ほぼ毎日ほぼ500字短編:その61「ギザ歯」
「おやミユキさん。珍しく苦悶の表情ですな」
「キョウカ……。ゴメン、今月のイラストはもう少し待って」
少し茶化して声をかけるも、ミユキは珍しく絵を描くのに迷っているようだった。
「話を聞くことならできるけど?」
「……それじゃあ、ぜひ」
「承った」
私は空いていた椅子を持ってきて、ミユキの隣に座る。
「で、どうしたの?」
「いやぁ……歯が描けなくて」
「は?」
「具体的にはギザ歯。漫画研究会の今月のお題が『ギザ歯』でさ。今まで描いたことない絵柄だったから、あれこれ迷っているのです」
「なるほど……。ミユキも迷うことがあるとは」
「誉め言葉として受け取ります」
ミユキの眉間にシワが寄る。本当に悩んでいるようだった。私はそのシワに右手の人差し指を当てる。
「え、なに?」
「シワが寄っているから、つい」
「ついって」
「基本に戻ってみるのはどう? ギザ歯キャラの模写をしてみるとか」
ミユキのシワが消えた。私も指を離す。
「基本か……。そうだね、模写していったら感覚が掴めるかも!」
「よし。では頑張ってくださいませ」
「ありがとうキョウカ。できたら真っ先に見せる!」
「期待していますぞ」
私は椅子を元の位置に戻した。
2025年1月5日 pixiv創作アイディアより