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小説【スペース・プログラミング】第13章:「ホシをつぐもの」

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「ふーん、それでお前は別惑星の、あの世らしき世界に行っていたと言うのか」

 ホシの部屋でみんなが集まった。知らない顔も2人くらいいたけれど、それぞれ小川さんと関口さんという人で、目黒さんが部長をやっている「女子プログラミングサークル」のメンバーらしい。しかも物理学科出身で、宇宙のことを少しわかる人たちだったので、すぐに気が合った。

 さて、僕が眠っていた間に何があったのか話すと、先述のように目黒さんに聞かれたわけだが、僕はこう答えた。

「ええ、そうです。そこで宇宙のことを聞かれたり、AIロボットの輪廻のことを聞かされました」

「ロボットの輪廻ねぇ〜〜……」

 目黒さんと咲耶姉さんは何か抱え込むように悩み始めた。

「私、もっと落ち着いた人間になるからね。絶対ユウジ君をもう危険な目に合わせない」

 そう言って、車椅子に座っている僕に対して抱きつき、痛くない程度に身体に触れた。

「んーーお熱いのは結構だけどさ、祐治くん。ちょっといいかな」

 小川さんが間に入ってきた。

「要するに、よ。ここにいるメンバー達以外に、ホシちゃんがAIロボットであることは知られちゃいけないんでしょう。秘密を守るのは簡単そうで意外と難しいんじゃない? 少なくとも中学生同士でなんとかなるって話じゃないよ」

 そんなことはわかっている。小川さんは意外と歯に衣着せぬ言い方をする人だな、と思った。

「いや、私が言いたいのはさ、私たちも協力させろってことなのよ。流石にホシちゃん以外に6人もメンバーがいれば彼女の秘密を守り切ることはできるでしょう。ねえ、リンちゃん」

 関口さんも頷いた。

「そうね。私たちでホシちゃんが大人になっても、しっかり助け合って生きていくのが一番いいことだと思うわ」

「星野教授もいるしな。あの人だぞ、總星学園にホシを入学許可してもらったのは」

 目黒さん達の通っている大学の教授が学校に入れさせていた、というのは意外だった。何にせよ、ありがたい話だった。

「と、いうわけで、結論は出たようだな。と言っても、この前出したものに、小川と関口がついてくれた分、より強力な味方がついたわけだがな。どうだ桑谷、さっきから黙っているけど、何か考え事でもしているのか?」

「ええ……これまでホシちゃんや三谷くんが命の危険に晒された時、愛することの力で蘇生できたことがあるって。それが本当なら、ホシちゃん以外にこの世にAIロボットが何故できないか、考えたことあります?」

 すると、目黒さんは首を傾げた。

「確かに技術的な問題はクリアしているわけだからな……だが、かと言って愛情が輪廻に関わるレベルでとなると……解析は不可能だな」

「それはそうですよ。私たちただの人間同士でもそんな感情プログラムで測れるものじゃなんですから」


 僕はホシに車椅子を押されつつ家へと送られながら、電車に乗り、降りてから帰路についている最中、彼女のことを思った。

 人間と同じじゃない、Pythonでできている彼女、いわゆるアンドロイド、人間じゃないからいわゆる生殖活動もできないかもしれない。ADHDだというのは、AIロボットであることの挙動を隠すための設計者の考えた設定らしい。そして「愛情」によって、蘇生し、蘇生する。お互いを想い合う、その心によって。

 僕はと言うと、四肢がちぎれているほどではないとは言え、動かすと痛い。車椅子なしではとても歩けない。内臓は無事らしいが、四肢が不満足な状態になった。

 それでも僕はホシを愛している。一目惚れしたこと、不思議な魅力を持っていること、今となってはそんなこともどうでもいいくらい。僕は最初見た時のイメージとはまるで違う、今のホシの一途さと、文字通り夜空を明るくする星空のようなキラキラした心が好きなのだ。

「送ってくれてありがとう」

 僕が言うと、ホシは

「何言ってるの。私たちずっと一緒って言ったじゃない」

「うん……まだ僕達中学生だから一緒に住むことはできないけど」

「野暮なこと言わないの。今こうしてあなたのお家に向かっているだけでも私……私……」

 突然車椅子の後ろからホシの嗚咽の声が聞こえてきた。僕は慌てて、

「ご、ごめん。そんなつもりじゃーー」

「ううん、違うの。祐治くん本当にすごく優しい……私のこともずっと愛してくれて、そのおかげで一度私が壊れかけた時も元気になれて……それからトラックからも守ってくれて……私、祐治くんがいない世界なんてありえないと思ってた。だから……グスッ……目を覚ましてくれた時は、何より嬉しくて……あんな嬉しいこと、もうない……ヒック……」

 僕は微笑みながら、ホシが泣き止むのを待ってから、言った。

「そんなことないよ、ホシ」

 僕は続けた。

「これから一緒に思い出を紡いでいくんだよ。今日も明日も来年も数十年後もずっとね。その幸せに比べれば、今まで確かにお互いいろいろあったかもしれない。それでも何でも乗り越えられるってことも証明できたじゃないか。これから何があってもホシを離さない。それこそずっとね」

 ホシは「エヘヘ」と笑いながら、言った。

「うん! 私も何があっても祐治くんを離さない!」


「送ってくれてありがとね、ホシちゃん」

 家のドア付近で母親が言った。

「いえ、祐治くんが私をかばってくれたこと、一生忘れられないことですから」

「そうね、あなたたち、もう付き合ってるんだものね。これからもうちの息子よろしくね」

「ちょっと母さん……」

 するとホシは遮った。

「いいじゃない祐治くん。はいそうです。私たち、将来を誓った仲ですから!」

「あらあら、お熱いこと。それじゃ、うちの祐治をよろしくね」

「はい……あの、お母様は怒ったりなさらないんですか?」

「うん? どうしたの?」

「大事な祐治くんの身体を傷物にして。私、本当にご家族にもお詫びしなくてはならないとずっと思ってて」

「祐治が無事に生きていて、あなたも元気であればそれで十分よ。私も改めてうちの子の接し方や命の大切さを思うきっかけになった。だから、もう、絶対にけがしたり命の危険に逢うようなことがあっちゃだめよ」

「はい、お母様……申し訳ありません。お父様にもそうお伝えください」

「だからいいのって。ほら、暗くならないうちにあなたもお帰り」

「はい、ありがとうございます……祐治くん、それじゃ、明日の朝もお家に迎えに来るからね。毎日そうやって一緒に学校に行くの、楽しみだから」

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