「はたらく」について考える前に【第3回】企業とはなにか
こんにちは。けんけんです。
初回の自己紹介記事でも書いた通り、これから『「はたらく」について考える前に、知っておいた方がよいこと』というテーマで記事をいくつか書いていきます。
知っておいた方がよいこと、とは、みんなが分かっているようでよく分かっていないことを対象にしています。具体的な項目については、初回の記事でも書きましたが、
・目的とはなにか
・戦略とはなにか
・企業とはなにか
・言葉とはなにか
・強みとはなにか
・決めるとはなにか
・好きとはなにか
・らしさとはなにか
等々...
こんな感じのテーマで進めていきます。
さて、3回目は「企業」について話をしたいと思います。「企業」という言葉も、あらためてなにかと問われると意外に難しいですよね。けど「目的」、そして「戦略」という言葉がわかると、「企業」についてもより理解を深めることができます。
ビジョン、ミッション、バリューといった言葉や、経営戦略、事業戦略と呼ばれるもの、これらは「企業」の構成要素として話されることが多いですが、すべて「目的」そして「戦略」という言葉が分からないと理解することができません。
そのため、この回ではこれまでお伝えしてきた第1回目「目的」、そして第2回目「戦略」のパートにも触れながらお話をしていきますので、もしまだこれらに目を通していなければまずはこちらをご覧ください。
「企業」についての理解が深まると、いよいよ「はたらく」にも近づいてきます。まずはその「はたらく」環境としての「企業」について触れていきたいと思います。
「企業」とはなにか
さて、いつも通り質問からはじめていきます。
「企業」とはなにか
みなさん、わかりますか?
これはみなさんもぜひGoogleで調べてみてください。 色々な定義が出てくるし、色々な人が色々と書いていると思います。 そしてもちろん、どれが正解、不正解という議論ではありません。
一番、最低限の定義として企業をとらえてみましょうか。 企業にとって、絶対に欠かせないものは何か、考えていきましょう。
まずは人でしょうか。最低限1人は人が必要になります。人が1人も存在しない企業というのは、法律上も実態上も存在しません。その代わり、1人企業、1人社長というのは存在しますね。つまり、人が1人でも企業は成り立ちます。
次に、お客様ですかね。こちらも最低限1人、または1企業必要になります。 お客様がいない企業、というのも法律上は存在しますが企業の実態としては存在していない状態といってもよいと思います。
では、この人(企業)がお客様に提供しているものはなんでしょうか。有形、無形とかかわらず、お客様の役に立ってありがとう、嬉しい、と感じてもらうモノ、コト。これが価値と呼ばれているものですね。そしてこれはボランティアではないのでお金、というものとセットになってきます。
次に、競争相手、というのも出てきますね。こちらは理論的には存在しない、ということもあり得るのですが、 高度に情報化、グローバル化、輸送手段が発達した現代において競争相手がまったく存在しない、という企業は実態としては存在しません。
ここで、利益、というご意見もすごく多いと思います。 さて、利益は企業という定義にとって本当に必要な要素でしょうか。 たとえば、社長1人にお客様が1人いて、毎年赤黒ぎりぎりで利益は0円だがお客様に満足してもらっている企業は、企業とは呼ばないのでしょうか。
そんなことはないですよね。これも企業としてはもちろん存在しますし、少なくない数だと思います。利益については、後ほど触れたいと思いますが、企業という定義に最低限必要な要素ではない、とだけここでは押さえてもらえればと思います。
さて、ここまでを整理すると以下の様になります。
これはご存知の方も多いかと思いますが、この内容がいわゆる「事業」と呼ばれるものになります。つまり、「企業」にとって最低限必要なことは、「事業」をしていること、になります。
ちなみに「事業」は「企業」でないとできないかというと、もちろんそうではありません。個人事業主という言葉が指す通り、これは「企業」ではなく個人でもやることができます。
「企業」とは事業をしている組織
ここまでを踏まえると、以下のようにまとめることができます。
さて、ここでたとえ話をします。先ほどまでの事例で言うと、とある1人の社長が事業をやっている状態ですが、 たとえばこれをやめましょう、と周りに言われたとします。
もしこれで事業をやめたら、別事業を始めない限り「企業」としては終了です。 もし、それでも事業を続けるとしたら、、、それは何か目的、やりたいことがあるからです。本来それは事業と「企業」とで別々になるのですが、いったんこの規模では同一と捉えましょう。
そう、「企業」は存在している限りかならず目的があります。目的とは?そう、何回も出てきましたがやりたいことです。もしやりたいことがないのであれば、やめましょう、と言われてやめればよい話です。
つまり、「企業」には1個人のものとは限りませんが、必ずやりたいことがある、という話です。これは目的のところで話しましたが、モノにはやりたいことがありません。意思がないからです。裏を返すと意思がある、やりたいことがあるということはこれは人の話になります。
「企業」は法人、と呼ばれることもありますが、この呼び名がもっとも適切なのかもしれません。そう、人に意思があるのと同様に「企業」にも意思がある、つまり、企業とは人なのです。
「企業」の目的、目標、手段
さて、「企業」には目的がある、という話をしました。ということは、みなさんもお察しの通り、企業には目標や、目的を実現する手段もある、ということになります。目的の行き着く先は思想であり、手段の行き着く先は行動である、ということもお伝えをしました。
そして何度かお伝えしている通り、この構造にはレイヤーもあります。最初の目的の回では1人の人間ですらレイヤーがあることを見てきましたが、会社の場合はそれがレイヤーごとにレイヤーがある、ということになるので、これはもうかなり重層的に重なり合っている尋常じゃない複層構造と捉えてもらって問題ないです。
すでにややこしい香りがしてきますが、さらにややこしくしてここに戦略という概念も入れてみます。戦略とは、前回もやった通り目的に対する手段になります。また、そのときには必ず争う相手がいて、その相手に対してのがんばりどころ、という話をしたかと思います。
また、この回の冒頭でも話した通り、企業(あるいは事業)には必ずお客様もいます。そのお客様に対して、何かのお役に立ってありがとうと言ってもらい、お金をもらう。戦争の場合は、相手を倒すことが戦略の目的になることが多いですが、ビジネスの世界ではこのお客様の取り合いが戦略の目的であり、どっちの方がありがとうが大きくて選ばれるか、そういう勝負です。ここまでの全体をワンセットにしてみていきましょう。
レイヤーの考え方はかなり崩壊してしまうので実際は成立していないのですが、便宜的にこのような形でまとめます。本来はかなり丁寧にレイヤーをほどいて繋げないとつながらないものですが、大雑把にここはご理解ください。
「企業」にまつわるさまざまな言葉たち
さて、ここで本日の本題の一つである、企業にまつわるさまざまな言葉たちに触れていきたいと思います。こういう話になったときによく使われる言葉を、以下にまとめて並べてみました。
いろいろな言葉ありますよね。私の中で、これらの言葉を見る時に大事にしている観点が2つあり、本日はこちらの話だけご理解いただければと思っています。
まず、1についてですが、これは基本的に企業のサイズが大きくなり、企業が複数の事業を抱えたときに使い分けられることが多くなる概念となっています。
と冒頭でもお伝えしたかと思いますが、この企業が複数の事業を抱えた時には視覚的にも企業と事業の違いはよくわかると思います。
別の方法としては、ホールディングス化している会社をイメージするとより違いが分かるかもしれません。ホールグディングスにおいてはよく事業会社、機能会社と傘下の会社を呼び分けますが、その機能会社の一つであるホールディングス会社が持つ機能が、企業と事業の違いをわかりやすく表していると思います。
それでは事業になく、企業にある機能とは何か。それは、企業経営です。事業にも事業経営という考え方はあるのでややこしいですが、企業を経営する、という考え方は企業にのみある機能です。
そして一般的に経営戦略、と呼ぶ際にはこの企業経営の戦略を指します。一方、事業戦略と呼ぶ際には事業経営の戦略の話を指すことが多いです。
「経営」戦略と「事業」戦略を事例で見る
ここでまた、具体的な事例があった方が話がわかりやすいと思いますので、
再度キングダムさんに登場してもらいましょう。前回と同じく、趙侵攻のシーンをピックアップしたいと思います。
ここでは、企業の経営責任者(=社長)は政、事業責任者を王翦とおきます。秦という企業全体を経営しているのが政、その中で趙侵攻という事業をあずかったのが王翦になります。
まずは政ですが、この時の秦という国の人的リソースはざっと以下です。本当はもっとたくさんいますが。
南西の楚、南東の魏とも戦線を展開しており、対楚の戦線に武勇の高い蒙武という大将軍、対魏の戦線には騰という大将軍を送り込んで戦線を膠着させていました。この時に、趙攻略のために、どのように資源を投下するのか、ということに迫られます。
蒙武、騰は動かせないですが、かわりに国内にほぼリソースを残さず、ここに、王翦、桓騎、次の将軍候補である蒙恬、王賁、信、そして実際は秦とは別国ですが、大将軍格の楊端和まで投入して勝負にかけます。
またこの時に、本人が動いた結果ではなく、契約書も巻いていませんが、実質的に斉という国を買収することに成功しています。この資源の投下や買収が、秦という企業としての経営戦略です。
次に事業の責任者としての王翦に目を向けます。王翦は趙攻略にあたり、桓騎 楊端和 という2大資源、蒙恬 王賁 信 璧 という資源を抱えており、これを移りゆく戦況の中でどのように配置するのか、というシーンに直面します。
前回も少し出てきましたが、鄴を包囲する部隊に桓騎、橑陽の攻略に楊端和と壁、そして残りの遊撃部隊はすべて自分の直下に配置し、朱海平原へ打って出ます。
この時に時間軸、地域軸でどのように物事が進んでいくのかを見立てて、その中で兵糧耐久合戦という勝負を仕掛けたり、実際の戦線に赴き戦闘に自らも参加しながら局所的な戦略、戦術を投下していく。
これが、事業経営、および事業戦略だと思ってください。そしていわゆる競争戦略は、基本的には競争相手が明確にいる事業単位で語られるものになりますので、事業戦略≒競争戦略と思っていただいて大きくはずれないと思います。
企業戦略と事業戦略・競争戦略の違いはイメージがつきましたでしょうか。
「企業」にまつわる言葉を意味で理解する
さて、1については概ねイメージがついたと思いますので、次に2についてみていきたいと思います。
2についてですが、正直全員が共通して理解している明確な定義は現状ないと思った方がいいと思っています。私も、いろいろな企業さまのこういうものを見るたびに、感覚的な言葉の意味と中身の違いによく戸惑ってしまいます。
一応、あるある的なことをお伝えして、この感じを味わってみたいと思います。
まず企業目的ですが、これはよく企業理念とお友達扱いされます。また、企業理念はビジョンとお友達扱いされて、企業目的はミッションとよくお友達扱いされます。企業理念と経営理念は同一視されることもありますし、定義をみると真逆の内容が書かれていることもあります。
また、バリューは企業理念と同じ様な扱いになることもありますし、行動や手段を推進、制約する思想的なものとして扱われることもあります。ウェイとかになると、もはや何と一緒の扱いかもよくわかりません。
さて、こちらを味わった上で、一応これらの言葉を扱う時に大事な考え方と、これらの言葉を扱いやすくするヒントについてお伝えできればと思います。
このような時に大事な考え方は、言葉は意味を立ち上げるための道具である、ということです。しかも言葉自体に何かの意味があるのではなく、誰かに言葉を話した時に、言葉を聞いた側の本人の中で意味が立ち上がり、結果として伝わる、という道具です。
これは裏を返すと、別々の2つの言葉を使ったとしても、同じ意味が相手の中に立ち上がっていればその2つの言葉は同じ役割、機能を果たした、ということになります。つまり、言葉、文字がどのように書かれているかということよりも、最終的に同じ意味が全員の中に立ち上がっていることの方が大事です。
そのため、そのミッションの定義はおかしい、本当はこうあるべきだ、ビジョンと企業理念の定義の違いはこうなるはずなのにそれはおかしいという議論自体には正直意味がありません、というのが一つ目の大事なポイントです。
その言葉を共有する組織、および関係者の中で同じ意味が立ち上がっていれば、その言葉は役割を十分に果たしていることになります。
次にこの言葉を扱いやすくするヒントがあります。それは、なるべく平易な言葉にすることです。
目的、という言葉に対してはこれまでの経験を通じて色々な人が色々な意味を感じてしまうのですが、何かをやりたい、という言葉に対してはもっと直接的な意味が多くの人の中で立ち上がりやすいです。
それも踏まえて、あらためてこれらの言葉が指していると思われるものを持ってきてみましょう。ベースはこちらの平易な言葉をもとに考えた方がイメージをしやすいと思います。
思想についてはちょっと置いておいて、まずは目的からいきましょう。企業の目的、つまり企業のやりたいことは何か。ここには基本的に対お客様や対社会に対して、何をしたい組織なのか、という宣言です。企業目的・企業理念・ビジョン・ミッション、色々な言葉で言われる項目です。
「あなたの企業は、お客様に対して、社会に対して何をしたいですか?」
こちらは、価値の返し方とも密接に関わってくるため、どのように役に立ちたいですか?という質問と近いです。
次に目標です。企業の目標は、その企業としてやりたいことに対してどこまでやりますか、という問いです。これはビジョンまたはミッションと呼ばれることが多いです。
「お客様に対して、社会に対して、やりたいことをどこまでやりますか?」
そしてそのやりたいことを、やりたいところまでやるときに、どういうやり方でやりますか、という問いが、手段の話です。これはミッションになることもあれば、企業目的や企業理念と呼ばれることもあります。
それが行動として日々の行動に落ちる時には、以前も出てきましたが、一番根っこの思想に制約を受ける、あるいは推進されることになります。行動指針やバリュー、ミッションステートメントやクレドと呼ばれるものはこれらかと思います。
思想の話が出てきたので、最後に企業の思想について。こちらは、企業が人というものに対してどういう価値観を持っているか、ということや企業として何が好きで、何が嫌いか、ということになります。
これは目的や手段、行動、ひいては戦略や戦術に至るまで貫くもので、考え方としては一番上流になります。企業理念やビジョン、と呼ばれることが多いです。
本当はこれも全体をキングダムで表現したいのですが、実際に使われている言葉とセットにした方がイメージがつきやすいと思いますのでリクルートとリクルートキャリアの事例をあげてみたいと思います。
「企業」にまつわる言葉を事例で見る
リクルートホールディングス
こちらは、企業としてやりたいことと、どこまでやりますか、とどういうやり方でやりますかということを全部包含している内容に見えます。
こちらは、人間というものをどういう風に捉えているか、という思想、人生観や人間観の話をしています。
これは、やりたいことやどこまでやるか、に対してのやり方の話をしています。
こちらはやり方に対して、どういうやり方を選びますか、という思想に根ざした制約、ないしは推進の話をしています。行動指針やミッションステートメント、と呼ばれるものに近いと思います。
そして、リクルートキャリアはリクルートとして掲げるものに対して事業の範囲を定めた上で決められているものになっています。
リクルートキャリア
こちらは、人間というものをどういう風に捉えているか、という思想、人生観や人間観の話をしています。
こちらは、企業としてやりたいことと、どこまでやりますか、という話を包含しているものになります。
これは、やりたいことやどこまでやるか、に対してのやり方の話をしています。
こちらはやり方に対して、どういうやり方を選びますか、という思想に根ざした制約、ないしは推進の話をしています。行動指針やミッションステートメント、と呼ばれるものに近いと思います。
おわりに 企業とはなにか
さて、ここまでを見た上で、改めて整理をしていきたいと思います。
今回、企業とは何か、ということをテーマにしてきましたが、一番大事なポイントは何か。それは、企業にはやりたいことがあり、その目的があるということは根っこに思想がある、というポイントです。つまり企業の根っこには、人生観や好き嫌いといった思想があり、これがその企業の目標や手段、行動、戦略、戦術を制約、推進しているということ。
これを理解することではじめて、この後に続く「はたらく」やそれを司るヒューマンリソースマネジメントの本質がわかります。それでは、かなりここまで長い時間を割きましたが、いよいよ「はたらく」に直接携わる領域に触れていきましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?