閾値トレーニング(正しい閾値の見つけ方)
ジャックダニエルズのRunnning Formulaをお持ちの方にはお馴染みですが、閾値走(Tペース)は、長距離ランナーにとって最も効果的なトレーニングの1つといえるかと思います。Tペースでトレーニングすることで、ランナーはオーバートレーニングを避けることができ、より満足度の高いワークアウトと安定性を得ることができます。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ」では、テンポ走とクルーズ・インターバルという2種類の閾値トレーニングを紹介しおり、テンポ走は、日本でいう所謂ペース層で、安定した適度な長さのランニングです。以前から存在していましたが、ランナーとコーチの間で定義が結構異なります。
一方、クルーズ・インターバルとは、ランニングとランニングの間に短い回復時間を設けて、一連のランニングを繰り返すことです。まずは、テンポ走に焦点を当てて考察したいと思います。
ランナーやコーチの中には、テンポ走を単に長時間、安定してしっかりと走るという目的で設定する人もいますが、多くの場合、生理学的な効果よりも心理的な効果(これはかなり大きい)を得るという目的が大きいのかもしれません。閾値強度のランニングでは、生理的な効果として持久力が向上しますが、これはかなりキツイペースで長い時間耐えられるようになる、というまさに長距離ランナーの目指すところです。閾値を少し下回る強度で長めのテンポ走を行うと、心理的な持久力も高まると思いますし、強度の低いゾーンから始めて、ゾーンの高い方へと進む長いテンポ・ランは、長いテンポ・ランの利点とTペースのトレーニング効果がどちらも得られることになるかと思います。
ペースの設定
T-pace ランニングの適切なペースは、VO2 Max の 83 ~ 88%、または VO2 Max または最大心拍数の 88 ~ 92%です。
血中乳酸値が上昇しつつも安定した状態になるような速度で走れば、閾値ランニングの適切なペースをかなり正確に把握することができます。このペースは、2時間以上維持できるペース(≒マラソンペース)よりは少し速く、30分維持できるペース(≒10Kレースペース)よりは遅くなります。このペースがわかりやすいのは、後者のペースでは血液中の乳酸がランニング中に上昇し続けますので、血液中の乳酸が蓄積する定常状態ではありません。一方、前者のペースでは、最初に乳酸値が上昇した後、あるいはレースの盛り上がりによって乳酸値が上昇した後に、ゆっくりと乳酸値が下がっていきますが、血中乳酸の蓄積が定常的に行われているわけではありません。
ほとんどのランナーは、自分の閾値ペースが、50分から60分のレースができるペースと同じだと考えることができます。実際には、遅いランナーの場合は、10kmレースのペースが閾値となることもあります。体のシステムにかかる負担の大きさを決めるのは、ランニングやレースの距離ではなく、努力量=強度です。
閾値ワークアウトの目的は、乳酸除去能力に刺激を与えることであり、その能力を刺激し過ぎることではないことを忘れないでください。
ダニエル先生も閾値トレーニングを「快適にハードな」ランニングと呼んでいますが、純粋なインターバルトレーニングのペースのように、「キツイ」と感じるべきではありません。
テンポ走
理想的なテンポランは、Tペースで20分間安定して走ることです。主観的には、Tペースで走るときの努力の強さは、快適だけどややきついという感じです。この場合も、レースで1時間程度維持できる程度の努力が目安です。安定した閾値でのランニングの理想的な時間は20分ですが、コースに合わせてランニング時間を多少変えても構いません。テンポ走をトラックやトレッドミルで行うことで、ペースを細かくコントロールできるようになるのもいいかもしれません。
また、多くのエリートランナーは、本当の閾値よりも遅いペースで長いテンポランを行っていることも多いです。このような強度のランニングを長く続けることで、強いペースを長時間維持する感覚が養われます。前述のように、場合によっては、真の閾値ペースでの短いランニングと同じくらいの心理的な強さが要求されることもあります。また、長めの「テンポ」ランで徐々に強度を上げていき、実際に閾値ペースで走るようにするランナーもいます。いずれにしても、20分以上のテンポランには効果があると思いますが、時間に応じてランの速度を変えるべきかと思います。
このトレーニングの目的は、長時間にわたって安定した強度を維持することなので、テンポランは必ず好ましい天候の下、足場の良い比較的平坦な場所で行うべきで、坂道や足場の悪い場所、風などがあると、安定したペースを維持することができず、トレーニングの目的を達成することができません。心拍数をモニターすることである程度カバーできますが、一定の条件下で安定したリズム刻むことが求められます。
テンポ走を行う上での最大の課題は、適切なペースを維持し、テンポ走をタイムトライアルにしないことです。適切なペースでの練習は、速い(または遅すぎる)ペースでの練習よりも早くなるために必要であることを理解することが最も重要です。テンポ走は、走ることに集中する能力や、無理なく走っているときの体の感覚を保つための練習に適したトレーニングです。
テンポ走の使い方
同じトレーニングを繰り返したり、特定のタイプの閾値トレーニングの進捗状況を確認したりする頻度については少し注意が必要です。私も含めてランナーは自分のトレーニングの進歩を確認したいと思うのが本能であり、特定のワークアウトを短時間でより速いスピードで実行しようとすることがあります。(はい、私もその一人です。。)
しかし、この様に自分と競争しようとすることは好ましくないというのは自分でもわかっていますが、なかなかこの本能に抗い、コントロールをすることは難しいです。しかしながら、このが非常に重要なポイントになります。なぜなら、ある種のストレスに体が反応して適応してから、そのストレスの量を増やしていくという原則に沿っていないからです。同じトレーニングを同じ速度で何度も行ったり、レースでのパフォーマンスが高いレベルに達したと判断されるまで行うことが重要になります。
トレーニングの進捗状況を確認するには、時間の経過とともに特定のトレーニングがどれだけ簡単にできるようになったかを確認する方法があります。
例えば、数週間のトレーニングを経て、以前はきつかったトレーニングがそれほどきつくなくなれば、それはトレーニングの成果が現れている証拠です。この時点では、トレーニングの強度や量を増やす準備ができている、ということがいえます。
逆に、以前にやったことのあるトレーニングで、より速く走れるかどうかを常に試している(「常にできるだけ痛めつける」手法)と、自分がどれだけ進歩しているかを判断する上で、大きな誤解を招きかねません。この方法では、常に大きな痛みがあり、標準的なトレーニングを行っても、不快感が軽減されるという経験をすることができません。(そもそもその強度では練習の頻度を保てない、ということも言えます。)自分は本当に上達しているのか、それとも痛みに耐えられるようになっただけなのかわからなくなりますし、本当の目的を見失います。
より高度な方法として、トレーニング中や回復時の心拍数や血中乳酸値をチェックすることもあります。しかし、このような科学的な方法に頼っていると、自分ではうまくできなくなってしまいます。GERMINなどの時計やハートレートモニターにも精度に限界はありますし、やはり最後は自分の運動に対する体の感覚や反応を読み取る力を身につけましょう。
テンポ走をするときは、規定のTペースよりも速く走らないようにしてください。トレーニングの強度を決めるのは、あくまでも直近の競技力に基づいて設定することが非常に重要です。トレーニングが楽に感じられるようになったら、その感覚を利用して、自分がより健康になっているということを認識してよいかと思います。
レースの予定がなくトレーニングが長引いている場合、競技力の向上という裏付けがなくてもトレーニング強度を上げることは妥当です。この場合、VDOTを4~6週間ごとに1ユニットずつ増やしていくのが目安となります。これは、5,000mレースのタイムが10秒から15秒ほど向上するのと同じことで、かなりの改善になります。能力を維持したい場合は、特定のレベルのフィットネスを維持するために必要なストレスを最小限に抑えるように設計されているので、トレーニング強度(VDOT)や距離を増やす必要はありません。この場合、標準的なトレーニングがどれだけ楽に感じられるかを時間をかけて確認することに重点を置くべきでしょう。