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【小説】ゲーム・クラブ

ある晩、散歩を終えて部屋に帰ると知らない男がゲームをしていた。
咄嗟に叫んだのも束の間、僕はその男に口を塞がれ床に組み伏せられた。

「騒ぐんじゃあない、一晩泊めてほしいだけだ。」

絶対に嫌だと思ったが、男は抵抗してもびくともしない。それどころか僕を押さえつける力がどんどん強くなっていったので、僕はしぶしぶ男を泊めることにした。

「ありがとう。生田六介だ、よろしく。」

六介は僕にベッドを促し、自分は机に向かってゲームを再開した。僕が先週始めたばかりのポケモンを続きから遊んでいるようだった。

結局、六介は一晩で出ていかなかった。
僕が目覚めるとちゃぶ台でトーストをコーヒーと一緒に食べていて、僕が勉強しているうちはベッドでずっと眠っていた。そして僕が塾や散歩から帰ってくると決まってゲームや筋トレに勤しんでいるのだった。

「よう、おかえり。」
「ただいま。」

六介はこちらに目もくれずトレーナーとバトルをしている。あぁ、あのポケモンってこんな感じで進化するのか。

「俺もゲームやりたい。」
「俺がやってない時ならいいよ。」
「お前この時間はずっとやってるじゃないか。」
「お前が昼間勉強してるからな。」

たしかに言われてみればそうだ。第一僕は明日も朝から勉強しなければならない。

「俺もお前みたいに生きてみたかった。」
「そいつは無理な話だ。」
「お前はできてるじゃないか。」
「お前がいてくれるからな。」
「言ってくれるじゃないか、居候め。」
「いや、逆だろう。」

思えばこの男とはすぐ打ち解けられた。全く逆の生活リズムとは裏腹に気が合ったし、意見が食い違うこともなかった。
だから、こんな台詞を言ったことは一度もなかった。

「何だって?」
「お前は子供の頃から試験のために勉強していたのか?金を稼ぐために働いていたのか?不安でざわつく心を落ち着けるために散歩していたのか?」

六介はコントローラーを置き、こちらを振り向いてひとりごとのように呟いた。

「俺の方が先なんだよ。」

六介越しにバトルに勝って喜んでいる主人公とポケモンが見える。その下のテキストボックスにはこうあった。

“ロクは しょうきんとして
16800円 てにいれた!”

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