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「飛行機」よりも「車」のほうが危険に感じる理由

先月たまたま飛行機が二件重なったせいで、彼女は電車で行きたがっているんだ。
ばかばかしい。リスクが変わったわけじゃない。
あれは、利用可能性バイアスだよ
(『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』より)


『ファスト&スロー』を読んだ感想、第12回です!

第11回はコチラ:脳に忍び込む「錨」


きょうは『利用可能性ヒューリスティック』という概念について書きます。

本中の表現を借りつつとりあえずの定義をするなら、『事例が思い浮かぶたやすさ』で、『事例が実際に起きている頻度』を判断する事象を指します。

言葉だけだと少しイメージしにくいので、例を挙げると、例えば飛行機事故って『実際に起きている頻度』だけで見ればものすごく少なくて、世界全体で見ると、死亡事故時にあう確率は、約252万フライトに1回だそうです。
(参考:2018年に事故死者が出た航空会社は15社

一方で、地上の交通事故の数で見ると、1年間で約53万件。

1日換算すると、約1,500件の事故が発生している計算になります。
(参考:日本では1分間に1件以上交通事故が発生!?交通事故について調べてみた


もちろん、換算の仕方が違うんので純粋な比較はできないですが、数字だけを見る限り、『飛行機のほうが安全』と言っても差し支えなさそうです。

しかし、街頭アンケートみたいなのを取って、『飛行機と車どっちのほうが安全ですか?』と質問すれば、たぶんですけど『車のほうが安全』って答える人のほうが多いと思います。

それは、飛行機が事故を起こしたときには『その珍しさ』と『1回の事故が引き起こす被害の大きさ』が相まって、メディアで大々的に報道されるからです。

ぼくたちにはその時の派手な事故映像が脳裏に焼き付いているので、『実際に起きている頻度』という客観的な数値に基づく答えを求められているはずなのに、『どっちの事故映像のほうが思い出しやすいのか』という主観的な質問に、脳内で(無意識的に)すり替えてしまって、『車の方が安全』と答えてしまいます。

こういった脳内からの記憶の引っ張り出しやすさ(=利用可能性)だけが大きく作用して、(多く間違うこともある)評価を下してしまう現象を、利用可能性ヒューリスティックと言います。


他の身近な例で言えば、例えば複数人でチームを組んでとあるプロジェクトを遂行したとき、終了後に『チームの中でのあなたの貢献度は何%ですか?』と聞いたら、多くの場合で各メンバーの数値は100%を超えるそうです。

これはつまり、メンバーそれぞれが自分の働きを過大評価してるんですが、さっきの利用可能性ヒューリスティックに当てはめればこれはまあ当たり前な話で、他人の仕事ぶりよりも自分のしたことのほうが思い出しやすいのは当然です。

だからチーム内のメンバー全員が『自分はチームに大いに貢献した』と判断しがちになります。


だから、逆に『パッと例が思い浮かばなかった』という感覚を持てば、その実際の頻度を過剰に小さく見積もります。

本中で紹介されていたとある実験では、『あなたが何かを強く主張した例を6個書き出してください』というグループと、『12個書き出してください』というグループを作りました。

すると、自分が何かを主張した例を思い出した数自体は後者のほうが多いのに、その後『あなたは自分がどれくらい自己主張の強い人間だと思いますか?』という質問に対しては、前者の6個書き出した人間のほうが、自分は自己主張が強いと評価したそうです。

これはもう典型的に『客観的な数』よりも『思い出しやすさ』が影響した例ですね。

(今回の実験では、たぶん誰でも5〜6個くらいは、自分がなにかしらを主張した例を簡単に思い出せるけど、12個となるとさすがに後半は思いつかなくて、『こんなに思いつくのが困難ということは、自分は自己主張の弱い人間だ』と評価するということです)


ちなみに、この『思いついた』『思いついてない』という感覚が、その後の判断や評価に影響するためには、『(意外と)思いついた』や『(意外と)思いついてない』という、意外性が大事だとも書かれてありました。

例えば、6個を簡単に思いつけたり、12個自分がなにか強く主張した例を思い出せなかったりしても、事前に『これから流すBGMは記憶能力に作用する』という説明があれば、どういう結果になっても『BGMのせいだ』という理由があるので、思い出しやすさは、その後の自己主張に関する評価には影響しなかったそうです。


ということで、インパクトの強さに引っ張られて、実際の数値的な結果を見誤らないように気をつけたいなという、利用可能性ヒューリスティックについての話でした!



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藤本 健太郎
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