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<SS>人生で最も価値のあるものは時間と人


1. 序章

真由は東京の繁忙なオフィス街にある広告会社で働いていた。彼女はデスクに囲まれ、コンピューター画面とにらめっこしている日々を送っていた。絵に描いたようなキャリアウーマンで、頭の良さと美貌で会社内外から一目置かれていた。

しかし、その冷静でプロフェッショナルな外見の裏には、真由自身が気付かないほどの疲れと孤独が隠れていた。恋愛なんてとてもじゃないが手が回らない。それどころか、真剣な恋愛をした経験さえ乏しかった。いつも仕事が優先で、プライベートは二の次、三の次だった。

真由がそんな忙しい日々を送る中で、心のどこかで「本当の愛」を求めていると自覚する瞬間は少なかった。でも、そのような瞬間が、もしもやってくるとしたら、それはきっと何か特別な出会いがきっかけであるに違いないと、どこかで思っていた。


2. 出会い

真由が何気なくスマートフォンを操作していると、突如、友人からのメッセージが届いた。「今週末、合コンに来ない?」という内容だった。真由は一瞬、そのメッセージを無視することを考えた。だが、何かが彼女を引き止めた。自分自身が何を求めているのか、何が足りないのかを考えた末に、思い切って「いいよ、行く」と返信した。

合コンの日、緊張と期待でいっぱいの真由は、会場で目の前に座った男性、大樹と出会った。大樹はゲーム会社で働くプログラマーで、一見地味ながらも、何か魅力的なオーラを持っていた。普段は真剣な恋愛よりも仕事を優先する真由も、大樹に対して何か引かれるものを感じた。

大樹:「広告業界って大変そうですね」

真由:「確かに大変だけど、それが好きなんです」

大樹:「自分の仕事に情熱を持っている人は魅力的だと思います」

真由:「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」

この短い会話の中で、真由は大樹が自分と同じように仕事に熱心な点、そして何より人としての深みを感じた。その夜は終わり、合コンが終了しても、真由の心の中に大樹の印象が残った。


3. 障害

数日後、真由と大樹はそれぞれの忙しい仕事を終え、初めてのデートの約束を取り付けた。しかし、約束の日が近づくと真由の会社で急遽プロジェクトが立ち上がり、その責任者に指名された。日程がとてもタイトで、彼女はデートをキャンセルしなければならなくなった。

真由:(メッセージで)「ごめんなさい、急な仕事が入ってしまって…。また改めて計画を立てられるといいんだけど」

大樹:(メッセージで)「大丈夫、仕事が忙しいのは理解できるよ。また新しい日を決めよう」

真由は一安心したものの、そのプロジェクトは彼女の全ての時間を奪っていった。結局、二度、三度とデートの約束をキャンセルする羽目に。

大樹:(メッセージで)「またキャンセルなんだね」

真由:(メッセージで)「本当にごめんなさい。私も会いたい、本当に」

真由は大樹に対する気持ちと、仕事の責任との間で揺れ動いた。一方で、大樹もまた、真由に対する気持ちが冷めることはなかったが、何か気になる点が増え始めた。本当に真由は自分と会うつもりなのか、それともただの言い訳なのか。

この障害を乗り越えられるかどうかが、二人の未来を大きく左右する鍵となる。


4. 関係の悪化

プロジェクトが終わりに近づいても、新たな問題が次々と発生し、真由の負担は減らなかった。同時に、大樹の方でも重要なプレゼンテーションに向けての準備が始まり、彼自身も時間に追われる毎日が続いた。

大樹:(メッセージで)「今週末、どうだろう?」

真由:(メッセージで)「ごめん、また無理…」

大樹は徐々に疲れ始め、真由が自分との関係をそれほど重視していないのではないかと疑念を抱くようになった。同じように、真由も大樹からの返信が次第に冷たく感じられ、不安と疑念が増大していった。

大樹:(メッセージで)「いつになったら会えるのかな?」

真由:(メッセージで)「私もそれが知りたいわ。でも今は無理」

ついに大樹は、もう待つのは疲れたと感じ、考える時間が必要だと真由に伝えた。

大樹:「考える時間が必要だよ。お互いに」

真由はその言葉に胸が締めつけられるような感覚に襲われた。まるで、それが二人の関係にとって大きな転機であるかのような予感がした。

このままだと、かつての強い感情も時間とともに風化してしまいそうであった。


5. 修復のチャンス

真由と大樹の関係が一度冷え切ってしまった後、数週間の沈黙が続いた。しかし、真由はある日、大樹が大事なプレゼンテーションの日に会社で体調を崩してしまったという情報を友人から聞いた。

真由:(心の中で)「どうしても見舞いに行きたい。でも、大樹が受け入れてくれるだろうか?」

真由は勇気を振り絞り、大樹の元へと足を運んだ。病室の扉を開けると、大樹は少し驚いたような顔をしたが、その後すぐに温かな笑顔に変わった。

大樹:「君が来てくれるなんて思ってなかったよ」

真由:「大丈夫?本当に無理してない?」

大樹:「もう大丈夫だよ。ただ、君に会えて嬉しい」

この瞬間、二人の間に流れていた冷たい空気は少しずつ温まり始めた。真由は、この機会に何が起きたのか、何が間違っていたのかを大樹と話すべきだと感じた。

真由:「私たち、何が間違ってたのかな。お互い忙しくて、何が大事か見失ってた気がする」

大樹:「それもそうだね。でも、この瞬間があるからこそ、何が大事か再確認できるんだ」

真由:「これからはもっとコミュニケーションをとろうね」

大樹:「うん、それが一番大事だよ」

二人はこの出来事を通じて、関係修復の第一歩を踏み出した。それは新たな始まりでもあり、二人にとって貴重な経験となった。

これからは、もう過去の過ちを繰り返さないと、真由も大樹も心に誓った。

そして、この一件をきっかけに、真由と大樹の関係は以前よりも深まっていった。プロジェクトも大樹のプレゼンテーションも成功し、二人はそれぞれの仕事で成果を上げると同時に、心の中で最も大切な場所にお互いを確保するようになった。

「結局、人生で最も価値のあるものは時間と人だよね」と大樹が言ったその言葉は、二人の新しい章の始まりを象徴していた。


あとがき

この物語はフィクションです。

みなさんは、日々の忙しさに翻弄されて、人生で最も大切なものを見失った経験はありますか?僕はありました。30代前半、仕事に追われていた時期に、本当に重要なものをないがしろにしていました。

忙し過ぎる日々の中に居続けると、本当の自分を見失ってしまいます。そのような過去の経験を反映させて、この小説を書いてみました。


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