今後の予測②!!
①保険診療の方向性
現在の高齢化社会や障害者福祉では、保険診療にともなうリハビリを通じて心身機能の維持や回復を図る事が重要と読者も認識していると思う。 保険診療の視点からリハビリを見ると別の側面が見えてくる。
保険認定では、心身障害が重いほど保険による補助が大きくなる。その為、心身機能の維持や改善により、税金の支出負担を軽減しなければならない。
国の医療や福祉に掛かる予算は2020年現在約20.7兆円と莫大な費用となっている。
2019年の医療保険改定により、病院で行っているリハビリテーションの効果判定であるアウトカム評価が、さらに厳しいものとなった。
アウトカム評価とは、①脳卒中、②整形疾患、③廃用症候群(高齢者の顕著な心身機能低下など)などの各算定の実績指数で加算を行うものである。
段階は1-3であり、例えば脳卒中では1の算定では245点なのに対し、3の算定では、100点となる。
そのため、病院運営の視点からも1の加算を受けたい。
1-3の各段階はそれぞれ、施設設備、人員、サービス、評価の基準などの整備が必要で、費用や人員、時間の投資が必要となる。
障害者や高齢者がリハビリを受ける際に、使用している保険は主に、医療保険と介護保険がある。
医療保険は、主に病院で入院中に使用される保険で、病院退院後の通院や、通所施設などで使用される保険は、介護保険となる。
医療保険は、介護保険に先行して、リハビリの費用対効果を国から求められている。それは、介護保険に比べ、リハビリ加算や他の診療報酬の税の支出が大きい面も要因であろう。
しかし、初めから、費用対効果を現在のように求められていたわけではない。
現在進行している、超々高齢化社会で国民の約3割が高齢者になる中、国の財政圧迫が著しく、適切な財政運営が、福祉医療の継続性担保のためにも必要なのである。
そのため、徐々に医療保険分野からリハビリの費用対効果が求められてきているのである。
具体的にどのように効果判定を行うかというと、入院時日常生活機能評価(以下FIM)にて数値化し、リハビリを概ね約1-3か月及び1-4ヵ月実施。
回復度をFIMの上昇値や、その数値に入院日数を掛けた数値で合計したもので示す。入院期間が大きく患者側にのしかかっている。
もはや、病院でのリハビリは、しっかり治療する場ではなく、出来るだけ短い期間で、回復できるだけ回復し、残りは地域で回復してほしいという状況だ。
国の評価としては出来るだけ短い入院期間で、回復するほど評価が高いという事だ。入院日数が短くなれば、その分保険料は掛からず国のコストを抑えることが出来る。
このように進めてきた医療保険制度内のリハビリだが、介護保険はこれから本格化する見通しだ。
これまでは、リハビリでの回復は病院である程度しっかり行い、デイケアなどの通所施設で、心身機能の維持向上を図るというものであった。
しかし、医療保険制度の改定の中で入院日数が減少傾向になっており、十分にリハビリを受けきる前に退院という傾向がますます進行している現状。
これは、人口減少による税収減により、今後さらに加速していくと思われる。
その受け皿になるのが、病院の退院後に利用する介護保険領域というわけだ。
現在の介護保険領域では、主にデイサービスやデイケアといったところでリハビリを重点的に行っている。
デイサービスとは、主に日常生活に介助が必要な部分へサービスを提供する施設である。
デイケアは、リハビリを中心とした施設になる。
しかし、デイケアだけのリハビリ展開では、地域でのリハビリキャパシティーが不足しており、デイサービスでもリハビリサービスが浸透してきている。
現在の介護保険領域におけるリハビリサービスの費用対効果に関する効果判定は、医療保険に比べ厳しくはない。そのため、多くの施設が、本格的なリハビリによる心身機能の回復や改善というより、楽しみや、くつろぎが中心となったサービス展開になっている。
②福祉施設増加の落とし穴
2000年以降、デイサービスは約9,000施設から約35,000施設へと増加。
デイケアは10年間で、約6,500施設から約7,500施設へと増加している。
この急増する高齢化社会の高齢者の数に対して、同じように施設を増加するという構造形態となっている。ここに現在の課題が大きく潜んでいる。
高齢者増加に対して、施設というハード面を急増してきたが、そこで働く人材の技術やスキル、施設のサービスの質が伴っていないことが多いという課題が大きい。
例えば技術スキルというのは、介護保険制度では、個別機能訓練員が実施するリハビリの評価と技術などである。
その個別機能訓練員は、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士のようなリハビリをなりわいとしたしかくだけでは、人員が足りない為、枠を広げている。
具体的には、看護師、あん摩・マッサージ師、柔道整復師なども実施可能である。
しかし、そもそも、看護師以下の他職種はリハビリを学んでおらず、効果的なリハビリの実施が困難なのである。
さらに、全国の福祉施設の6割が、人員不足の現状である。そんな中、介護士などが行う介護業務は、多くの施設で業務をこなすため流れ作業的に行うしかない状況である。
その状況で、接遇という視点が乏しい。
自分や親族が、金を払って馴れ馴れしい態度をされたらどうだろうか?
この現状では、全国的なスタッフの技術スキルや、サービスの質の向上は困難である。
ここに制度のちぐはぐさが見えてくる。
ハードを多く作りそこへ、病院から退院後に、家族や本人の意向により施設利用を希望し、人が入るという流れは、地域包括ケアセンタ―などを中心に行っているが。
そこを利用する利用者が、十分なリハビリを受ける事も出来ず日々を過ごし、結果、年齢という言葉にごまかされ、徐々に心身機能が低下することで、年々予算が膨らんでいくというわけだ。
多くの施設で、リハビリセラピストが不足しており、何が十分なリハビリなのかの指導が進んでいない。そもそも理解することが困難な現状である。
先も述べたように、全国の福祉施設の約66%で人が不足しており、全国的に慢性的な人員不足に陥っている。
今後2035年には79万人もの介護人材不足が進行するそうだ。
業務内容では、他者の汚物の処理や入浴などの世話が嫌という人も少なくない。さらに利用者の動作介助による、スタッフの身体的負担での慢性的な腰痛発生などのリスクもある。
そのため、現状の多くの施設の介護保険における、リハビリを含む色々な、サービスの費用対効果を求めるのが困難な現状があるのである。
自分が通うなら、、、自分が入所するなら、、、
あなたならどのような施設がいいか、、、
根深い問題であるが、状況は、人口減少と同様なったなしのひっ迫した状況だ。
③コロナウイルスによる補正予算の影響
先に介護保険のリハビリの費用対効果の課題を述べたが、2021年に介護保険改定、2024年に医療保険・介護保険の同時改定が予定されている。
現状の人口問題や税収問題を鑑みても、介護保険の費用対効果を求められていくのは、当然の流れだろう。
それを加速させる要因となりかねないのが、2020年1月から中国武漢市から始まった、世界的コロナウイルスによるパンデミックである。
このコロナ禍により、経済が4月から5月にかけてマヒする事となった。これにより政府は産業や国民への補助を行うため、補正予算を投入した。これは近い将来我々が負担する。
コロナ禍が終息したあと、経済が以前の状態に戻るか、どのくらいの期間で戻るのかは、誰にも分らない。
ということは、コロナ禍で打撃を受けた、個人や企業からの税収もさらに悪化していく可能性が高いという事だ。
そんな中、今後も高齢者需要が増していく、地域福祉における各施設のリハビリやサービスの質を上げ、費用対効果を国や施設自体がしっかり評価し、どこを援助すれば達成できるのかを見極めることが、重要になる。
④リハビリセラピストの課題
リハビリの中心となる資格が作業療法士、理学療法士、言語聴覚士である。
この資格は3-4年で大学や専門学校を卒業し国家試験をクリアして資格を取得するものだが、セラピスト自体にもいくつかの課題がみられる。
まずは学校で履修したものが臨床に応用しにくいというものだ。
学校で教えている課題は厚生労働省によって定められたものだが、あくまでも国家資格合格が目的となってい待っている。
セラピストとして必要なことは、資格取得後すぐに現場で使える技術や知識である。
学校の意向は、CMやパンフレットなどで提示されている、「国家資格合格率○○%!や就職率○○%!」からも見て取れる。
想像してみて欲しい。資格取得後、すぐに脳卒中などを患った方のリハビリを担当しなければならない。
その方の、その後の人生を左右するリハビリを行うプレッシャーは想像を絶する。その効果が良くも悪くても、リハビリを受ける側は、リハビリスキルを計る事は困難であり。
退院の際には、結果を受け入れるほかにすべはない。
また、国家資格取得後に就職後の、知識や技術を磨き上げるのは、個々にゆだねられている。自己研鑽をやっても、やらなくても基本誰にも何もいわれないという事だ。
リハビリセラピストは、多くが病院で働いている。
その理由は色々あると思うが、臨床家としては多くの患者を経験でき、多くのセラピストと情報共有できるのが一番メリットであろう。
一方、多くの方が利用する、デイサービスやデイケアといった施設は、施設の財政上、基本一人セラピストで、同じ利用者さんの対応を行う事が多い。
さらにリハビリについて他職種や家族などへの助言や、アプローチを指示する役割もある。一人で、自己研鑽が苦手なセラピストはそのような施設での就職を避けるのが現実である。
施設では、一人セラピストが多いというのは(会社や施設規模にもよるが)、医療保険に比べて、介護保険加算が、利用者一人一日46-56点と低く、雇えないという財政的の問題もあり、これをクリアしない限り物理的に問題解消は困難である。
今後は、職場で一人セラピストであっても、個人での自己研鑽が困難であっても、地域での開かれたセラピストのリハビリ勉強会を、小さな規模でもどんどん開催する。スキルだけでなく、病院や、地域施設などの多領域の情報共有などもさらに展開する事が必要である。
また、リハビリ養成学校でも、人の人生に向き合うという視点を、さらに落とし込む必要があるであろう。
セラピスト数は、人口減少とは逆に今後増えていくとの統計が出されている。
今後、介護人材不足により、通所施設は利用者は多くいるが、働き手がいない為、施設基準を満たせず運営困難で倒産というケースも増える可能性が高い。
そのため、セラピストは増えるが、就職先が減少という事が起きるため、就職先の椅子取りゲームが進行していくだろう。
そこで、椅子を勝ち取るには、他者に比べリハビリスキルが高いものが重宝され、スキルの低いものは淘汰される。
巷には、歯医者や整骨院などが多く乱立しているが、通常利用する際に、施術者の腕がいい施設を我々は選び、選ばれなかった施設は倒産していく。至極当たり前の現象である。
セラピストの中には、就職後、安定した仕事につけたから、リハビリ業務をこなしとけば良いと考えるものを、私は何人も見てきた。
もちろん個人のプライベートも重要で、その人のあたりまえの権利であり、否定する事はないが、我々の職種は、そもそも技術屋でアーティスト的要素が強い。
そこへ、人の人生を左右し、責任が大きく重い事を、強く再認識しなければならい。
今後の日本の向かう方向をしっかり認識し、技術者として、福祉医療で生き残りを掛けた戦いが待っている。
我々セラピスト一人一人の知識や技術のスキル向上が、同じセラピストだけでなく、共に働く医療チームも巻き込むことで、悩みを多く抱えた方を、苦しみから解放する事に繋がる。
他者の人生に向き合うという事を突き詰め続けなければいけない。
人の人生に踏み込むという事は、そのくらいの責任を伴うと私は考える。
これは、今後の話ではなく、今現在なのである。
今のままでは、医療や福祉はジリ貧で、最悪、崩壊する事も考えられる。
コロナから学んだ事として、国の制度に全ての任せるのではなく、現場の一人一人、国民一人一人がどうすれば、健康で互いを支えられるかという思いやりをもった行動が、結果的に、莫大な税の支出を抑制し持続可能な社会の実現に繋がるのではないであろうか。
数年後に現状の課題を改善しようといっているわけではなく、すぐにでも対応が必要な問題だと私は提起している。