危機の時代:これからの予測
現在、コロナウイルスにより、世界が未曾有の混乱に陥っている。
そんな中、ジム・ロジャース氏により危機の時代という著書が出版された。
世界でも著名なジム・ロジャース氏の見据える今後の世界の流れを見ていきたい。
世界三大投資家 ジム・ロジャース
ジム・ロジャースとは、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスを含む、世界三大投資家の一人であり、未来を見る目を持つものとして崇められている人である。
ジム・ロジャースは、1942年、米アラバマ州生まれ。米イエール大学(歴史学専攻)卒業後、英オックスフォード大学(哲学、政治学、経済学専攻)を卒業。
1973年ジョージソロス氏と共同でクォンタム・ファンドを始め、驚異的なリターンを生み、脚光を浴びる。
37歳で引退し、米コロンビア大学で金融論を教えた後、世界各地を旅行し、投資を行う「冒険投資家」に。
2007年、一家でシンガポールに移住。現在も投資家として活動を続け、2008年、リーマンショックの到来を予見したことで知られる。
ジム・ロジャースは発言に信憑性が高い事でも有名。
それは、リーマンショックを予測し、世界的に経済的な大損を被っていたものが多い中、しっかり利益を出していた事に由来する。
そんなジム・ロジャースが今後、リーマンショック以上の危機の時代が高い確率で到来すると警鐘を鳴らしている。
この、ジム・ロジャースが現在、世界を震撼させているコロナウイルス後の世界経済、世界がどうなるのかを予測している本になる。
リーマンショック以上の危機
1:アメリカの借金漬け
リーマンショック時の世界各国は、現在より抱える借金が少なく、経済危機に対しても持ちこたえることができた。
ここ10年のアメリカおよびイギリス含むヨーロッパの多くの国で、MMT理論(現代貨幣理論)を基にして、大量の金融緩和政策を講じている。
国際通貨基金(IMF)のデータで、すべての国の債務残高の合計は20年前、20兆ドル(約2200兆円)から、現在の69.3兆ドル(約7620兆円)に達している。
この金額は世界のGDPの82%で、歴史上最も高い数値。それぞれの国が世界的低金利を利用し、借り入れを積極的に行っているため。
次のグラフは、借金の額が多い国ほど、大きな範囲を占め、各国がどの程度、多くの借金を抱えているかが分かる。国名の下には、すべての国の借金合計の中でその国が占めている割合が書かれている。また、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率(対GDP比)が大きい国ほど、バックの色がより黄色い。
1位 アメリカ 21.5兆ドル(約2362兆円) 対GDP比104.3%
2位 日本 11.8兆ドル(約1300兆円)対GDP比237.1%
3位 中国 6.76兆ドル(約744兆円)対GDP比50.6%
4位 イタリア 2.74兆ドル(約302兆円)対GDP比132.2%
5位 フランス 2.74兆ドル(約301兆円)対GDP比98.4%
6位 イギリス 2.46兆ドル(約270兆円)対GDP比86.8%
7位 ドイツ 2.44兆ドル(約268兆円)対GDP比61.7%
8位 インド 1.85兆ドル(約204兆円)対GDP比68.1%
9位 ブラジル 1.64兆ドル(約181兆円)対GDP比87.9%
10位 カナダ 1.54兆ドル(約169兆円)対GDP比89.9%
対GDP比は、端的に言うと年収に対する借金の割合を示している。家計の安定具合を表し、基本的には低い方がいいとされる。
対GDP比、ワーストは日本。世界で最も多くの債務を背負っている国はアメリカで21.5兆ドルに上るが、アメリカは世界最大の経済大国であり、対GDP比は104.3%にとどまった。債務残高3位の中国は6.76兆ドルだが、ここ2年で約2兆ドル増加している。
このMMT理論による金融政策は他の著書でも問題視されている事でもあるが、テレビや新聞メディアでの報道はほとんど見られない。
2:MMT危機
MMT理論(現代貨幣理論):ある条件において国はいくらでも借金(国債発行)をしてもよいという考え方で、ステファニーケルトンによって提唱された。
国債とは政府の債務(借金)であり、貸しているのは国民。
政府は国債が買われると、その金額に利子をつけて買った人に返す、ということを約束しており、これが国民に対する借金に当たる。
国は借りたお金で、公共事業など(ダムや堤防を造る、道路を舗装する)を行なう必要があるが、お金が無いと事業は行えない。
この公共事業などの財政政策に国民から借りたお金を使っている。
MMT理論(現代貨幣理論)は国民に対して沢山借金をして公共事業を起こし、雇用を生み出すべきという考え方。
国は、MMT理論を基に、国債を大量に発行してもインフレに陥らなければ大丈夫という謎の理論である。
赤字国債を大量に発行すると借金で不安になるが、自国の通貨を持っているため、問題ないという。
それは、中央銀行が余ったお金を買い続けるからである。
このようなMMT理論を日本が長い間続けているが、経済的破綻に陥っていないという事で、欧米諸国も問題ないといっていいる。
しかし、日本人は投資や消費に対して消極的な国民性で多くの貯金があるため破綻していないと大前氏は指摘している。
対GDP比で見てみると、最も高い国は日本で、その割合は237.1%と断トツだ。これは予算の3分の1近くを国債で賄っているためだ。しかし、日本の債務の多くは対外債務ではなく、90%以上を国民が円建ての国債として保有しており、特段問題ないという見方もある。
現在対GDP比3位のギリシャは184.9%で、今のペースで増加し続けると2060年には275%に達すると、IMFは警告。また、ベネズエラの借金は1.8億ドルであるものの、対GDP比は182%で4位。これはアメリカの石油製品に対する経済制裁の影響だ。
このMMT理論に対して、ジム・ロジャースは「レストランが無料でランチを配り歩いているようなもの」と表現しており、一時期は好評かもしれないが、このようなことが長く続くはずがなく、必ず、歪みが生じ、そのツケを払わされる事になると指摘している。
各国が借金漬けになり、リーマンショック以降、アメリカ中央銀行が国債を大量に発行しているが、現在のコロナウイルスによる未曾有の経済危機に陥っている状況で、リーマンショックの頃の経済的体力がない中で、とんでもない衝撃を受ける事になる。
このような状況でどのような未来をジム・ロジャースは予想しているか。
3:トランプの暴走
アメリカのトランプ大統領に関する問題も多くの方が指摘しているが、ジム・ロジャースも同様のようだ。
トランプ大統領は、貿易戦争などの戦争が大好きな男であり、国の借金漬けやMMT理論を基にした金融政策に関する事などを国民に責められた際には、自分に向けられた敵意を逸らすために、さらなる貿易戦争や戦争を引き起こす可能性が高いと指摘している。
この戦争に関しては、これまでの世界の歴史を振り返ると見えてくるという。
戦争の可能性
ジム・ロジャースは未来を予知しているわけではなく、世界史から過去を学び、歴史を通して世界の流れを予測している。
1:1929年 世界恐慌
1929年、アメリカから始まり世界中を襲った金融危機、世界恐慌が起きた。
世界恐慌は同時多発的に起き、連鎖していった金融恐慌であり、その恐慌が経済危機を呼び、起こり得なかった世界大戦が起きた。
それが第二次世界大戦である。
つまり、世界的経済危機は、戦争が起きる状況としては何度も繰り返している戦争直前状態と述べている。
ジム・ロジャースは、次のサラエボは、中東のいずれかの国が戦争の火種になると指摘している。
ジム・ロジャースが指摘するサラエボとは、
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争:1991年に勃発したユーゴスラビア紛争にともなうユーゴ解体の動きの中で、1992年3月にボスニア・ヘルツェゴビナは独立を宣言。当時、同国には約430万人が住んでいたが、44%がボシュニャク人(ムスリム人)、33%がセルビア人、17%がクロアチア人と異なる民族が混在。ボシュニャク人とクロアチア人が独立を推進したのに対し、セルビア人はこれに反対し分離を目指したため、両者間の対立はしだいに深刻化。独立宣言の翌月には軍事衝突に発展。
現在、アメリカや中国、ヨーロッパの緊張感が高く、経済危機が耐えられなくなった時、一つの火種が世界大戦を引き起こす可能性が高く、火種となる場所は、中東のイエメンである可能性が高い。
イエメンは既に戦争状態に入っており、何が起きてもおかしくない状態である。
2015年に勃発したイエメン内戦、アブド・ラッボ・マンスール・ハーディー大統領勢力と、ムハンマド・アリ・アル・フーシを大統領とするフーシ派、そしてアラビア半島のアルカーイダ(AQAP)傘下のアンサール・アル・シャリーア、3勢力のイエメン国内戦。
2017年8月時点の報道で、約5万人が死傷、200万人以上が国内難民となっている。戦闘以外に、水道や衛生・医療システムの破壊で、コレラなど感染症の蔓延広がっている。ハーディ大統領側をサウジアラビアを中心とするイスラム教スンニ派諸国が、シーア派を奉ずるフーシ派をイランがそれぞれ支援する代理戦争という側面もある。犠牲者は2020年までに10万人以上へと増え、国際連合は「世界最悪の人道危機」として停戦を呼び掛けている。
イエメンではイスラム教シーア派(Shiite)系反政府武装組織フーシ派(Huthi)と同国政府を支持するサウジアラビア主導の連合軍との内戦により、過去5年で数万人の市民が死亡している。
この争いの原因は、石油を持っているという経済的理由と、イスラエルがあるという政治・宗教的理由からである。
このように、過去に起きた世界大戦と同様に、世界大戦に向けての条件が揃いつつある。
世界的経済危機、借金漬けの先進国、火種となる争いになるエリア、全てが1929年の第二次世界大戦前と酷似している。
我々は、経済危機と戦争がもしかしたら起きるかもしれないという事を、予測しながら未来を迎えなければならない。
①次の派遣は中国
ジム・ロジャースは、我々の現在の価値観を、変える必要性を訴えている。
我々は、世界が欧米中心であると思い込んでいる。しかし、世界は繰り返し変わり続けている。
かつてはイタリアのローマ帝国が世界一で、その後スペインやポルトガルが太陽の沈まない国といわれる時代があった。その後に、大英帝国が世界の覇権を握り、現在の覇権はアメリカが握っている。
我々が知っているのは、アメリカが覇権を握っていた時代。
その時代が、雪崩のように崩れようとしている。
もちろん、一つの覇権国家が衰退すると、次の覇権国家が現れる。それが中国でそれ以外ありえないと述べている。
中国の世界覇権に関しては、大前氏も同意見である。
1:ロシア・インド
今後さらに世界への影響力を増すとされる、ロシアやインドに関して、ジム・ロジャースは、両国の世界覇権はないと断言している。
ロシア
ロシアは大国だが、現段階で中国に代わるほどの影響力を持った国とは言えないとしている。
インド
インドも一時期高い評価を受けていたが、ジム・ロジャースは、現在インドに投資を行っていない。
インドはある時期の日本と同じミスを犯してると指摘。
日本がバブル経済が崩壊した時、大企業を国が再建させようとした。これは経済的に良い事ではないとしている。
ジム・ロジャースは、企業とは淘汰されるもので、公的に再建するものではないとしている。
失敗した企業を国家が再建する政策は、国家において企業ゾンビを生む事であるといい、バブル崩壊後の日本経済の衰退は明らかだ。
インドもまさに国家が企業を再建する政策をとり、自国のゾンビ企業を作りながら、外資の侵入に対して閉鎖的としている。
外資の侵入に閉鎖的で、自国の企業を無理やり救う事は、バブル崩壊時の日本と同じであり、その政策をとると、国の発展の勢いは衰えるとしている。
2:深圳の衝撃
ここ10年カリフォルニア州のサンフランシスコ ベイエリアの南部に位置し、多くの新興企業や技術系のグローバル企業が密集する地域シリコンバレーを聞かない日はないといっても過言ではない。
そのシリコンバレーからアメリカの世界に誇るGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が誕生した。
そのGAFAMらデジタル産業のトップ企業による世界へのイノベーションはすさまじいものであった。
しかし、今後GAFAMからイノベーションは起きないという。
次のイノベーションは深圳から起きるのだという。
現在、中国の香港に対する弾圧が問題になっているが、その香港には、治安悪化などを理由に富裕層が移住する事をしなくなっており、企業が社屋を移転するのも香港は選ばれないとしている。
その香港に代わり、個人や企業に選ばれているのが、深圳だという。
現在の深圳は、近代的な高層ビルが立ち並び、そのビルに中国が世界に誇るメガプラットフォーム企業BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)の社屋も立ち並ぶ。
街を走るタクシーやバスは全て電気自動車(EV)で自動運転が実用化され始めているという。そのため、街のいたるところに電気チャージャーが設置されている。
電子マネー導入は、日本の先を行っている。
3年間、現金を手にしたことが無いなんて人もいるほど、電子マネー使用が当たり前になっている。
スマホ決済であるため、充電の心配はつきまとうが、深圳の人はほとんど携帯充電器を持ち歩かないそうだ。
それは、1時間は無料で充電できる、充電レンタル販売機がそこら中にあるので、持ち歩く必要がないのだとか。
インフラ整備の速度に驚かされる。
さらに、ドローンも進化している。
深圳のドローンは飛行機のような形態をしており、ホバリングして空中に浮き、その後、滑空するため、通常のドローンの連続稼働時間が30分程度というのに対して、5時間の飛行が可能だそうだ。
深圳のドローンは行政が実用化しており、車の停止時にドローンが目の前に現れ、全席のシートベルト着用を取り締まっているという。
また、ミサイルを搭載した軍事ドローン、消火ミサイルを搭載したヘリ型ドローン、配達専用ドローン、空中でプログラミングされたデザインを多数のドローンで表現するドローンなども開発されている。
極めつけが、人2人が搭乗できる空飛ぶタクシーのドローンまで開発されている。
Amazonが千葉県で実装実験していると話題になったが、深圳ではもっと先を進んでいることが分かる。
これは、現在の話であり、警察、軍事、消防、輸送などで実用化されている。
Alibabaが経営しているスーパーマーケット、盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)。深セン以外にも中国国内に沢山ある。
購入の7割がネット経由のEC、要するにネットスーパーによるもの。店内にはスマホを手にした店員がひっきりなしに入る注文に従って商品を選ぶ。左手に持つバッグに商品を入れる。
バッグは店内の天井に張り巡らされたリフトに乗せられてバックヤードに送られる。バックヤードには自転車やバイクによる配達担当が待機し、30分以内に商品を配達する。
3:西側メディアだけをみるな
ジム・ロジャースは、日本人が最新の技術を知らないのは、日本メディアが欧米中心の西側メディアであるためと指摘している。
彼は、中国の時代が到来する事について、資本主義を中国に導入した鄧小平政権時から示唆していた。
鄧小平にノーベル経済学賞が与えられていない事が考えられないという。(ノーベル賞はアメリカとイギリスの一部の大学関係者の持ち回りで受賞されている恥ずかしい賞と述べている)
ジム・ロジャースは、実際、中国に足を運ぶことで、凄いということに気づいた。
彼は、冒険投資家と異名を持ち、37歳でリタイヤした後、世界中をバイクで旅をしながら見て回った。
そのため、リアルな世界情勢を肌で感じることができ、投資がうまくいったという。
彼が中国にいったのが80年代、入国時、恐怖心があった。それは、メディアによって中国が恐ろしい国だと知らされていたからだ。
一党独裁の共産党が、何か規則に触れれば直ぐに逮捕。国民は完全に監視され、外国人に対しては銃を向ける事もあるかもしれない。そんなことを想像していたそうだ。
中国に一歩足を踏み入れた時、命を落とすかもしれないと覚悟していたが、実際は、そうではなかった。
中国人は非常に勤勉で、街は経済の活気に溢れていた。
それを目の当たりにし、国に戻り今後中国の時代が到来する事を伝えたが、誰も信用しなかった。
西側メディア、CNN、BBC、NHKは、中国に対して非常に攻撃的な情報を流し続けている。それだけでは、世界の見方が極端なバイアスに掛かってしまう。
東側メディア、CGTN 中国国際放送、RT ロシア国際放送も見る事が重要という。
東側からの視点で情報を見ると違った世界の情勢が見えてくる。
西と東両側メディアからの情報を見る事で、公平に判断するべきで、ジム・ロジャースは、両側から世界情勢をリアルに見ながら、世界の潮流を掴んできた。
両側メディアを見て世界を本当に見るという目線を養ってほしいと述べている。
4:アフリカ投資
中国がさらに世界をリードする理由として挙げられるのが、今後来るアフリカの時代に関する事だ。
アフリカは人口が多く、人口ボーナスによりさらに人口が増していく見通しだ。
そのアフリカに対して中国は大規模な投資を実施し、インフラ整備に着手している。
かつてイギリスなどが行った、アメリカから搾取するようなやり方ではないそうだ。
中国はインフラを作っており、アフリカの人々は中国を好意的に捉えている。
交通のインフラを生む事は、アメリカの歴史からみて未来を予測することが出来る。
アメリカは西から東へ鉄道を横断させ、それで出来た街がシカゴ。
シカゴは鉄道が出来た事で栄える事ができた。
中国は、アフリカにシカゴを作ろうとしている。
それが出来ると、アフリカが一気に成長し、中国に大きな力をもたらすと見ている。
アフリカに対してアメリカやイギリスは、中国のような投資が出来ていない。
中国の一帯一路構想からも未来を予測できる。
それは、中国からヨーロッパを結ぶ陸路のベルトの中から、とてつもない支配的都市が出来るといい、その都市もチェックしなければいけない。
5:民主主義と経済
中国の話をすると、アメリカ、イギリスの人など多くの人たちは、「中国は一党独裁だから危険」「経済がうまくいくと思えない」というが、民主主義と経済は全く関係ない。
民主主義が経済をうまくいかせる事と理解しているのならば、大きな誤解であるという。
民主主義は、絶対にして完全な政治システムではない。これは、ギリシャ文明時代からそうだ。
ギリシャの哲学者プラトンの著書「国家」によると、国の成熟段階は、4段階である。
①独裁政治(1トップ)→②寡頭政治(複数トップ)→③民主政治→④カオス(混沌)→①に戻るのループ
寡頭制または寡頭政:全部または大半の政治権力を、特定の少数の人々が握っている政体。 少数者支配の体制で、対比語は多頭制(多数支配)である。 寡頭制は君主制や独裁制のほか共和制や民主制でも存在する。
これから分かるように、どの政治システムが必ず優れているという事ではない。流れていく大きな歴史の輪である。
これをギリシャ時代のプラトンは既に唱えていた。
ドイツやフランスなどの諸外国も、民主政治からカオスになり独裁化になり、寡頭から民主へ移行している。
だから、民主政治と経済は関係がなく、むしろ独裁の方が経済の成長速度が早くなるのは、歴史的にも見て取れる。
中国以外に、シンガポールがまさに独裁により経済の成長速度がとてつもないものである。
シンガポールのリー・クワンユーにより、民主政治のように選挙は行うが、リー・クワンユーが所属する以外の党に、非常に不利なシステムであり、必ずリー・クワンユーの党が勝つシステムである。
リー・クアンユー( Lee Kuan Yew)(1923年9月16日 - 2015年3月23日):シンガポールの政治家、初代首相。首相退任後、上級相、内閣顧問を歴任。
初代首相就任以降、長期にわたり権威主義的政治体制、「開発独裁」を体現し、独裁政権下ながらシンガポールの経済的繁栄を実現。
現在も、リークワンユーの長男で後継者であるリー・シェンロンが首相を担い、シンガポールをコントロールしている。
シンガポールは、一党独裁でも明るい北朝鮮と呼ばれている。
一党独裁であることと、治安の良い悪い、経済の良し悪しは関係ない。
ジム・ロジャースは日本も明らかに一党独裁の国家だと指摘している。
戦後自民党以外の党が国政に携わっている期間は、非常に短い。
イレギュラーな数年間以外は、完全に自民党が勝つようになっており、これからもそうであると思う。
日本は一党独裁の仕組みによって、高度経済成長を成し遂げたのが、強い日本であった。
一党独裁で一気に国を推し進めるというやり方は変わらない。
韓国の経済成長も、アメリカをバックに持ち、独裁政権時に経済成長期を成し遂げている。
独裁と経済成長はスピード感の点からいっても、説得力のある話である。
民主主義であるアメリカの経済が伸びたという理論、民主主義でない国は国が伸びないという理論は、アメリカ人の勘違いであると指摘している。
③朝鮮半島統一
ジム・ロジャースは、朝鮮半島はいずれ統一すると述べている。
そうなった時の朝鮮半島は、かつて東と西で分かれていたドイツが融合した時のように、大きな力を発揮するとしている。
ドイツの統一に関しても分断している時は、人々はまさか統一するとは思っていなかった。その状況は、現在の朝鮮半島も似ているという。
必ず歴史を振り返る重要性をジム・ロジャースは述べている。
経済危機と戦争の関係に疑問を持てば、世界大戦と世界恐慌を振り返る必要がある。
中国が世界の覇権を握る事が信じられないのであれば、ローマ帝国の衰退や、スペイン・ポルトガルの事を誰も何も語らず、その後の大英帝国の勢いがいつどこで衰えたのか、アメリカという国が永遠ではないという事がなぜいえるのかというのは、歴史の中で学ぶ必要があると指摘している。
1:北朝鮮の中国のあこがれ
北朝鮮の動向をみると、北朝鮮は中国への強い憧れを示している。
それは、一党独裁で経済で成功しているからである。
北朝鮮の金家は、国家の豊かさと独裁の維持が欲しい。
一子相伝の王国を維持しながら、経済を保つというやり方を、中国に学びたいと考えている。
2:韓国の北への歩み寄り
現在、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、北朝鮮への歩み寄りを見せている。
その文在寅大統領は、北朝鮮との統一に関して非常にポジティブな発言を行っている。
北朝鮮は経済成長がしたい、韓国は北朝鮮へ歩み寄っている。
ジム・ロジャースは、この朝鮮半島の統一を妨げている大きな問題は、在韓米軍の存在であるといっている。
韓国には米軍が駐留しており、これは、北朝鮮への警戒の為という名目である。
しかし、アメリカは、アジアの拠点という位置づけと考えており、アメリカ側の都合であるとしている。
アメリカの都合で、ロシアや中国に対して睨みをきかせている。
この在韓米軍が無くなれば、朝鮮半島は統一するだろうとしている。
④どうする日本
ジム・ロジャースは、日本には未来がないと言っている。
1:借金、オリンピック、高齢化社会、増税
多額の借金。
MMT理論を基に赤字国債を毎年のように大量に発行し、借金を増やし続けている。
2020年開催予定だったオリンピック。
ジム・ロジャースによると、過去のオリンピックを見ていくと、オリンピックは、国家に借金をもたらし、その後オリンピックのつけを払う結果になるという。
好景気になる企業に比べ圧倒的に、オリンピックの恩恵にあやかれない企業が大多数としている。
確かに、前回の東京オリンピック後に起きた不況により、特別に赤字国債を発行した経緯も日本にはある。
現在、オリンピックはコロナウイルスにより開催延期しているが、来年開催を断念し中止しても、設備投資が回収できず赤字であるが、国家的には開催しても不況を招くという事だ。
日本の少子高齢化。
今後、アフリカと違い、人口推移が2100年に向けて国の予測で、人口が5000万人を切るという。恐ろしい速度で、人口減少と超高齢化社会が訪れる。
日本政府が進めている増税。
過去の歴史を見ても、増税を推進し繁栄した国家は存在せず、逆に衰退を辿る。
大村大次郎 氏の著書、お金の流れでわかる世界史によると
国の栄枯盛衰には一定のパターン:徴税がうまくいっている間は富み栄えるが、やがて役人たちが腐敗していくと国家財政が傾く。それを立て直すために重税を課し、領民の不満が渦巻く。そして国内に生れた対抗勢力は、外国からの侵略者により、その国の政権(王)は滅ぶ。
古代エジプト、ローマ帝国、近代のフランス革命前まで、多くの帝国、王権が徴税権の乱れにより消滅したという。多くの場合、裕福な者が徴税特権を得て、更に裕福になる。一方民衆には重税を課す、という形にはまり込む。徴税請負制度が中間搾取することで、長期的に国家財政も民衆も疲弊することになる。
先進国ではタックスヘイブンがあり、富裕層・大企業への課税が減少。その分中間層以下に課税が増える傾向にあるという。結果、富裕層・大企業が「税金を逃れる特権階級」になっている。長期的に見て、国家を必要としない資本主義が存続できるのかは懐疑的だ。
日本の借金、オリンピック、少子高齢化社会、増税を根拠にジム・ロジャースは、日本に一切希望を抱いていない。
ジム・ロジャースの日本についての評価は、過去数年間変わっていない。
その上で、移民受け入れを勧めている。
インドに対しての低評価も、外資受け入れを拒んでいる事であった。
移民に対して拒んできた国家は、歴史上衰退してきたという。
彼は、日本人への提言として移住を勧めている。
しかし、アメリカへの移住は反対している。現在、トランプ大統領による移民政策で、移民に対して厳しい社会になっている。
この政策は、これまでのアメリカの歴史を知らない愚かな政策であるとバッサリ否定している。
その移民政策を推進するトランプを当選させたアメリカ国民は、これから大きなつけを払っていく事になる。
これまでのアメリカの繁栄は、民主主義が理由ではなく、多様な国家がもたらした。
多くの民族、誰しもを受け入れて国家の力に変えていった。
閉鎖的な国に栄光はないとしている。
これは、インドや日本にも共通している。
ジム・ロジャース自身、アメリカ人でアメリカのイェール大学、イギリスのオックスフォード大学を卒業してきた。
しかし、そんな彼は、現在、アメリカやイギリスではなく、シンガポールに住んでいる。
⑤激変する教育
世界のどの国においても重要な課題であるのが「教育」。
未来を作り、切り開いていくのは教育であるからだ。
1:優秀な大学
ジム・ロジャースはアメリカやイギリスの大学へ全く期待していない。
アメリカのハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学。イギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学などこれまでは、素晴らしい大学であった。
これらの大学は勢いを完全に失っており、アメリカやイギリスに留学するべきではないとしている。
それは、これらの大学の教授のシステムが完全に腐敗しているから。数年間、第一線で活躍した教授は、大きなスキャンダルを起こさない限り、終身雇用される契約が多くの大学で見られる。
ジム・ロジャースは、終身雇用に対して完全否定しており、終身雇用は、保身のための既得権益が、教授たちの間ではびこっており、一切新陳代謝が無いそうだ。
さらに、高給取りなのだという。
ハーバード大学、スタンフォード大学などに利権がはびこり、イノベーションの可能性は一切ないとバッサリだ。
教育機関でイノベーションがあるとすれば、最も勢いのある国の大学であるとしている。
かつては、ポルトガルが世界の覇権を握っていた時代、ポルトガルの大学が世界一優秀という事実があった。
つまり、世界の覇権が変われば、世界で最も優秀な大学も変わる。
これから世界で最も優秀な大学になると目されているのは、中国の「清華大学・北京大学」だという。
2:オンライン授業
現在の腐敗した大学の教授は、一気に淘汰されていくと述べており、それは、オンライン授業の普及によるものだそうだ。
5Gなどのデジタル技術の推進や、コロナ禍の影響によって、オンライン授業の普及はより推進されていく。
これまでは、クオリティにばらつきのあった多くの教授達がいて、生徒は先生を選ぶことが難しい環境でもあった。
オンライン授業の普及で、教える事に優れた先生がいれば、1人で同時に多くの生徒を教える事が可能になる。そのような優れた教育スキルを持った先生がこれからは、大きな対価を得ていく事になる。
それ以外のほとんどの教員が淘汰されていくとしている。
3:教育の中心
これから最も重要になってくる言語教育は、「中国語・英語」だという。
イギリスは英語圏というカルチャーでギリギリ成り立っている。
イギリスは多くの借金を抱え、競争力のある産業を失い、BREXITによって、EUから爪弾きにされ、国内の分裂も激化するとし、期待できる要素がないと指摘。
英語がイギリスを繋ぎ止めている。
これからくる中国語。
ジム・ロジャース自身、シンガポールに住みながら、自分の子どもたちに中国語教育を行っており、実際、自らも教育に力を入れている。
4:金融・投資
金融と投資についても必ず学んでおかなければならない分野とし、お金について学ばないものに、お金はついていかないからだという。
企業のバランスシートを読み解く力の必要性を説いている。
バランスシート、貸借対照表。会社の健康診断表ともいわれ、基本的ファイナンシャルリテラシーを身に着けるということだ。
何をやっているか分からない投資家が余りにも多いからだという。
ほとんどの投資家は、ギャンブルをするように投資をしている人ばかり。投資というのは、甘くない。地道な長い勉強の成果が必要とのこと。
そのため、語学や金融に対する教育はマスト。
その上で、次にくるビジネスやトレンドをしっかり予測できる目を養う事の重要性をとなえ、それは、ブロックチェーンやマリファナだという。
ブロックチェーンは、ビットコインなどのデジタル通貨などに応用される最新技術である。
ブロックチェーン:「2つの当事者間の取引を効率的かつ検証可能で恒久的な方法で記録することができるオープンな分散型台帳」である。分散型台帳として使用する場合、ブロックチェーンは通常、ピアツーピアのネットワークによって管理され、ノード間通信と新しいブロックの検証のためのプロトコルに準拠している。一度記録されたブロックのデータは、後続のすべてのブロックを変更しない限り、遡及的に変更することはできない。ブロックチェーンの記録は変更不可能ではないが、ブロックチェーンは設計上安全であると考えられ、高いビザンチンフォールトトレランスを持つ分散型コンピューティングシステムの例とされている。したがって、分散型コンセンサスがブロックチェーンで主張されてきた。
ブロックチェーンの特徴:
①デジタルデータの変更、削除、改ざんができない
②ダウンすることがない
③中央集権に頼らないネットワークを可能にする
④トラストレスな社会を実現する
⑤低コストを実現する
⑥高スピードを可能にする
マリファナは世界的に解禁が進んでいるという。マリファナがなぜ禁止かという事は、歴史を紐解けば理解できるという。
マリファナが禁止された経緯は、毒性の強さによるものでなく、実は、パワーバランスだった。
新聞王といわれた男が、自分の新聞が有利になるためにマリファナを規制したことと、FBI初代長官が法規制に関わった経緯があるという。
マリファナを禁止に追い込んだ2人のアメリカ人
1900年代初頭当時のアメリカには、最大30社もの新聞社を傘下に抱えた「新聞王」の異名を持つハーストという人物がいた。
ハーストは、メキシコ革命で自身の土地を取り上げられた経験や、新聞紙の材料であるパルプ産業を麻産業が脅かすのではないかという私情があり、メキシコ人が好むマリファナを目の敵にしていた。
そのような事情があり、彼は自身の新聞社を使い大々的なマリファナのネガティブキャンペーンを行った。
ハリー・アンスリンガー:FBN(アメリカ連邦麻薬局)初代長官。
アンスリンガーは「禁酒局」に所属し、禁酒法をかいくぐり酒の密輸の摘発を推し進めていた。
しかし禁酒法は20年足らずで撤廃され、次に配属されたのが「麻薬局」。
彼は、ヘロインやアヘンより使用者が多く、功績を挙げやすいマリファナに目をつける。
そして、マリファナを使って事件を起こした人の例を集め、これまた各メディアを使いネガティブキャンペーンを実施した。
結果、アンチマリファナキャンペーンは世論から連邦麻薬局に波及し、1937年にはマリファナ税法が成立。
連邦麻薬局はこの法律を盾に製薬会社に圧力をかけ、1941年、アメリカ薬局医薬リストからカンナビスが除外される、実質的に禁止となった。
マリファナに比べ、毒性はアルコールの方が高い。それは禁酒法においても明らか。
そんなことは、既存の新聞・テレビなどのメディアでは一切報道しない。
それは、アルコールを取り扱う飲料会社が大きなスポンサーであるためで、利権が強く影響しているからだ。
世界では、ブロックチェーンやマリファナは破壊的なイノベーションを起こしつつある。
5:歴史・哲学・数学
かつて持てはやされた、MBA。ハーバード大学でMBAを取得すれば安泰という時代はとうの昔に終わったそうだ。
経営学修士(Master of Business Administration、MBA):経営学を修めたものに対して授与されることのある学位。
ハーバード大学が一番のトレンドでもなければ、MBAは何の役にも立たないと指摘。
ジム・ロジャースが提言する、最も大事な教科は、「歴史・哲学・数学」であり、この教科を学び、未来を予測してきたのだという。
哲学は、人は何のためどのように考え、どのように生きていき、動くのか、それが分かると人間の動きが理解できてくる。
数学は、お金に繋がる。
歴史・哲学・数学を用いて、未来や人を見て、お金を見れる力を養い、今後をサバイブして欲しいと述べている。
今後訪れるであろう、とんでもない危機、とんでもない変化。それはかつてないほど大きな変化と我々は感じるかもしれないが、歴史上何度も繰り返し起きてきた急激な変化である。
激変に備えてサバイブする武器を学ぶことで、自らの知恵で生き抜いていく事が重要と警鐘を鳴らしている。
現在、1ヵ月や1週間、明日の事も不透明な世の中。
私自身、どのように生き抜いていくべきかを少しでも吸収していきたいと感じた一冊であった。