天才の発言は平凡だった。
本書を読了した後の正直な感想は「知っていた話ばかりだ」「ありきたりなことしか書いていない」というものだった。
「ちょっと期待外れだな~」と本気で思っていた。
しかし一つの動画を見てそれがすべてひっくり返った。
順を追って説明しよう。
1.本書について
著者は東大AI博士のカリスさん。韓国の出身で16歳で東京大学に合格、入学後は医療AIを研究し、若くしてその分野の世界的研究者になった、まさに"天才"という言葉にふさわしい経歴の人物だ。
そんな彼の初の著書となったのが本書で、『誰でも"天才になる"方法』とタイトルにある通り、才能を持って生まれなかった一般人がどうすれば天才になれるのか、著者がどのようにして天才になったかを踏まえながら説いている内容だ。
私は本書が発売される以前より、彼の経歴としての魅力と、それ以上にYouTube上に投稿されている動画やSNS上での振る舞いから垣間見られる、彼のユニークな人間性と言葉遣いに惹かれ、彼のことを尊敬し、SNSもフォローするようになった。
そして初めての書籍が出版されるということで購入に至った。
2.概要について
天才による天才のなり方と聞くと、少し身構えてしまう人もいるだろう。天才は説明が上手くないことがお決まりだ。
しかし安心してほしい、もう一度タイトルを思い出すと『誰でも"天才になる"方法』であって「"天才である"方法」ではない。つまり著者も生まれた時から「天才であった」のではなく、努力の果てに「天才になった」のである。
全体を通して、16歳で東大に合格するまでの、韓国にいた日々を非常に暗いものとして扱っていたのが印象的だった。それだけ著者が天才になるために努力し、同時にその努力した日々を誇りにしていると感じ取れた。
そのためか、紹介されている方法論の中で今すぐに実行は難しいと感じたものはほとんどない。誰でもいつからでも天才を目指せるというのは多くの人にとって勇気の出ることではないだろうか。
3.平凡な主張
しかし内容を読むと私は冒頭のような感想を抱いてしまった。
平凡で聞いたことあるような主張が並んでいて、正直に言うとカリスさんの執筆した量というのは微々たるもので、ほとんどはゴーストライターが代筆したのではないかと疑ったほどだ。
もちろん、カリスさんの専門分野であるAIに関する話が多いなどの特徴はあるが、それにしても、というのが最初に読んだ時の感想だった。
当然、私が多くのビジネス書やそれに類する書籍を読んでいた、という理由もあるが、多くの向上心のあるサラリーマンの方がこれらを読んでいる、と言えるほどに私の読書におけるビジネス書の割合は少ない。
それでもこのような平凡な内容であったことに私は正直に落胆した。
4.180°変えた6分半と忘れていた前提
ただ、このままでは嫌だった。というより、ゴーストライターがいるならその証拠を掴んで安心したかった
なので著者のYouTubeチャンネルに投稿されていた以下の動画を視聴した。
著者による本書の解説の動画だが、動画後半の次の言葉が、本書の印象にカタルシスをもたらした。
そう、私は著者を好きすぎて内容にばかり目を向けてしまっていて、どのように書かれているかには全く注目していなかったのだ。だって、どのように書かれていたとしても、一字一句頭に叩き込むことは必至だったから。
そしてもう一つ、私が本書を平凡だと感じた理由がわかった。
それは私が"天才"であることを忘れていたことだ。
少々反感を買うような言い方をしてしまったが、要するに私は本書に掲載されているいくつもの事実や方法論をこれまでの人生で既に学習していたか、もしくは自分で発見していたのだ。
特に、自分の才能を信じて突き進み、失敗を失敗と捉えずに、成長として前を向き続けるメンタリティは、他でもないカリスさんから学んだことだった。
当然だが、本書の位置づけはカリスさんのファンブックではなく、まだ天才に成れない人に向けた教科書であるから、そういった意味では冒頭の期待外れという文言も間違っていないのかもしれない。私の認識違いであった。
反省。
では、著者が重視したという伝え方を考えると、どうだっただろうか。盲目に陥っていた私は気が付かなかったが、精読すると目から鱗の連続だった。
きまぐれクックが眼球に入り込んだのかと思った。
まず、トピック一つひとつが非常に短い。それだけでなく、行と行の間を広くとったり、箇条書きを頻繁に用いたり、とにかく読みやすくすることに終始していた。
なんとなく書名に惹かれた、くらいの印象で読み始めた読者や、まだ本書のような書籍を多く読んだことのない読者に対しても「天才になる」ためのノウハウを理解できる構成になっている。
もちろん、他の本で記載されていたものと内容が重複するという事実は変わらない。そのため、大学に入ったばかりの学生や、進路に悩んだ高校生、あるいは中学生が初めて読むビジネス書として、適切なのではなかろうか。
さらに、引用の方法も素晴らしい。多くのビジネス書では引用した文章の端に(1)と記載して後半に引用元を提示したり、同じページ内のフッターとして記載したりするが、これでは読みにくい。だからといって引用元を記載しないようなことは研究者である著者にとっては論外だろう。
そのため、本書では引用のページには引用元を記載せず、最後のページにまとめて記すという方法を採っていた。これなら読書の邪魔をせず、引用元を参照したいというニーズも満たしている。
引用の内容も、歴史上の偉人からラノベの登場人物まで多岐に渡り、それでいながら著者の論を適切に補強している。一見フランクな名言を引用しても、発言がチープに感じられないのは、他でもない著者の実績による裏付けだろう。
5.まとめ
話が転々としてしまったが、私は本書を読んで良かったと思っている。その理由は、
ことにあるだろう。繰り返しになるが、本書はこれから本当に成功したい、天才に成りたいと思っている人にとってはバイブルとなり得る一冊だ。
この手の主張が他の本でも語られているという事実は変わらないが、大切なのは何を語るかよりも、誰が語るか、どのように語るかということはよくあることだ。著者は実際に平凡な、あるいはそれ以下の環境から天才になった天才だ。これほどまでの説得力はないだろう。
もし本書を読んでもやる気があんまりでなかったという人は、ためしに著者のYouTubeの動画をいくつか視聴してみるといい。
モチベーションが無限に湧き出ることだろう。
君も本書を手に取って一緒に天才になろう。
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思い出
ここからは本書の内容と直接関係のない話だ。
実はかなり前の話になるが、カリスさんからサインをもらったことがある。
Twitterでカリスさんが博士号を取得したことを記念したキャンペーンで、抽選でサイン入りのノートとGoogleのロゴが入ったヨーヨーをもらった。
当時と比べて私は随分と変わってしまった。結局当時の夢を追うことは辞めてしまったし、将来のビジョンも変わってしまった。それでも当時の人生を失敗ではないと心の底から言えるのは、カリスさんがいたからだと本気で思っている。
彼はよく歴史上の偉人たちが発現したとされる名言と並んで、マンガやアニメの名言を引用する。しかしこれらを発言しているのは空想上の人物で、正確には漫画家のおっさん達が言わせている文章に過ぎない。でも彼らの言葉がどうして響くかといえば、発言するに至ったバックグラウンドも同時に漫画の中で描いているからだ。
結局のところ人を動かす言葉なんていくつかのパターンしかなくて、大切なのは自分の心を動かしてくれる人にその言葉を言われることだ。この発言者に出会えなければ自分の力だけで人生を変えるのは不可能に等しいだろう。
私にとっての発言者が、カリスさんで本当に良かった。
Change of Shape. (変態)
変わり続ける。成長し続ける。