート提出で忙しいでしょうから、週末ごとに、ここと大学を往復するのは、難しいでしょうけど、夏休みや冬休みに行き来するのは、何とかできるようになるんじゃないかしら」
「そうですわね、休憩を入れながら飛べば、何とかできるかもしれませんね」
「そうよ。それに、魔法薬科大学に受かるなんて、そうそうないことよ。あなたが一生懸命育てたから、弥生ちゃんはあんなに良い子になったのよ。自信を持って、あの子を送り出してあげなさいな」

園田さんの言葉に、魔女の薬剤師さんは、こっくり頷きました。
「お茶を入れ替えますね。クッキーも新しいのを出してきますわ」
「まあ、嬉しい。ありがとう」

薬剤師さんは、ふふっと笑うと、お茶のポットを持って、店の奥へ向かいました。

店の中に残された園田さんは、一人、日差しのよく入る、あたたかで、そこここに薬草の束が置かれている、気持ちの良い店内を見回しました。
「魔女の薬剤師さんが、この町に来てくれて、本当によかったわ」


8年後、魔法薬科大学を優秀な成績で卒業した弥生は、2年間、大学の先輩の経営する薬局で働いて経験を積んだ後、
東京都目黒区の森の中にある、「MAGIA PHARMACIA(魔法のくすり屋さん)」に帰って来ました。

「お母さん、ただいま!」
「お帰りなさい」

お互いに、積もる話をたっぷりした後、弥生は言いました。
「ねえ、お母さん、私、夢があるの。いつか、自分の手で、みんなが幸せに、毎日、笑って暮らせるようになる薬を作りたい」
「作りましょう。みんなのことを思って作れば、いつかきっと完成するわ。お母さんも協力するわよ」

「ありがとう!」
「幸せを感じるためには、感情が安定していることが一番よね。気持ちを落ち着かせる薬……」
「人が一番リラックスするのって、いつかしら」
「温泉に入っている時とか、やっぱり寝ている時かしら。
そう言えば、園田さん、最近眠れないってこぼしてらしたわね」
「不眠ね。眠れないと、疲れも取れないし、心身の不調の原因になってしまうわ」
「眠りをさそう薬。やさしくて、体の負担にならないような薬」

ふと、弥生が言いました。
「そう言えば、魔法薬科大学の寮で同室だった子が沖縄出身で、ご実家に泊めてもらったことがあるんだけど、そこで、疲れが取れるという野菜の料理を食べさせてもらったことがあったわ」
「まあ、どんなお野菜なの」
「たしか、『クワンソウ』という名前だったと思うわ。
百合の花みたいにきれいなオレンジ色の花で、花も食べられるんですって。
それに、『眠り草』とも呼ばれていて、リラックス効果や安眠効果もあるって・・・」
「それよ」

魔女の薬剤師さんは、きっぱりと言いました。
「すぐに沖縄に行きましょう」
「薬局はどうするの?」
「休業にしましょう。留守番はお父さんに頼むわ。
お父さんの会社は、最近ずっとテレワークだから、大丈夫よ。
サーターアンダギーとちんすこうをお土産に買ってくると言えば、OKしてくれるわよ」
「お母さんったら」


https://note.com/tubo2020/n/n1f210c963f62
「🧡クワンソウに恋をして愛になった」より


翌日、二人は沖縄本島の今帰仁村に向けて、旅立ちました。
そして、クワンソウと再会を果たし、その効能も確かめました。


そこから、試行錯誤と努力の日々を経て、
弥生が望んだ、みんなを笑顔に、幸せにするサプリメントが生まれるのですが、それはまた別のお話。

今日は、ここまでといたします。



☆☆☆

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*このお話は、フィクションです。
登場する地名、人物名、店名などに、実在のものと似通ったものがあったとしても、何ら関連はありませんので、ご了承下さい。

ぱんだごろごろ


やよいさんへ。
この度は、「ぱんだごろごろ賞」を受けて下さって、ありがとうございました。
次回、白熊杯では、やさしさ数珠つなぎ賞の審査を、よろしくお願いいたします。
ささやかですが、「ぱんだごろごろ賞」の副賞として、このお話を、やよいさんに捧げます。
もし、ご都合の悪い箇所などがございましたら、如何様にも書き直しますので、どうぞご遠慮なくおっしゃってくださいませ。

感謝を込めて
                       ぱんだごろごろ

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