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あの夜からの『膝枕』外伝

はじめに

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】とその スピンオフとして書かれた【占い師が見た膝枕】をつなぐ私なりのスピンオフとして、許可をいただいて書いております。

Clubhouseで #膝枕リレー  という企画が次々と上がっている中で、朗読だけでなく、リレー加筆があってもよいのではないかと、僭越ながら、私きぃくんママが、サトウ純子さんのスピンオフに重ねて二次創作を試みた記事です。

まずは先の2作品をお読みいただいた上で、お楽しみくださいますよう、お願い申し上げます。


きぃくんママ作 あの夜からの『膝枕』外伝

「ダメヨ ワタシタチ ハナレラレナイ ウンメイナノ」

それは夢だった。

雨のごみ捨て場で濡れそぼった箱入り娘膝枕は、ダンボール箱に梱包されたまま、男の元に帰った夢を見ていた。

「ドンナニ ガンバッタトコロデ ワタシハ カレノ ヘヤヘモドル シュダンガナイ。

 ワタシハ ショセン ヒザマクラ」

膝枕シリーズは、ユーザーの膝枕となる以外の機能を持たないのがお約束であった。

正座の姿勢は崩せず、この足は決して立って歩くことが出来ないのだ。

せめて、ダンボール箱に閉じ込められていなければ、全力でにじりにじり動くことも出来た。

「タ ス ケ テ……」

激しく雨が叩きつけるダンボールの中で、段々しみいってくる雨と傷だらけの膝小僧から滴る自らの血とで、赤黒く染まったスカートの裾のレースが太ももに張り付いて気持ち悪い。

憔悴しきった箱入り娘膝枕は、祈るような気持ちで、愛しいあの人をこの膝に乗せたまま、一つになる夢を見ていた。男の頬は箱入り娘の膝枕に沈み込んだまま、吸い付くように一体化していった。互いの皮膚が溶けてくっついていく…

「ソウヨ ワタシタチ ハナレラレナイ ウンメイナノ」


薄れゆく意識の中、雨のゴミ捨て場に一人の人影が立ったのが分かった。

「アァ カレガ ヤット ムカエニ キテクレタ」

次の瞬間、箱入り娘膝枕は、ゾッとした。持たない背筋が凍るようだった。

通りがかったのはある占い師。なぜか、にっくき「ヒサコ」の気配が漂う。

占い師はヒサコのスマホを手に、吸い寄せられるようにゴミ捨て場へとたどり着いたのだ。

「まったく、、、今夜はサイテーだ」

占い師の本日の営業は最悪だった。

鑑定所を開ける前から厄介な一人の客が待っていた。
その客、ヒサコという女は、気味悪い正座をした下半身だけのおもちゃの画像を突き付けて、わけのわからないことを口走り、鑑定料も払わず、いなくなってしまった。

夢ともうつつとも思えない、自身の腰をノコギリで切り落とす、常軌を逸した残像と、このスマホを残したまま、一瞬のうちに忽然と姿を消してしまったのだ。

あれは夢だったのか?いや、自分の手元には彼女が忘れていったスマホ。

その後、客足はパッタリと止まったまま商売上がったりである。
雨の日は人通りが少なく、客の入りが少ないのは常であるが、今日のように売り上げゼロなんてことは占い師として独り立ちしてから今まで一度たりともなかった。

これは星のせい。今は水星が逆行しているのだ。

混乱した頭を整理できないまま、占い師は月も星も見えない雨の帰路で、いつの間にか、とあるゴミ捨て場の前に立っていた。

カタカタカタ
カタカタカタ

びしょ濡れになったダンボール箱の中に何かが居る。

「捨て猫でも閉じ込められているのか?」

占い師は急いで駆け寄り、そのオーブンレンジでも入っていそうな大きさのダンボール箱を封じたクラフトテープをひっぺ返してその中を覗き込んだ。

「アッッ」

とっさに身を引いた占い師は尻もちをつく。

何と

そこに入っていたのは、血だらけの膝。
腰から上を切断したヒサコの?それともヒサコが鑑定を依頼した画像に写っていた、あのおもちゃ?

占い師は自分の膝がわなわな震えているのを感じながら、ただ茫然と座り込む。
歩きながら左手に持っていたヒサコのスマホは、そのダンボール箱の中へと滑り落ちていた。

小一時間経った頃であろうか?いや、たった5分だったのかもしれない。

雨はやみ、ふやけたダンボールの中から、女の影がムックリと立ち上がった。

それはヒサコ?いや、豊満な上半身にしては、えらく華奢な足つきだ。

占い師には何が何だかわからなかった。

そうだ!これは星のせい。今は水星が逆行しているのだから。

雨上がりの空が白々と明けてゆく。

男好みの膝を手に入れたヒサコは、いや、人間の上半身を獲得した箱入り娘は、意気揚々と男の部屋へと向かった。

チャイムを押したが応答はない。
ドアノブに手をかける。
カギはかかっていない。
ヒサコは、いや、箱入り娘は、慣れた部屋に入った。
部屋の中は血のにおいが充満していた。
男のベッドに近づいてみると、そこに右側を下にして横たわる男の頬から枕に血がにじみ出していた。
枕元にはナイフ。
男は自身で頬を傷つけたらしい。

「大変!すぐに救急車を呼ばなくちゃ!」


あの後、何処をどう歩いたのか記憶がない。
占い師は自分の部屋に帰りつき、這いつくばるようにベッドにたどり着くや否や、泥のように眠りこけていた。

占い師は、チャイムの音で目を覚ました。

ドアを開けると、宅配便の配達員がダンボール箱を抱えて立っていた。オーブンレンジでも入っていそうな大きさだが、受け取りのサインを求められた伝票には「枕」と書かれていた。

「枕?」

いぶかし気に、占い師は首を傾げた。

「受け取ってもらって、いいっすか?」

配達員にせかされた占い師は、身に覚えのない荷物を取りあえず受け取り、「取扱注意」のラベルの下に小さく記載された商品名らしき文字を目を凝らして確認した。

体脂肪40%、やみつきの沈み込みを約束する「ぽっちゃり膝枕」

占い師の顔からツーっと血の気が引いた

つづく、

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