【有馬純】G7気候・エネルギー・環境大臣会合について

今朝IEEIにアップされた有馬先生の論考。
自分も含め日経新聞に踊らされる企業人、今回も必読です。忘れないようにメモしておきます。

他方、エネルギー資源が乏しく、土地が狭隘であり(→太陽光の受け入れ能力に影響)、海が深く(→洋上風力の受け入れ能力に影響)、近隣国との連系線もない日本はG7の中でも際立って不利な立場にあり、お花畑的な再エネ万能論や数値目標に乗っかれば経済やエネルギー安全保障に悪影響が出る。こうした中で日本の国益を損なうことなく共同声明を作り上げることは大変だったに違いない。共同声明を読むと日本は非常によく頑張ったと思う。

ウクライナ戦争によって石炭依存を高めたドイツが居丈高に他国に石炭フェーズアウトを迫るなど、偽善以外の何物でもない。

日経新聞などは「石炭のみならず天然ガスについても段階的廃止」という点を強調している注2) が、共同声明の文言は「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」(パラ49)というものであり、G7諸国が2050年カーボンニュートラルを目指していることを言い換えたに過ぎない。見出しにすべきは「天然ガス投資の重要性を認識」とすべきであり、日経新聞の報道は本質を見誤っている。

再エネについてはG7全体で洋上風力150GW、太陽光1TWという数値目標が盛り込まれた(パラ64)が、同時にクリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点(パラ65)、再エネやEVに不可欠な重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済上、安全保障上のリスク(パラ66)についても指摘されている。「再エネコストが下がった。従来の電力技術と十分競争可能」という言説はウイグルの強制労働を使い、生産工程で石炭火力を使う中国製パネルに負うところが大きい。

日経新聞は数値目標に関する議論を特筆大書し、「EVの導入目標や石炭火力の廃止時期など日本は共同声明の随所で数値目標の設定を拒み続けた。議長国ながら米欧が求める意欲的な脱炭素目標に抵抗する場面も目立った」注4) と批判しているが、筆者の見解は全く逆だ。環境原理主義者ケリー特使が幅をきかす米国と、みるべき製造業基盤をもたない英国、ダブルスタンダードお構いなしのドイツ等を相手に、エネルギーの現実を踏まえた合理的な着地点を見出したこと、無意味な数値目標を盛り込まなかったことは、立派であったと思う。環境原理主義者は空虚な数値目標に拘泥するが、これは京都議定書時代のマインドセットと全く変わらない。上記の日経新聞の記事はそうした愚かな思い込みに基づくものであり、「欧米では~」という出羽守的でしかない。気候変動エディターなるものが出現して以来、日経新聞の気候変動関連記事のクオリティが朝日、毎日、東京レベルに劣化していることは嘆かわしい限りである。

新聞報道では「2035年60%減という数値目標を書き込んだ」とあるが、原文は「We highlight the increased urgency to reduce global GHG emissions by around 43 percent by 2030 and 60 percent by 2035, relative to the 2019 level, in light of the latest findings of the IPCC」(パラ44)である。これは、そうした数字を含むIPCC報告書の指摘の緊急性をハイライトするというものであり、G7の2035年目標をプレジャッジするものではない。

今回のコミュニケでは「2025年全球ピークアウト」や新興国を念頭に「1.5℃目標と整合性を保つべく、2030年目標を見直し、2050年カーボンニュートラルをコミットすることを求める」(パラ46)とあるが、中国が2030年ピークアウト、インドが2030年以降も排出増を見込んでいる中で、グローバルに2025年ピークアウト、2030年43%削減など絵にかいた餅でしかない。


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