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石垣 碧
2021年1月16日 10:00
ホームシック。 それは住み慣れた家や故郷を離れて、異常な程に寂しくなったり恋しくなったりする気持ち。郷愁の事。 辞書にはそう載っている。 寮生はみんな、住み慣れた故郷を出てきている。だから郷愁は当然ある。しかし辞書で定義されているホームシックとは若干趣きが異なる。寮生のホームシックは、もっとポジティブなのだ。 30年前、世の中に携帯電話はなかった。いや、どこかに存在してはいたのだろうが
2020年9月29日 19:09
約30年前、私の女子大生生活は山の上にひっそりと佇む、古い学内女子寮の3人部屋で始まった。 ルームメイトは、四国から来たマイちゃんと、広島出身のリョウコである。 マイちゃんは4人兄妹の長女で、しっかり者の物静かな子だった。朝は一番最初に起き、私達が目を覚ます頃には身支度を完璧に終わらせて、朝食の時間が来るのを静かに待っていた。 こちらがかしこまってしまう程、真面目で几帳面で落ち着いているマ
2020年5月26日 17:56
ミッション系女子大学学内寮の朝は賛美歌で始まる。もう30年も昔の事なので、正確な時間は忘れてしまったが、朝食の時間は確か7時だった。1年生から4年生まで、全員が食堂に集まり、7時きっかりに寮母さんがベルをチーンと鳴らす。レストランの受付などに置いてある、店員さんを呼ぶあの卓上ベルだ。そのベルの音を合図に上級生が賛美歌のワンフレーズを歌い、その後に全員が続く。最後にアーメンと歌い終わると朝食が始ま
2020年5月16日 22:17
この春、娘が大学生になった。コロナ騒ぎで、一度も大学に通えないままゴールデンウィークも終わった娘を見て、可哀相にと思う。大学一年の春には、濃密でゆったりとした、それでいてあらゆる興奮に満ちた賑やかしい時間が流れている。それは、他のどんな年の春とも違う、特別な時間だからだ。約三十年前の春、私は不機嫌な大学生として三重の田舎から神戸に出てきた。 なぜ不機嫌だったか。それはごくありきたりで詰まらな