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[たまには短歌を] 指先が冷えてきた
いつの頃からか、手先指先に冷え性を抱えるようになった。それまでは、汗っかきだったし、冬になっても比較的薄着でなんとか生きてこられたが、ここ何年かはカイロは必需品だし、ヒートテックも欠かせなくなってしまった。そしてなにより常に指先が冷たくて仕方ない。あまりに冷たい時なんかは、スマホの画面にタッチしても反応すらしないこともある。生体認証されないとさすがに生きている気がしない。なんとか手をこすり合わせて、血が行き届くのを気長に待つ。カサカサで生きているのか死んでいるのか本人ですらわからない指先で、画面をタッチしてようやく開いたスマホを前に、実は特にやることもない。そんな毎日の連続だ。結局、ポケットに忍ばせた文庫本を読んだ方がよっぽど自分のためになろう。
2024年の1月に詠んだ短歌17首。昨年の1月は今年より寒かった気がする。
常温のバターがかいた汗見つつ 東の空で焼けた陽を見た
寒風と日差しが強い新年で 伸びきった髭今年は柔い
受話器から漏れる食器の重なりは 生者のかけら、留守電の罠
温まらない指先は不要です メール諦め読む文庫本
車窓から見える太陽それはただ雲に刺さった一輪の花
シャッターに描かれたあなたの存在 ごめん付け足す僕の憂鬱
ポケットの中で乾いたウェットティッシュ感触だけで君だとわかる
抱き抱え詰まる重みは命綱 アンバランスを見送る車窓
すべてわかった気になってそれで仕方ないと思う素人だから
扉開けると眩しくて怯む午後 季節のおすすめあたたかな風
ふと気づく無意味なことにこれもまた 虚しく風を追うようなこと
踊り場に差し込む光60度 座って待つよ君の滑りを
願い事ひとつじゃ嫌で流れ星 見上げる空にもう深遠が
ひゆるりと伸びる狼煙が静けさに フンを焚いたとふと思い出し
指先が探すまだあたたかいとこ 親指だけは文字を生み出し
やけに喉乾いて路上立ち尽くす 向こうに見える風は逃げ水
なにもかも物憂い語り尽くせずに なんという空しさ、すべてかな
手前味噌で恐縮ですが、昨夏はじめてZINEを制作しました。
ご興味のある方はぜひご覧ください。詳細は以下より。