マニアック歴史経営③(強みが招いたシュメール文明の崩壊とビジネスモデル_2)
2000年間もの長きに渡って文明を維持したシュメール社会は、農耕文化という最初の強みを出発点として、何度もビジネスモデルをアップグレードして繁栄したとてつもない長寿企業と見立てることができるかもしれません。乾燥した大地と氾濫を繰り返す厳しい自然環境という逆境を、灌漑農業という技術革新によって乗り越えた、ジョブズやマスクもびっくりのハイテク文明でした。
さらにその過程で培った組織力や管理力をさらなる強みとし、都市建設や軍事にも応用していきます。中央集権的な余剰農産物の再分配システムは、階級や職業の多様化に繋がり、周辺地域からの移住者を吸収しながら都市のダイナミズムが生み出され、文字や法律が発明されていきました。
一方で、自己完結する都市国家であったがためにここまで繁栄したものの、強大な軍事力が必要とされる領域国家の時代に入ると、シュメールの都市群は、安定した統一国家をつくることができず、また繁栄の基盤である高い生産性を誇った農業への塩害の影響もあり、衰退・滅亡することとなりました。
◆シュメール文明とコアコンピタンスの変遷
➡︎「肥沃な三日月地帯」である北メソポタミアで最古の農耕文化が誕生
➡︎ 人口増加に伴う食糧や耕作地不足のために、農耕に適さない南メソポタミアに進出(強みは農耕文化)
➡︎ 砂漠気候で氾濫と沼地が多いティグリス・ユーフラテス川沿岸地域で、灌漑農業を生み出す(強みは組織力)
➡︎ 農作物の集中管理・分配システムによりさらに大規模化、文字の発明(強みは管理力)
➡︎ 階級や職業の分化による多様性が都市発展のダイナミズムを生み出す(強みは都市の社会制度)
➡︎ 都市国家から抜け出せず、農業の生産性も低下し衰退、滅亡(弱みは農業と都市の社会制度)
人類史上最も偉大な文明と言っても過言ではないシュメール文明と、設立後7年目も経たず、50名にも満たない自社と比較するのは恐れ多い気もしますが、強みを生かした新規事業やビジネス・モデルの強化、という視点は、強く意識しているポイントです。
私が経営する会社のコアコンピタンスは、人材紹介事業で培った①人材の採用力と、そのことによって実現した②強い営業チーム、でしょうか。ミャンマー社会では営業職のイメージが極端に悪く、優秀な人材が営業を志望しないことに加え、営業を極めるといったマインドセットほぼ存在しないために、優秀な人材でモチベーション高く営業チームを組める、というだけでも大きな強みになるというミャンマー特有の背景があることも大きいと言えます。
一方で、シュメール文明における灌漑農業とそれに伴う強烈な組織・管理力のような強みなのかと言えば、全くそのレベルではないので、この2つの強みを徹底的に磨いて、その上に新規事業や、既存ビジネスモデルの更新を積み重ねていかなければいけない、と強く感じています。
◆Dream Job Myanmar 社の事業の変遷
➡︎ 求人サイトの開発・提供
➡︎ 求人サイト撤退(無料化)、人材データベースを利用し人材紹介へ転換
➡︎人材紹介の知見を生かし、日本語・職業訓練校を設立
➡︎ 人材紹介の顧客・営業基盤を生かし、Saas型の労務・勤怠管理システムを販売
➡︎ 同様に、Saas型の会計管理システムの提供
➡︎ これまでの顧客・営業基盤を生かし、デザイン事業を開始
最後に、シュメール文明が衰退・滅亡した理由から、自社の事業が消滅する可能性も考えてみたいと思います。前回の記事でみたように、シュメール衰退の原因は大きく2つありました。それはともにシュメール文明が繁栄した理由であり強みそのものであったというのですから、歴史の皮肉と言うしかありません。
一つは、強大な領域国家の時代へと移行する中で、自己完結した都市国家のあり方から抜け出せなかったこと。もう一つは、塩害によって農業生産性が低下したと考えられること。歴史に「もしも」はありませんが、シュメール都市国家群で争うことなく団結し、強力な国家を作ることができれば、農業生産性の低下を補いながら、もう少し長く繁栄をすることができたのかもしれません。このことからは、自社については、何が言えるでしょうか。
1つ目の強みである人材の採用力については、その前提としてミャンマーにおけるFacebookの存在があります。詳しい説明は省きますが、ミャンマー人の「インターネット=Facebook」という認識と行動パターンが変化すると、我々の採用力の源泉が失われることになります。すると、それに伴う強い営業チームの拡大も不可能となり、その基盤の上で成り立つSaasプロダクトやデザインサービスの販売も難しくなるのですから、もはや会社存続の危機と言えます。
ミャンマーの環境に適応してFacebookを攻略(100万「いいね」以上)したことで得た強みが、将来の事業存続の究極の弱点にもなり得る、という事実は、古代シュメール文明の繁栄と滅亡のパターンを自社に当てはめたからこそ、より一層クリアな課題として見えてきた学びです。
繁栄の基盤そのものを脅かすルールチェンジが起こった時には、繁栄を支えた強み自体が弱みになり、そのことに気づき対応できなければ消滅する。。。2012年にデジタライゼーションの波に飲まれ倒産したコダックと華麗な転身を遂げたフジフィルムの例は有名ですが、コダックはルールチェンジ自体には早くから気づき、もがいていたようですから、気づくよりもビジネスモデルを一新することの方が圧倒的に難しい、ということでしょう。
10年ほど前、イラク国境に近いシリアにあるシュメール時代のマリ遺跡を訪れたことがあります。「マリ文書」と呼ばれる25000枚もの楔形文字が刻まれた膨大な数の粘土板が見つかった貴重な遺跡です。遺跡を散策した記憶を思い出しながら、2000年に及ぶシュメール文明の繁栄を築いた灌漑農業と都市化という技術革新の偉大さを思うと、ため息が漏れます。私自身はミャンマーに来てわずか6年目、、、頑張らないといけませんね。
カバー写真:Mariusz MatuszewskiによるPixabayからの画像