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めぐるデザイン

地域に根ざした企業であれば、自社のアイデンティティやルーツが、そのまま地域の歴史や産業と結びついていることも多いはず。

ただ、そのコンテキスト(文脈)を活かし、積極的に発信できている企業は、多くはないかもしれません。

たとえば、リブランディングなどを考えるときに、地域の伝統や歴史を「古くさい」と一蹴して、ただ新しいイメージに変えてしまうのは、あまりにも勿体ないことです。

北海道・旭川の家具メーカー「カンディハウス」は、1968年創業以来、インテリアデザインの先進国であるヨーロッパにも認められるものづくりを通して、世界に日本の美を伝え続けています。

豊かな木材と職人、教育機関などが揃う「旭川」を、北欧のように家具産地の地域ブランドとして世界に名を知らせるべく、世界最大級の木製家具デザインコンペティションを1990年から開催し、2019年に旭川市がユネスコデザイン都市認定をされた際も中心となって活動するなど、率先して地域全体を盛り上げています。

その経緯や具体的な取り組みの中から、地域と企業の良質な関係性を探っていきます。


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DESIGN-DRIVEN MANAGEMENT SEMINAR #05
デザインで地域と世界をつなぐ


2021年3月18日(火)17:00-18:00

<ゲスト>
株式会社カンディハウス  
代表取締役会長 渡辺 直行 氏
1951年、札幌市生まれ。 東京造形大卒業後、インテリアセンター(カンディハウスの前身)入社。 米国の現地法人総支配人、カンディハウス社長などを経て2013年から同社会長。2016年、 北海道産業貢献賞受賞。主な公職に、北海道家具工業協同組合連合会 理事長、 旭川家具工業協同組合 代表理事、 あさひかわ創造都市推進協議会 会長、公益財団法人日本デザイン振興会 理事など。
https://www.condehouse.co.jp/

<ホスト>
特許庁 デザイン経営プロジェクト総括チーム/審査官外山雅暁
KESIKI INC. Partner, Design Innovation 石川俊祐


地域の木材にデザインで価値をつける

外山:カンディハウスさんは、家具業界全体が輸入木材を使うことが主流になってしまっていた流れの中で、北海道の木材を使うということを率先して始められたんですよね。

渡辺:そうなんです。地元の木材は旭川家具の原点。元は北海道の材料でつくっていたのに、日本の経済成長と共に輸入木材の方が安くなりほとんど国産材が使われなくなっていました。

カンディハウスの創業のきっかけは、創業者がヨーロッパへ家具作りの研修に行っていた際に、オランダの港に積まれた木材に「小樽」と書かれているのを見たことでした。ヨーロッパでは北海道の木材に付加価値をつけて扱っているのに、自分たちはそれができていないということに悔しさを覚えて、日本に戻って創業したんです。

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石川:創業から、経営者がデザイナーでもあったというのは、少し珍しいですよね。一般的な家具メーカーとは、どのように違った価値創造をされてきたと思いますか?

渡辺:4分の1ほどの社員は学生時代にデザインや建築を学んでいます。家具屋といいながらもデザイン会社みたいなんですね。だから、たとえば伝票のフォーマットをつくるにしても、見やすく、美しくということを大事する文化があります。

石川:美しさを大事にするということは、社内全体に伝わっているんですね。旭川という自然豊かな場所に会社があることによって、創造性が高まるという側面もあるのでしょうか。

渡辺:そうですね。私達は、地域の木材という資源に恵まれた上で、デザインの力で価値を生ませてもらっているわけです。良い家具をつくるポイントというのは、材料を選ぶことと、最後の仕上げをすることだと思っています。この部分は、人間の目や手で行う必要があるので、機械に置き換えられません。そういう意味で、地域の中で材料を選べるのは強みだと思います。

産地として協調することで世界に発信できる

外山:一方で、エンドユーザーの声を聞くということも大事にされていますよね。

渡辺:小売店や問屋さんを通すと、意図も通じにくいし、評価も伝わりにくいということもあります。私達は、直営店を展開して、直接お客さんと接することで、いいものを作るという環境を整えています。

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外山:さらには「旭川デザインウィーク」など、世界中からデザイナーやクリエイターを呼び込む仕組みもありますよね。

渡辺:私は勝手に、旭川は「クリエイターのハブ」を目指そうと言っているんです。いろんな口実やイベントをつくって、いろんなデザイナーやクリエイターが出入りすることで、そのうちいろんな化学反応が起こってきて面白いことになればいいなと思っているんです。

外山:会社としての利益と、地域との関係性をつくるというバランスはどう考えていたのでしょうか?

渡辺:木製の家具をつくるメーカーというのは、そもそもそこまで大きな会社がないんです。いろんな企業が協業しながら、「産地」として仕事ができているという意識があるので、結束力が強いんです。もちろん競争もあるのですが、「競争」よりも「共創」しながら、旭川家具の価値を高めています。

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人類がものづくりをするということ

石川:「共創」というのは、人間と自然の関係性にも当てはまりそうですね。すごく大きな話ですが、これから人間がものを生み出し続けるということにあたって、考えなければならないことがたくさんあるなと感じています。

渡辺:地球上での「重さ」という観点で、人間と自然を見るとおもしろいんですよ。全人類の総重量は約4億トンと言われていて、これは地球上のアリの総重量と同じくらいなんです。一方、細菌は400億トンくらいいるだろうとされていて、植物は数兆トン存在すると言われています。そう考えると人類ってすごく小さな存在なんです。

ですが、人類がこれまでにつくってきたものって、30兆トンくらいあるともいわれているんですね。そう考えると、地球上にもうこれ以上ものをつくらないようにするっていうのもデザインの役割なのかなとも思ったりするんです。私が小さい頃には、まだモノも少なかったですが、それはそれで幸せでした。便利なものが溢れてくることによる不幸っていうのもあると思いますね。

外山:産業の発展に寄与するっていうが、特許庁の所管する法律に書いてあるのですが、経済的な豊かさだけを追求することだけが発展なのだろうか、ということを最近考えさせられています。

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渡辺:北海道には8億立方メートルほど森林があり、その半分は広葉樹です。その広葉樹が1年間で300万立方メートルくらい成長します。そのうち、旭川家具は1万立方メートル、つまり300分の1しか使っていないわけです。自然との関わりの中で仕事をしていると、金融業のようだなと思います。樹木は黙って再生していくので、元本をそのままに利息の1~2%を毎年利用できるんです。

石川:本当におもしろい話ですね。これまで人間がつくってきた30兆トンのモノが、本当に世の中を豊かにしていっているんだろうかということをすごく考えさせられます。

渡辺:人間には人間の時間軸というのがありますね。私達は、どうしてもスピード感を大事にしてしまいがちですが、植物の時間軸というものあるんです。北大の教授に森林の話を聞くと、針葉樹って理論値で成長を測れそうなものですが、毎年1万本くらいメジャーで実測して、50年くらい立ってやっと分かる事実があるらしいんですね。

また、去年に米国カリフォルニア州で山火事がありましたね。面積でいうと四国丸焼けになったくらいの大火事でしたが、100年も経てば前よりも森林は成長することが多く、自然にはほとんど負荷がかかっていないんです。

そういうことを聞いていると、私たち現代人は速くすることを是だと思っているけれど、時間をかけないと分からないこともたくさんあるなと思います。人間の時間軸の中だけで生きているような気がしていて、それってなんだかまずいんじゃないかなって思うんです。


地域素材の活用が自然への関心を高める

石川:最近だと、サーキュラーデザインとか循環型ビジネスとかって世界中でありますが、旭川の木材を使って家具で商いを行うっていうことが、そもそも循環型ですよね。旭川は、だいぶ前から未来を走っていたんじゃないかということを感じます。

渡辺:地域木材活用のプロジェクトを始めた2014年は、北海道の木材で作った家具は全体の27%だったのですが、昨年末には43%になっていました。数年たてば、50%は地域で完結できるようになります。
運送の部分でCO2を出さないというのもありますし、山への関心が高まって、もっと積極的に植林をしようとか、自然を大切にしていこうということに繋がっていけばいいなと思いますね。

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外山:木を無駄にしないとか、自然を大切にしているとか、企業の姿勢が消費者にも伝わってしまう時代です。言っていることと、ビジネスのやり方が一致していないと、相手にされなくなっていますよね。カンディハウスさんは、かなりその部分の意識が強いなと思います。


渡辺:まだまだこれからです。木製の関連産業は、木を切り倒してるなんて思われがちですが、実は環境に負荷をかけていないということを伝えていきたいですね。

石川:今日のお話を聞いていて、IDEOのJane Fulton Suriさんという方が数年前から提唱している「ライフセンタードデザイン(生き物中心デザイン)」という考え方を思い出しました。普通、生き物というのは、作るものにも排出するものにも意味があって、自然の中で循環しているんですよね。同じように、人間もものをつくるときに、生態系の一部として自然にどんなインパクトを及ぼすかを想像しなければならないというのが、ライフセンタードデザインの考え方です。当初この考え方は、経済性とあまり結びついていなかったのですが、今になってようやく循環するっていうことの重要性が世界で言われ始めました。

また、ウィズコロナ、アフターコロナの時代に、果たして自分の作っているものや使っているものが、本当に世界を豊かにしているのだろうかっていうことを問い直すっていうフェーズに来ていますよね。

旭川家具では、すでにそのデザインをやってきていたんだなっていうことを、今日実感しました。そういうところを世界に発信していくことで、日本にとって自分たちの創造性に対する自信になるんじゃないかなと思いましたね。

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「企業と地域」の関係性は、「人類と自然」の関わりの縮図とも言える。そして、その関係は、森の生態系をつくるように、しっかりと長い時間軸で見て、「デザイン」していく必要がある。そんなことを感じさせられる、様々な示唆に満ちたお話を伺いました。

トーク全容を聞きたい方は、ぜひアーカイブ動画をご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=CqIk_aOEDWU


また、今年も「旭川デザインウィーク」は開催予定だそうです。こちらにKESIKIの石川も登壇予定です。

今後詳細が発表されるようなので、ぜひチェックしてみてくださいね。








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