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ワインに深入りしないワインの話(16)~ 自己主張しないから目立つ人

アリゴテは、ブルゴーニュで広く栽培されている品種です。

無造作に造ると一般的には凡庸になることが多く、かつてはクレームド・カシスと割ってキールを作る際の「割りワイン」として用いられることが多かったようです。

ブルゴーニュの白といえば、これは言うまでもなくシャルドネの独壇場です。

そこでアリゴテの生産者は、どうしてもシャルドネに似た味わいを求めがちで、それが奏功すると誇らしげに「シャルドネに負けない」などと胸を張りたがるのですが、他品種を持ち出す時点ですでに負け犬根性が染み出していて、あまり格好の良いものではありません。

これはなにもワインだけにいえることではありませんが、似たものと比べずに自己を磨くほうが建設的な気がします。


ドメーヌ・ビセイ ブルゴーニュ・アリゴテ キュヴェ1928

このワインは、薄めの黄金色ですが、控えめな香りは高貴で、ほのかにライチや白い花、ジャスミンなどが香ります。1口含むと、非常にバランスが取れていて、何も突出したところがありません。

酸と果実味と深みが良く調和しています。2口目には僅かな苦みも現れて、複雑さが出てきます。

アリゴテは、同じフランス白ブドウ品種であるシャルドネやソービニヨンブランとどこが違うのか。
シュナンブラン、グルナッシュブラン、はたまたリースリングなどとはどうなのか。

これは、まったく異なります。
大きな違いです。

それは、これといった特色がない点といえます。

生産者はホタテのソテー(日本式にいうとバタ焼き)を推奨しています。

カキフライに卵の多いタルタルソースとレモンで合わせたら、ほろ苦さが倍増してなかなかでしたが、ベストマッチといえば、カマンベールやブリーといった白カビ系のチーズでした。

このマッチングは双方が相方を引き立てる、隠れた良さを表に出すという、ワインとお供の理想的な相互引き出し関係でした。

白カビ系チーズは、もともとナチュラルチーズの中でも控え目な味わいが主流で、一般的にはあまり自己主張が強いほうではありません。

アリゴテも同様で、似た者同士の組合せになります。

そうすることで、見過ごしていた本質が表舞台に引き出されるのがわかります。

つまり、アリゴテの良さとは、アリゴテがいなければ気づかないままやり過ごしてしまっていた白カビチーズの奥深い良さを顕在化させることです。

「俺が俺がの我を捨てて」という一節がありますが、まさにアリゴテと白カビの双方の生き方みたいな形容です。

普段は、自己主張の強いキャラクターに同行していると、目立たなくて陰に隠れてしまいます。

その相手を立てることを身上としたアリゴテが、これまた奥ゆかしい白カビ系と出会うと、アレ?という変貌を見せるから面白いものです。

いつも埋没している引き立て役同士が競い合うと、双方の良さが表出して、奥底にしまっておいた本質が炙り出されてくるのでした。

そういわれて再度グラスを傾けると、気品のある樽香もきいて、なかなかの存在感がありました。
酒言葉=穏徴

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