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マーケティングコンテンツデータ基盤:SmartHRで実践する顧客理解と最適化の仕組み

こんにちは!SmartHRのブランディング統括本部(マーケティングとコミュニケーションデザインの組織)でデータアナリストをしているキューピー(@kewpie_wada)です。

今回はSmartHRで実践しているマーケティングコンテンツを活用した顧客理解と事業/施策最適化の仕組み「マーケティングコンテンツデータ基盤」についてまとめてみました。

🏖️こんな方にオススメ🏖️

  • BtoBビジネスの営業組織(マーケティング・セールス)に携わる方

  • データ利活用推進に興味がある方

  • SmartHRのマーケティングデータアナリストに興味がある方


マーケティングコンテンツデータ基盤とは?

マーケティングコンテンツデータ基盤は、全てのマーケティングコンテンツのデータを統合して制作・マーケティング・営業活動で活用するための仕組みです。

マーケティングコンテンツデータ基盤のイメージ

具体的には次のようなシステム群・運用スキームの集合体です。詳しくは後述します。

マーケティングコンテンツデータ基盤の全体像

4つの目的

マーケティングコンテンツデータ基盤には4つの目的があります。

  • 顧客理解:顧客の検討状況や興味分野の推定

  • 戦略:事業領域やプロダクトを軸とした費用対効果の可視化

  • 戦術:顧客とのコミュニケーション改善

  • 制作:定量分析によるコンテンツ制作の改善

なかでも最重要と位置づけている「顧客理解」について補足します。例えば、とあるお客さまのコンテンツ接触履歴があるとします。

未整備のコンテンツ接触履歴

全く整備されていない場合、それは単なるコンテンツ名の系列です。表記揺れがあったり、データソースが分離していることさえあります。これではコンテンツ内容をよく把握し時間をかけてN1分析をしないと有益な解釈ができません。

整備後のコンテンツ接触履歴

一方、全てのコンテンツデータが統合され適切なタグ付けがされていれば、包括的な解釈をすることができます。これはマーケティングの1:Nコミュニケーションにも、セールスでの1:1コミュニケーションにも有益な示唆を与えることにつながります。

5つのコンポーネント

マーケティングコンテンツデータ基盤は大きく5つのコンポーネントで構成されます。

5つのコンポーネント
  • コンテンツの一覧化:全ての種類のコンテンツを同じ形式で一覧化する

  • タグの一覧化:あらゆる情報を集約してコンテンツのタグとして一覧化する

  • コンテンツとタグの対応付け:一定の基準でコンテンツにタグを付ける

  • コンテンツ情報の統合:全ての情報を1つに統合します

  • 名寄せ:MAツールやCRMツールなどのデータを紐付けるための表記揺れの解消

5つの原則

マーケティングコンテンツデータ基盤がその目的を果たせるように、5つの原則を定めて設計・開発・運用しています。

5つの原則
  • 網羅性:全てのコンテンツデータを統合する。

  • 適切性:目的と合致している。

  • 統一性:時期や種類に寄らず横断的に対応できる。

  • 柔軟性:将来の変化にあわせて柔軟に拡張や変更ができる。

  • 保守性:持続的に維持管理ができる。

このうち適切性・柔軟性・保守性について補足します。

▼柔軟性
次のことをできるだけ簡単にできるようにしておきます。

  • 種類の拡張
    扱うコンテンツの種類が増えることは十分あり得ます。例えば、SmartHRではプロダクトデモは比較的新しいコンテンツ種類になります。また事業が成長すれば必要な集計軸も変わっていくでしょう。それはタグ種類の拡張を意味しています。

  • 値の変更
    例えば機能名変更があったときにタグ値を簡単に変更できることが望ましいです。またコンテンツの名称の変更など、現場で起こり得る事象に対してデータ基盤側が影響を受けないようにする必要があります。

▼保守性
持続的な維持管理のポイントは次の2点です。

  • 自動化
    データの収集や加工など、人手が必要がない作業は自動プログラムで処理をします。一方、重要な判断材料となるタグ付けは人の目で確認するなど、必要に応じて使い分けをします。ただし昨今のAIの広がりから、タグ判定の自動化は今後も最も伸びしろがある部分だと考えています。

  • 適度な分割
    データ管理の基本かもしれませんが、適度にコンポーネントを分割して適切な担当者やチームに管理や運営のオーナーシップを持ってもらうようにします。

コンテンツの一覧化

マーケティング・営業活動で使用するコンテンツの種類は多岐に渡ります。主なものとしては次のようなものがあると思います。これら全てを統一の形式で一覧化します。

  • ホワイトペーパー

  • 動画

  • イベント

  • プロダクトデモ

  • サービスサイトページ

  • 事例記事

  • オウンドメディア記事

  • ヘルプページ

理想としては、データの入り口の部分から全種類のコンテンツが一元化されたシステムで入力されることだと思います。

理想的なコンテンツ一覧化のプロセス

ですが正直に言うと、これはまだ実現できていません。現状は種類毎にマスタを作り、自動処理で統一の形式に加工して連結しています。

現状のコンテンツ一覧化のプロセス

こうしている理由はもともと別々に管理しているマスタの運用を即時に移行することができなかったためです。分業化が進んだ組織ならではの課題かもしれません。この点は現在改善を進めています。

タグの一覧化

タグの目的は意味のある粒度での集計を実現することです。タグがなければ集計はコンテンツ名や種類を軸にしたものになります。一方タグがあれば意思決定に必要な粒度に調整することができます。

タグの目的

一例としては次のようなタグがありますが、どのような意思決定をするかによって必要なタグは変わっていくでしょう。(※値は実際とは異なります)

  • 目的:機能、事例、啓発…

  • 事業領域:タレントマネジメント、労務管理…

  • 訴求機能:人事評価、スキル管理、IdP、年末調整…

  • トピック:静かな退職、組織開発、人事制度…

タグマスタを構築するうえでのポイントは次の2点です。

タグ一覧化のプロセス
  • 元のマスタを種類毎に分けるか、既存マスタにタグIDを入れる。
    タグ種類毎に管理者を割り当てることができたり、既存のマスタをタグで使用することができます。特にコンテンツの内容を表すタグの管理は制作メンバーの専門知識を必要とするため、必ずしもデータアナリストが管理すべきではないと思います。

  • 別種類のタグを自動の連結処理で1テーブルにする。
    タグの種類を増やしたい場合は、マスタを作って連結処理に追加するだけなので、既存の別種類のタグ管理が影響を受けることがありません。これが柔軟性です。

コンテンツとタグの対応

コンテンツとタグの対応付けはToxi法というテーブル設計手法を採用しています。これはコンテンツとタグのマスタとは別に、コンテンツとタグの対応関係1つ1つを1レコードで表すテーブルを作る手法です。つまり、多対多の関係であるコンテンツとタグの対応を縦持ちの形式で持たせるということです。

タグ付けのテーブル設計:Toxi法

タグの種類が増えたとしてもテーブル構造を変えることなく、レコードを増やすだけで対応ができます。こうした設計がシステムの柔軟性につながります。

タグ付けでは、判定揺れをなくすために次のプロセスを運用しています。

タグ付けのプロセス
  • タグ判定ルール
    各コンテンツ種類×各タグ種類の判定方法を出来るだけ具体的に定めます。また過去の判定例を多く掲載し、メンバーが迷ったときに参照できるようにします。

  • ゲートキーパー制
    制作担当/施策担当が付与したタグをゲートキーパーと呼ばれるメンバーが定期的に確認しています。ゲートキーパーは判定ルールを最もよく理解しており、全てのコンテンツに目を通しているメンバーになります。

一見手間がかかるように見えますが、タグ判定はマーケティングコンテンツデータ基盤の心臓部であり、データの有用さと信頼に直結する重要な要素です。手を抜かない方が良いと考えています。前述の通り、効率化のためにタグ判定ルールをプロンプトに活用したAIなども開発を進めています。

名寄せ

MAやCRM、Webサイトなどから取得できるデータは、必ずしもコンテンツマスタにそのまま対応付けることはできません。(当然はじめから対応付けができるような仕組みが理想だと思います。)例えば、次のデータをコンテンツマスタに対応付ける必要があります。

  • MA/CRMツールで記録される施策名

  • WebサイトのURL

  • 外部メディアから購入したリードの閲覧コンテンツ名

こうした問題を解決するために名寄せは次のプロセスを採用しています。

名寄せのプロセス
  • 表記揺れ防止ルール
    まず第一に表記揺れが発生しないようにMA/CRMツールの運用を工夫します。また外部メディア等から受け取るデータについてもお願いできる範囲で協力を依頼します。

  • 名寄せ対象の自動検出プログラム
    ルールで防止しても表記揺れは発生するものです。それらは出来るだけ自動処理で対処します。自動処理プログラムによって、名寄せが必要な値を検出と名寄せ先の候補の提示を行います。

  • 名寄せ担当
    自動処理プログラムの結果をもとに定期的に人力で名寄せをします。当然この作業がゼロになることが理想ですが、はじめから完璧を求めずに徐々に改善していくという考えで進めた方が良いと思います。

コンテンツ情報の統合

ここまで説明してきたものは言わば土台です。最終的にはコンテンツデータを組織全体で使える状態にしていきます。管理者以外のメンバーから見えるのはこのセクションで説明する部分になります。

Toxi法の3テーブル(コンテンツマスタ、タグマスタ、コンテンツとタグの対応一覧)自体も集計に使えますが、それらを結合したコンテンツ統合テーブルを作っておきます。

コンテンツ統合テーブル

テーブル構造はコンテンツ単位で、タグを種類毎にカラムで持たせています。次のような用途があります。

  • 各テーブルのコンテンツ情報セット(後述)を簡単に作ることができる。

  • メンバーが触れるコンテンツの一覧になる。

さらに様々なテーブルにコンテンツ情報セットというカラム群を追加しておきます。これらは元テーブルに対して名寄せテーブルを経由してコンテンツ統合テーブルを結合した結果です。

コンテンツ情報セットの追加

こうしておくことで誰でも簡単にマーケティングコンテンツデータ基盤の情報を活用することができます。BIツールで探索可能な状態にしておくとさらに良いと思います。

マーケティングコンテンツデータ基盤はその名の通りあらゆる活動の土台であるため、事例を挙げればキリがないですが、次のような場面で活用されています。

  • 顧客の検討状況を推定するスコアリング

  • 各機能への興味度の定量化とエクスパンション機会の検知

  • コンテンツ制作チームの定量振り返り

  • メール施策のコンテンツ軸での改善

  • 事業領域・プロダクトカットでの戦略検討

  • Webサイト内のレコメンド施策

最後に

紹介は以上になります。最後まで読んで頂きありがとうございました!

まだまだ発展途上の仕組みで改善点もたくさんありますが、少しでも皆さんの役に立てれば大変うれしく思います🫶

再掲)マーケティングコンテンツデータ基盤の全体像


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