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そばが嫌いだった理由を思い出した

私がそばを自分から食べるようになったのは、ここ数年。それまでは、わりと苦手な食べものだった。

その話をしたら、何で食べられるようになったのか聞かれた。その場ではうまく答えられなかったのだけど、苦手だった理由を唐突に思い出した。


あなたは、そばの花のにおいを嗅いだことがあるだろうか。


私の出身である福井県は、そばの名産地。そば畑が一面に広がっている。

通っていた小学校までは、そば畑に囲まれて20分ほど歩く。そばは、暑い時期になるといっせいに小さな白い花を咲かせる。清楚という言葉が似合う可憐な花。ただ、その見た目とは裏腹に、強烈なにおいを発する。

たとえるならば、獣の糞だとか、動物の堆肥のにおいそのもの。

暑い日照りのなか、20分間、道の両側をそばの花にホールドされ、においから逃げられない。みんなで息を止めながら帰ったのを覚えている。毎日嗅いでいても慣れないほど、ひどいにおいなのだ。

食べられる状態に形を変えたそばからも、花と同じにおいがほのかにする。そば独特の香りを嗅ぐたびに、あの強烈なにおいの記憶が鮮明に思い返されて、こんなの食べものじゃないと思った。

だから、そばが苦手だったのだ。

だけど、自分で車を運転できるようになり、そばの花のにおいから解放されるにつれ、においの記憶は薄れていったのだろう。


大学生になり、そば屋でバイトするようになったのも大きい。

わたしの地元では、だいたいの人がそば屋でのバイトを経験する。それだけそば屋が多いし、辞める人も多くて常に求人もある。大学入学前にバイトを始めたくて、そのタイミングで求人があったそば屋を選んだ。

飲食店での接客の辛さは、空腹でふらつく体で出汁のいい香りがした食事をお盆に乗せ、他の人のもとへ届けないといけないことだ。お昼時は忙しくて、14時、15時頃までお昼ご飯を食べられない。体力も使うから、お腹のすきも通常よりはやい。だから、目の前にある食べものは、何でもおいしそうに見える。その頃から、そばを食べものとして見るようになった。

それに加え、好んでそばを食べる人の表情や、自信をもっておいしいものを作っている人たちを見て、少しずつ魅力に気づけるようになったのだと思う。

今では、花のにおいを吸い込んだ時間よりも、おいしいものを食べた時間のほうが上回っているはず。だから、おいしくそばを食べられるようになったのだろう。

記憶の上書きを共にしてくれた、そば仲間たちに感謝である。

まったく話は変わるが、
福井のそばといえば、面白いものがある。

うどんとそばが1本の麺になった「うそば」という商品をご存じだろうか。
個人的においしいとは思わないが、一度でいいから食べてみてほしい。

見た目は2色でとてもきれい。前衛的な味がしそうだけど、口の中に入れると、うどんとそばを1本ずつ食べている感覚なのだ。

薬味には、のり、ねぎ、わさび、しょうがが用意されている。のりとねぎはどちらにも合う。だけど、わさびを口にしたとき、口の中のそばの部分とは合うけれど、うどんの部分とはまったく合わなくて混乱する。同じように、しょうがを合わせると、今度はうどんの部分とはマッチするものの、そばとは相容れない。一緒に口にしてはいるけれど、頭の中で味を分離させ、できるだけおいしく感じようとしていることに気づく。

その感覚が、新しくて面白い。

新しい食の扉を開きたい人、話題がほしい人は、ぜひ試してみてほしい。

うどんとそばは、別で食べるのがおいしい。そんな大切なことに気づかせてくれる。


▽本当においしい、おすすめの越前そば屋さんも紹介しておく

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吉野千明
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