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30年前の対談集が照らし出す「いま」という時代の地図
こんにちは。Kid.iAです。
昨日、noteのタイムラインを見ていると公式からのお題「 #人生を変えた一冊 」が目に留まりました。
私の場合、お題に参加することは普段ほぼ無いのですが人並みに読書をすることもあって「何かあるかなー。」と本棚へ。
並ぶ書籍をしばらく眺めていると、
「あ、これいいかも。」
と、ふと手にとった一冊がありました。
それがコチラ。
「対談集 絵本のこと話そうか」
2018年8月26日に初版が発行されて即購入した本書。
今から約30年前の1987年〜1990年にかけて、絵本雑誌「MOE」紙上で行われたリレー対談をまとめた書籍『素直にわがまま』(偕成社 1990年刊行)の復刊です。
対談に登場するのは絵本作家を中心とする著名なクリエイターの方々。
初回が「長新太さん×五味太郎さん」、次が「五味太郎さん×林明子さん」、他にも「糸井重里さん×高橋源一郎さん」など、計460ページに及ぶ少しばかり厚めの本の中に想像を遥かに超える面白さが詰まった対談がリレー形式*で掲載されています。
*宮崎駿さんご本人の許可が得られなかったということで、林明子さん×宮崎駿さん、宮崎駿さん×糸井重里さんの対談が割愛されているのは残念な点でしたが…。
個人的には大ファンの五味太郎さんの対談が3本も収録されているのと、現在は大御所感満載の彼が長新太さんとの対談で時折みせる今と違った感じの表情もまた面白かったです。
少しネタバレになるかもしれませんが、私が印象に残った数々のやり取りの内ここで2つだけ紹介したいと思います。
伝わるものは作り手がどのくらい楽しんだか
ひとつは「五味太郎さん×林明子さん」の対談の中から。
---- 以下書籍から一部抜粋 ----
林さん
「五味さんのうらやましいところは自分で遊んでるくせに、ちゃんとそれが仕事になっているところ」
五味さん
「それは違うよ。一生懸命そういうふうにしようと思ってるんだもの。それがコンセプトだもの。だからさ、たとえば、ものを見るとき、どのくらい作った人が楽しんだかな、というところを見ちゃうわけ。作ったやつが自分でうっとりしたなとか、そこを見るわけ。」
林さん
「うん、うん。」
五味さん
「逆に言えば、伝わるものは、そこだけじゃないかなと思ってる。林さんの仕事を見て、林明子がどのくらい疲れたかなんてことに、だれもおカネを払いたくはないと思うんだ。」
林さん
「そうね。」
---------- ここまで ----------
林さんから見た五味さんの印象は、五味さんの遊び心が「自然と」仕事になっている点だったようですが(私も同じ印象がありました)、実はそうではなかったみたいです。
「たのしくモノづくりをする」ということは、意図的であり、コンセプトであると。
そしてこと仕事というものにおいて(読者や仕事の相手に)「伝わるものはそこだけ」じゃないかと思っていると。
この部分、人によっては読んでみて「は?」という感想を持たれる方もいるかもしれません。
ただ自分にとってはもうこのやりとりを読むだけで、なんとも言えない爽快感を感じるんです。五味さん、最高です。
わからないことのおかげで、世界の広さが見える
もうひとつは「糸井重里さん×高橋源一郎さん」の対談の中から。
---- 以下書籍から一部抜粋 ----
(絵本に、子どもがわかるわけないような言葉が入っていたりすることに対して)糸井さん
「たとえば、『そでにする』という言葉が絵本の中にあったとするじゃない。そうしたら、子どもにはわかりっこないよね。だけど、『そでにする、ってなに?』と聞いてくれて、それはこういうことだと教えられれば、それですむことなんだ。ただ、いま、お父さんやお母さんが、それを説明する時間をもっているかどうかは問題だけど。」
高橋さん
「子どもの頃にすぐにすべてがわからなくても大丈夫なんだよね。」
糸井さん
「漫画だってむずかしいことがいっぱい書いてあるものね。」
高橋さん
「だってさ、だんだん覚えていくんだから。」
糸井さん
「わからないことのおかげで、世界の広さが見えるんだよ。」
---------- ここまで ----------
「わからないことのおかげで、世界の広さが見える」
糸井さんらしさ全開のフレーズですよね。
たとえば、子どもが絵本をよんで無垢な疑問・質問を持つことのすばらしさ。
それを一番身近にいるお父さんやお母さん(当然おじいちゃん、おばあちゃんでもいい)が支えてあげることができること。
そのような、すごく普遍的で大事なことを感じとれる、読んでいて素敵だなと感じたやりとりです。
編集者のあとがき
ここまでで興味を持って頂けた方はぜひ実際に読んで頂ければと思うのですが、最後にもうすこしだけ。
この書籍を読んでいて私が120%共感したのが本著の復刊によせた編集者・松田素子さんによるあとがきなのです。
そこにはこう記されていました。
「雑誌連載時のタイトルは「絵本のこと話そうか」でしたが、もちろんのことながら、絵本に限ることなく、「ものを創る」ことすべてにわたる話題が語られていました。」
「いえ、それは「創ること」にとどまらなかったと言った方がいいかと思います。ありとあらゆるものに通じ、時代も越えて流れる地下水があれるとすれば、そんな深い場所から、こんこんと湧きあがってくるような、朽ちることのない話に満ちていました。」
「時代は変わり、子どもを取りまく状況も一変しています。(中略)その視点に立てば、二十八年も前の対談集の復刊にどんな意味があるのかと思われるかもしれません。でも、私は信じます。だからこそこの本は、「いま」という時代の地図を、むしろ容赦なく照らし出すだろうということをー。」
私もこの生粋のクリエイター達の対談を読んでいて松田さんと全く同じことを感じていました。
ただその感じとったことを、
「時代も越えて流れる地下水、そんな深い場所から、こんこんと湧きあがってくるような、朽ちることのない話」
と例える松田さんのセンスが素晴らしい。
本とは、絵本とは、一体どういうものなのか?
本に限らず「ものを創ること」とはどういうことなのか?
そんな問いを頭の片隅に持ちながら読むと、30年以上経った今だからこそ当時以上に興味深く、大いに学べる作品だと思います。
オススメです。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございました。