
「1.1コミュニケーション」と「0.9コミュニケーション」
なんのことですかと言われそうなタイトルですが、これは 今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則 『ジャイアントキリング』の流儀 の一節から言葉を拝借しています。
その名前から想像できるとおり「GIANT KILLING(通称ジャイキリ)」という人気漫画を題材としたチームビルディングの方法論が主なテーマですが、第2章の「1.1力」の解説のしかたには特になるほど、と膝を打ちました。
この記事では、その内容を受け、サマリではなく自分なりに少し話を広げています。そのため原文と比較して意訳や拡大解釈を多分に含んでおりますことをご了承ください。
どういう言葉を投げかけるかで、相手の反応も、その後のムードも変わる
以前、Facebookにこんな投稿をしたところ、それなりに多くの人に共感いただきました。以下に投稿の一部を引用します。
最近あった経営会議である仕事についてけっこう進捗芳しくないですすみませんみたいな状況共有を自分からしたのだけど、誰もその責任を追求したり何かを責めたりすることなくすぐに「じゃ、どうしよっかね」のディスカッションが始まり、
「うちの部署ではこういう調整もできますよ」
「確かにこの報告にあるとおり、今後こういうやり方にしたほうがいいかもね」
「今後誰それに会うから手伝ってもらえないか俺から聞いておこうか」
みたいな意見や提案が色々出てきて、これは仕事のコミュニケーションとしては非常に優れたコミュニケーションだと思いました その場でみなさん今のはとても良いやり取りでしたと言いそうになったくらい
一方で、例えば
こうなったのは誰の責任なのか?
なぜ、これを事前に防げなかったのか?
こういうことをやってこなかったのが原因なのでは?
なんであなたの部署の問題に自分が関わらなければならないのか?
みたいなコミュニケーションはその逆です 自分がその当事者だったとしてそれぞれのコミュニケーションの違いを想像するだけで、なぜ前者が優れていて後者は避けるべきか、がわかると思います
これは、この記事のテーマである「1.1コミュニケーション」と「0.9コミュニケーション」をわかりやすく示す事例といえます。
「1.1コミュニケーション」は、相手の自己重要感を高めるコミュニケーション
1.1コミュニケーションとは、受け手の自己重要感を1.0から1.1に高めるような「×1.1」の作用をするコミュニケーション方法を指しています。
1.1コミュニケーションのポイントは、
・受け入れる、興味を持つ、期待する
・許容する、肯定する、褒める
などです。
こうしたコミュニケーション方法では、受け手の自己重要感は高まり、気分も良くなります。
「0.9コミュニケーション」は、相手の自己重要感を下げるコミュニケーション
0.9コミュニケーションとは、受け手の自己重要感を1.0から0.9に下げるような「×0.9」の作用をするコミュニケーション方法を指しています。
0.9コミュニケーションのポイントは、1.1コミュニケーションの逆で
・無視する、軽視する
・否定する、批判する、責任を追求する
などに近寄ったコミュニケーションです。
こうしたコミュニケーション方法では、受け手の自己重要感が下がり、あるいは気分が悪くなります。
「×1.1」も「×0.9」も連鎖して増幅する
重要なのは、1回のコミュニケーションで1.0が1.1や0.9になるだけでは終わらず、それは連鎖して何乗にもなる、ということです。
わかりやすい例として、以下のようなケースを挙げてみます。
営業部A課
チームの受注目標は毎月達成。一方で事務処理が雑だったり、顧客からのクレームも多くカスタマー担当部署からの評判も悪い。
営業部B課
チームの受注目標は未達が続いている。しかし顧客満足度は高く、社内でも丁寧な仕事ぶりから他部署からの評判はいい。
このような対象的なチームのそれぞれの課長が話しているとします。
ここで、「A課長は、B課の目標達成意識の甘さを問題視しており、B課の未達をA課がカバーしている状況を何とかしたいと考えている」とします。
同様に、「B課長は、他部署からA課の社内業務の雑さやクレームの多さについて何度も愚痴をこぼされているが、部長からは達成状況だけを見てA課のほうが高く評価されていることに不満を感じている」とします。
0.9コミュニケーションはこのようなコミュニケーションから始まります。
一方、1.1コミュニケーションではこうなります。
どちらも続きの吹き出しは空欄ですが、それぞれどんな内容が続きそうですか?想像してみてください。
・
・・
・・・
・・・・
あくまで自分なら、ですが、それぞれこんな流れを想像できました。
0.9コミュニケーションの続き
相手を否定する、自分は正当化する、が中心になります。
1.1コミュニケーションの続き
相手を認める、自分の非も認める、が中心になります。
もちろん、さすがに少しわざとらしすぎる気もしますが、それでもおそらく多くの方にとって想像しやすいコミュニケーションだと思います。
0.9コミュニケーションの側は、まさに売り言葉に買い言葉のような形で×0.9が連鎖を繰り返しています。
1.1コミュニケーションはというと、お互いがお互いの良さを認めたり、自分たちの課題を打ち明けながら、ポジティブな連鎖が生まれています。
この違いが発生するメカニズムについて、冒頭の書籍の解説に自分なりの解釈を加えて説明すると、以下のようになります。
「相手を上げる=×1.1」「相手を下げる=×0.9」と限定していないのは、あくまでもコミュニケーションにおける自己重要感は「相対的な」であることが多いと考えるためです。
自己重要感が相対的に低い状態では、相手のよさを素直に認める、ネガティブ・フィードバックを素直に聞き入れるなどは、多くの人にとっては心理的なハードルが非常に高いことです。
逆に、自己重要感が高い状態が確保できていると、それが一変して、相手の良さを本心で認めたり、ネガティブ・フィードバックを受け入れたりしやすくなります。一言でいえば「余裕がある」状態です。
実際に、以下のような物事は、1.1コミュニケーションと0.9コミュニケーション、自己重要感の考え方で説明できると思います。
マウンティングする人:
「こんなことも知らないんだ?」など意味もなく0.9コミュニケーションを多用しがちな人
論理のすり替え:
自分の自己重要感が下がってくると、その会話の文脈から外れ、自分は正しく相手に非がありそうな理屈や事実を突然もちだし、自分の自己重要感を改めて高めようとする行為
否定から入るな:
0.9コミュニケーションが起点になるとその後のコミュニケーションにネガティブな影響が出るから避けたほうがいい
Yes→But形式:
「まず認める」という1.1コミュニケーションから始めることで相手の自己重要感を高めておき、重要な意見を聞き入れやすい状態を先に作れ
褒める文化:
互いに自己重要感を高める文化があれば、いざというときにお互いがお互いの意見を素直に言い合いながらも、自己重要感を不要に下げずに、互いの正しさを認めたり、自分の非を認めたりできる
売り言葉に買い言葉:
自己重要感を下げられると、自分が再び優位になるためにはそれ以上に相手の位置を下げる欲求が生まれる
重要なのはコミュニケーションが生み出す結果
とは言え、「正しいことを言って何が悪い」「問題があると思ったから指摘しているだけだ」「言わないことは本人(たち)のためにならない」というような意見はごもっともです。
事実、「思ったことは率直に言おう」「陰でコソコソ話すのではなく本人に直接伝えよう」というような風潮はありますし、それ自体は決して否定されるべきではありません。
しかし、仕事におけるコミュニケーションは、コミュニケーションでもある一方、やはりそれは「仕事」です。仕事である以上、どんな結果を期待しているのか、そして実際にどのような結果が得られるかが重要です。
なによりも、0.9コミュニケーションが使われる多くのケースでは
・気に入らないから凹ませてやりたい
・言われたから、言い返してやりたい
・自分の都合を優先するよう仕向けたい
など、感情やエゴイズムが起点であり、それも無意識的であることが大半だろうと思います。逆に、明確な目的をもって0.9コミュニケーションを使用すべき状況はあまり思いつきません。
一方の1.1コミュニケーションは仕事においてポジティブな影響を発揮をします。
しかしその反面、1.1コミュニケーションは自分の相対的な自己重要感を自ら下げるコミュニケーションでもあるため、0,9コミュニケーションに比べて自然発生しづらい側面があることには注意が必要です。
1.1コミュニケーションは、言いたいことを率直に言い合う文化の土台をつくる
この話は言いたいことを率直に言い合う文化を作ることとは決して矛盾しません。それどころか、それを手助けするものです。
なぜなら、1.1コミュニケーションは「率直に言いたいことを言い合うことを全員が許容できる土台をつくるコミュニケーション方法」にほかならないためです。
先ほどのA課長とB課長を想像したときに、0.9コミュニケーション、1.1コミュニケーションそれぞれの流れを受け、A課・B課の課長やそれぞれのメンバーの思考や行動はどのように変化しているだろうか?がその答えになり得ると思います。
0.9コミュニケーションの流れのあとで、お互いのメンバーが集まってお互いに言いたいことを言い合えばその関係性は崩壊します。
逆に1.1コミュニケーションの流れのあとでは、お互いの問題点や要望などについて、フラットに受け入れられる土台が作られているはずです。
これは、ディスカッションや相互フィードバックの場においてもそうですし、上司や先輩からの「指導」の場においても同じことが言えます。
ときに厳しい指導をする場面でも、普段から相手をよく観察し、その良さを認め、欠点も個性として受け入れ、一個人として尊重している限りは、相手は厳しい指摘であってもそれを素直に聞き入れようとします。
もちろん、逆も然りです。逆の状態で厳しいフィードバックを素直に受け入れられる人などごく稀であり、多くの場合は表面上は従っていても本心では反感を買うのみで、その後の状況はまず好転しません。
これはサウナで体温がじゅうぶん温まっているからこそ水風呂によって整うのであって、真冬の屋外で水風呂では死んでしまうのと同じです。(違
というようなことを最近ぼんやり考えています。
「お前のこういうところが問題だ」と言われると「お前こそこういうのやめろよ」が自然にでてくるし、「あなたのここは見習いたい」と言われれば、「自分も学ばせてもらってます」が自然にでてきやすい というようなことを分かっておくだけで解決する組織内コミュニケーションの課題は多いとおもう
— 土居 健太郎 (@amateras_seo) April 10, 2019
よろしければTwitterもフォローお願いします。
なお、記事には関係ありませんが、漫画「GIANT KILLING」は歴代TOP5に入るくらいには好きな作品です。チームづくりに関わる人はとくに楽しんで読めるのではないでしょうか。