RRRの話。キャサリン夫人の言動、スコット総督の人となり、ジェニーの立場などイギリス人側について思ったこと色々。

2023/5/1にふせったーに書いた考察です。
※個人の考察なので勝手な幻想見てんな~このオタクぐらいでとらえて貰えると幸いです。


【何故キャサリンはマッリを奪ったのか】

バーフバリのあらすじとマガディーラの本編を見て、ラージャマウリ監督って徹底して「奪うこと」を悪役の役目として演じさせてるな、と私はなんとなく感じていて。

RRRでそれがもっとも分かりやすいのがキャサリンがマッリを母親から奪う、という行為なんですよね。
物語のはじまりがそれであることから考えても、これは許されないことなんだと痛いほどに表現している。

で。ビームがマッリとの檻越しの邂逅のあとに言う言葉が
「なぁ、白人も子供を産むよな?」
「だったら痛みが分かるはずだよな?」
「あいつらには人の痛みも涙も分からないんだ」
じゃないですか。

ここで気になったのがですね。
スコット総督とキャサリン夫人の間に子供がいるような描写がない、ということです。
あの年齢であれば、ひとりやふたりいてもおかしくないのに、いるのは姪のジェニー。娘ではなく姪。
だからこれはビームの言葉を逆説的に見ると、
「キャサリンは子供を産んだことが無い(もしくは産めない)ので、子を奪われた母親の痛みは分からない」ということなのかな、と。


【キャサリンはどういう人生を送って来たのか】
それを踏まえるとキャサリンの言動に納得がいくんですよ。
子供がいて、育ちきっていてもおかしくない年齢なのに、わがままな生娘なような、子供のような残虐性がある言動なんですよ。

おそらくは今の総督の妻という立場を考えると、いいとこの娘で、望んだものが手に入らなかったことがないのでしょう。
そんなキャサリンが望んでも得られなかったのが自分の子供、そして母になることだったのではないか。
あの言動は、母ではない→体も心も未熟で子を産める女性ではない。という暗喩、ともとれるかもしれないですね。
故にマッリをどうあっても手放そうとしなかったのかな、と。

時代的に考えると今以上に男尊女卑は酷かったでしょうし、そんな中で総督の妻でありながら後継ぎを産むことが出来ない女性って、世間から見たら価値が無いように見られてもおかしくはないんですよね。それはもう本国では屈辱的な思いをした可能性もあるわけで。

その証拠、になるかは分かりませんが、スコット総督が本国に帰国する際妻でありながら同行していないんですよね。キャサリンにとってイギリスは帰りたくない、帰れない、居場所がない、そんな場所だったのかもしれません。


【総督夫婦の関係について】
RRRの悪役として描かれているこの夫婦、夫婦間の関係はすごく良いことが感じ取れますよね。
特にスコットからのキャサリンへの言動が甘いこと。
この時代には珍しいかもしれません。それも、子を産めない、妻としての役割を果たせない女性に対して。

英国領インド帝国で、スコットは彼女の居場所を作ってあげたかった。
子を望んでも得られなかった痛みや悲しみ、それゆえの屈辱を見ていたから、一番欲しいものは手に入らないから、なんでも与えてあげたかった。

キャサリンの遺体を見て、何故だ!というスコットの悲痛な叫び。あれがどれだけスコットにとってキャサリンが大事な存在だったかが込められてると思います。
冷酷非道な総督も、キャサリンにとっては愛情深い夫だったんでしょうね……。


【総督夫婦とエドワードの関係について】
ジェニーを除けばエドワードが一番総督夫婦に近しい存在ですよね。おそらく側近的な存在というか。

物語のはじめのシーン。
キャサリンの手にヘナアートを施すマッリを、エドワードがめちゃくちゃ微笑みながら見てるんですよね。それはキャサリンが得られなかった子供とのあったはずの光景をそこに見ている、だからああいう風に微笑んでいるのかなと。

なんでそういう優しく微笑むことが出来る感性があって、あんなことができるんだ……とも思ってしまうんですが、それでもエドワードはエドワードなりに、総督夫婦を優しく側で見守っていたんだろうなと感じました。


【ジェニーの立場について】
邸宅でのジェニー立場について。
ジェニー、そういえばほとんど総督夫婦との会話は無いんですよね。
せいぜい同じ場にいてビームの鞭打ちを見てたくらいというか……。

ジェニーは娘じゃなくて、姪なわけです。無邪気な姪がただ植民地のインドに遊びに来ているのか?というわけではけして無いんですよね。
ジェニーははっきりと、家らしくない、と居心地の悪さを口にしているから。

ジェニーの趣味は絵画です。さらっと出てきますがはっきりと描写されています。
芸術を得意とし、居心地の悪い総督邸にいる、と言えば、マッリと同じで。
ジェニーはマッリに同情しているように見えます。
マッリがビームからのバングルを見て涙ながらに抱き着くシーンの、ジェニーの表情が、ただただ囚われのかわいそうな少女を哀れむ、よりも深い悲しみがあるように、私には感じて。

ジェニーも、マッリと同じようにキャサリンの望みによって親元から引きはがされてインドにやってきたのかもしれません。ジェニーのような心優しい女性が愛情を受けず育った、とは考え辛いなと私的には思うので……。

それを考えると、ビームに協力したジェニーの行動にも納得がいくんですよね。
自身もあの場所に囚われているのだと、あんなところにもういたくないのだと。
マッリを救う使命を持ったビームにジェニーが惹かれたのは、そんな理由があったのかもしれません。
ED後はビームと結ばれてほしいけれど、きっと彼女は愛する両親のいる元へ帰ったんじゃないかな。それこそマッリと同じように。

ジェニーとマッリが芸術に秀でているのは、生み出す力がある女性、母となれる女性としての暗喩かもな~なんて思ったりもしました。


【インドに来た英国人達について】
彼らは徹底してインド人を下に見て、差別をする描写がされています。

特にわかりやすいのはロバートでしょうか。何をそんなにイライラしてるのか、溜まった鬱憤を晴らすが如くアクタルに当たり散らします。

そして自分達は大英帝国の人間だ。白人だ。褐色人種とは違う。そんな主張もしています。

それを当たり前に思っているならば、態々主張する必要は本来無いはずなんです。
だからこれは、ただふんぞり返っているだけではなく、自分達の人権の主張なのではないか、と私は思うんですね。

下には下がいるように。上には上がいる。

植民地のインドにやってきたイギリス人達は本国で同じイギリス人に差別をされていた、そんな可能性もあるはずなんですよね。
だって、インドがそもそもそうなんですよ。
こんなにもイギリスに虐げられてきて、痛みを知っていて、それでもなおカーストの影響は無くならない。
痛みを知っているから人に優しく出来る強い人間って、そんなに多くなくて。
自分を被害者だと思ってるから、もう嫌な思いをしたくないから、残酷になる。そんな人がきっとたくさんいて。

差別や戦争や支配がなくならないのは、人間のどうしようもない弱さゆえなんだな、と感じて、そこはかとなく悲しくなりました……。

そしてどんな痛みや悲しみや屈辱があろうとも、略奪という行為は許されない。
そんな監督の主張も感じました。

だからこそ、自分の大事なものを手放すことが出来たり、同じ痛みを知るものに優しく出来るビーム、ラーマ、シータ、ジェニーって気高く強い人間なんだな、と改めて思いました。

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