夕立と夏と、追いかけた白球
夏が好きだ。
じりじりと照り付ける太陽。焼けた土のにおい。
水をまいた直後に芝生から立ち上る陽炎。
金属バットの乾いた打球音。顎からぽたぽたと流れ落ちる汗。
スパイクで荒れた1-2塁間のグラウンド。舞い上がる砂ぼこり。
「さあ来い!」と声を出しながら内心「こっち来るな」と思って守りについていたあの定位置。
夏になるといまだに思い出す懐かしいあのシーン。
練習中に水を飲むなというのが常識だった。誰かのエラーは連帯責任という名のしごきになった。
バットにガムテープを巻かれてマメがつぶれるまで素振りさせられた。
凡退したらケツバットが待っていた。監督に蹴られて鼻血を出している仲間もいた。
今考えると理不尽極まりない練習の数々。
風が雨の匂いを運んでくる。しんどい練習から解放される合図だ。
夏の夕立は激しい。あっという間にグラウンドが砂から泥に変わる。
雨宿りのベンチで汚れたボールをひたすら磨く。屋根から滝のように流れ落ちてくる雨で順番に水分補給をしたこともある。もちろん先輩が先に飲む。下級生は後だ。
夕立が過ぎ去りまた晴れ間が顔を見せる。雨に濡れた芝生から匂いがする。夏の匂いだ。湿った若葉が乾いていく、さわやかですがすがしいあの匂い。
深呼吸して再びノックを受ける。こういう時に限って飛び込まないと捕れない打球を打つ監督が逆に好きになるから不思議だ。
泥だらけのユニフォームとスパイクと帽子と。練習終わりを待っていた吹奏楽部のあの子と一緒に帰る河川敷。
今年も大好きな夏がもうすぐやってくる。
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