罰金が道徳観に及ぼす不可逆的影響について

マイケル・サンデルの『それをお金で買いますか』は,市場主義の限界がテーマの本です.我々は市場主義の経済が当たり前の中で生きています.この本は,その当たり前の市場主義によって失われる倫理観や道徳観について言及しています.

本では市場主義の限界についての様々なエピソードが論文等のエビデンスに基づいて紹介されています.その中で僕が気になったのは「イスラエルの保育所に関する研究結果[1]」です.

研究内容は次の通りです.イスラエルの保育所では,親が子供を迎えに来るのがよく遅くなる問題がありました.この問題を解決するために,親が遅れた際には罰金の支払いをお願いしました.

結果はどうなったでしょうか?

予想では,罰金を払うのを防ぐために遅刻する親の数が減ると思われました.しかしながら,予想に反して遅刻する親が増加しました.さらに,罰金を中止した後も遅刻する親の数は罰金中とほとんど同じ数でした.以前は,親は遅刻することに対して後ろめたさを感じていたのですが,罰金によってその道徳観が失われてしまいました.また,罰金を中止した後でも失われた道徳観がすぐには回復しませんでした.

つまり,罰金は人の道徳観に対して不可逆的な影響を及ぼすことがあるようです.安易なルール設定は,取り返しのつかない結果になる恐れがあるので,最新の注意を払う必要があると感じました.

参考文献
[1] Gneezy, U., & Rustichini, A. (2000). A fine is a price. The Journal of Legal Studies, 29(1), 1-17. [Link]

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