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映画見聞録∶オブリビオン(2013)

トム・クルーズの出演作品は絶対にエンタメ性が高いのはわかってるんだけど、なかなか見る気がおきないでいたオブリビオン。この年はSF映画が結構出た年だったから、またかよ〜とゲンナリしてた。ただ、見たあとの感想としては60年代から2000年代までのSF映画を総括するとこうなるだろうな。という感じ。

〈以下ネタバレあり〉

まず、「トム・クルーズがたった一人で地球に残る」と聞いていたので、ピクサーのWALL・E(2008)みたいな話かぁ、と漠然と思っていたら、女性のパートナーがいきなり出てきた。いや、ひとりぼっちやないんかーい!(あと、役名はジャックですが、トム・クルーズは煮ても焼いてもトム・クルーズなので、このままの表記で行きます)
だいぶ物語が進むまで、この女性パートナーのことを胡散臭く思ってた。もしかしたらアンドロイドかも?だからトム・クルーズが結局たった一人の人間?5年ごとに記憶を消されるとかも怪しい。怪しすぎる。
地球上の2人と軌道上の本部のやりとりも不審さ満天なので、「本部は人間じゃない説」が序盤からむくむくと頭をもたげる。

中盤までに色々と明かされる事実もある。Tech 49という識別番号を持つトム・クルーズは地上に配置されたドローンの整備をしていること、地球は荒廃していて、かつての大都市や名所などは瓦礫や砂に覆われていることなどがわかってくる。
たった一人で(女性パートナーもいるが、実際地上に降り立つのはトム・クルーズだけ)黙々と作業をするというシチュエーションで思い出したのが月に囚われた男(2009)。こちらも、サム・ロックウェル演じる主人公が一人きりで月での資源採掘にあたる。

見回り中に傍受した謎の信号の発信先を突き止めようと、トム・クルーズが偵察に来たのは、砂に埋もれて先端部分のみが地表に残ったビル。エンパイアステートビルですね。
なんかこう、「ババーン!あのエンパイアステートビルもこんな姿に!」みたいな感じでインパクトを出したいんだろうけど、その展開は(特に砂に埋もれているところなんか)猿の惑星(1968)ですでに経験しちゃってるんですよ。オマージュなのか?リスペクトなのか?

信号に導かれて墜落してきた宇宙船を発見するトム・クルーズ。中には睡眠状態のクルーがいた。睡眠装置に書かれた名前から判断すると、1人は日系っぽい。この映画にアジア人はほとんど出てこなくて、この宇宙飛行士くらい。最近ハリウッド映画でアジア系の登場人物や企業は中国系・韓国系のほうが多く取り上げられてきたので、宇宙分野で日系の名前が出てくるとなんか嬉しい。
それはさておき。残念ながら宇宙飛行士達はトム・クルーズの妻(007慰めの報酬のオルガ・キュリレンコ。トム・クルーズより背が高いはずなのに、ふたりとも同じくらいの背の高さに見えるのはなぜ。ムービーマジック)を除き、全員睡眠装置ごとドローンに破壊されてしまう。睡眠装置も、ドローン(AI)に殺されてしまうというのも2001年宇宙の旅(1968)っぽい。

後半で、本部の言うところの「スカヴ」が実は生き残りの人類であることが判明する。まぁ、そうだよね。という展開。ここはあんまり驚かない。
そんなスカヴのリーダーを演じるのはモーガン・フリーマン。はじめは姿を見せずにトム・クルーズに語りかけるんだけど、もう声だけでわかってしまう。
トム・クルーズの映画は「トム・クルーズの映画」なので、そんなモーガン・フリーマンでさえ重要ではあるがチョイ役。あとは、GoTでジェイミー・ラニスターを演じたニコライ・コスター=ワルドーや、タランティーノのデス・プルーフなどに出演したスタントウーマンのゾーイ・ベルもスカヴの一員として出演しているのに、だいぶチョイ役。役者の無駄遣いかよ。

スカヴに会ったのち、トム・クルーズはこれまで侵入禁止と言われていた汚染区域に入るわけですが、そこでTech 52の番号をつけた、自分と見た目がそっくりな人物に会う。クローントムだ!いやまた月に囚われた男(2009)じゃん。
Tech 52番がいるということは少なくとも52人のトム・クルーズが居るってこと?と思っていたら、再びスカヴを訪れた時点で、何千人ものクローントムが作られていたことを知らされる。
実はオリジナルのトム・クルーズは宇宙飛行士で、地球に飛来した謎の正四面体テットに捕らえられ、クローンの素体にされていたのだ。
トム・クルーズが木星衛星への移住本部だと思っていたテットこそが地球外からの侵略者で地球を荒廃させた原因。侵略の際に、おびただしい数のクローントムを攻め込ませて人類を滅亡まで追い込んだ。
この説明で、なぜか大人数の裸体のトム・クルーズが攻め込んでくるイメージしか浮かばなかった。いや、劇中では裸とは言っていないんですが、いちいちクローンに服を着させるかな、と思いまして。それにしても怖い。怖すぎる。波のように押し寄せるすっぽんぽんのトム・クルーズ…。

トム・クルーズが真実を知ったところで、スカヴと共にテットを破壊する作戦をたてる。テットを騙して核爆弾を内部に運び込むのは、ちょっとインデペンデンス・デイ(1996)を思い起こさせる。 
テットの内部には無数のトム・クルーズと女性パートナーのクローンが並ぶ。マトリックス(1999)かな。
唯一「おっ」と思ったのが、トム・クルーズが宇宙に浮かぶテットの内部に入るときに、テットが「空気は提供するわ」って言った箇所。だって、これまでどれだけのSF映画で都合よく人間が呼吸できる大気が存在してきたことか。(スタートレックとかね。ギャラクシークエストは逆にネタにしてたけど)みんな不用意に宇宙船から出て呼吸し過ぎ。簡単にヘルメット取り過ぎ。死ぬよ。
たまたま呼吸に適した空気がそうそうあるわけないじゃん!と常々思っていたので胸がすっとした。ちゃんとメンションしてくれてありがとう。
そうして、テットを騙して運び込んだ爆弾を作動させる。爆弾を置いたテット内部のだだっ広い空間がサンシャイン2057(2007)のラストシーンを思い出させる。あの映画も結局、自分を犠牲にして原子爆弾を作動させるんだったなぁ。

最後、トム・クルーズの夢見た湖畔の家で暮らす妻のもとにスカヴの面々とクローン(Tech 52)がやってきて大団円となる。クローントムは妻と仲良く暮らしていくっぽい。しかし、クローンだからって「"彼"は"自分"だから」という理屈が通用するんだろうか。

Jack Harper: For three years I searched for the house he built. I knew it had to be out there. Because I know him. I am him. I am Jack Harper, and I'm home.

IMDB 

ちょっとプレステージ(2006)を思い出した。残ったほうがオリジナルなのだという理屈?クローンだから皆同じという理屈?でも、Tech 49のトム・クルーズはオリジナルと共通する部分が多く、他のクローンとは違うという描写がずっとなされてきた。(好きな野球チーム、湖畔の家等)
スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ(2008)に出てくるクローントルーパーのように個性が出てくるなら、同じオリジナルから造り出されたクローンだからクローン同士も同じ性質を持つはず!という式は成り立たない。現に、Tech 52のクローントムは画一的な作業服に加え、首にバンダナを巻いている。これは、彼もまた個別の意思を持っていて、それはまたTech 49のトム・クルーズとも異なるということの表れな気がする。ということは、Tech 52のクローントムはTech 49のクローントムではないし、オリジナルでもない。引用した箇所と真逆なんじゃないか。

やっぱり、トム・クルーズ作品はハリウッド的エンタメなんだけど、このラストはちょっとモヤモヤが残ってしまった。
個人的には、SF作品というのは"What if?"を楽しむものだと思っている。これから私達にどんな素敵な・悲惨な未来が待ち受けているか、仮定の話を広げて探求することに意味がある。
この映画は特にそういった教訓もなく、純粋にエンタメとして存在しているように受け取った。美しいセットや景色を見て、予想はできるものの楽しめるストーリーを面白がれたなら見る価値あり。

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