ワインに深入りしないワインの話(3)~ 能「巴」を庭園で鑑賞して
勤労感謝の日、目黒にある庭園美術館で開催された庭園能を観ました。
写真は、この庭園の主(あるじ)たる旧朝香宮邸の建物です。
強めの寒風とはいえ好天に恵まれ、晩秋というか初冬の透徹した気を感じながら鑑賞することができました。
番組は「玉鬘(たまかづら)」の仕舞のあと、「巴(ともえ)」でした。
シテは香川靖嗣さん(喜多流、重要無形文化財保持者)、ワキは大日方寛さんでした。
大日方さんは売れっ子のワキ方(下掛宝生流)で、これまでにも安宅の富樫など、いくたびも観覧させていただきました。
さて、この巴という曲は、木曽義仲の伴侶・巴御前の話で、数多い能のなかで唯一の女修羅物として知られています。
修羅物とは武者のお話で、男であることが(ほぼ)デフォルトになっているなかで、唯一の例外がこの巴です。
女武者といっても生半可なものではなくて、滅法強い人です。
普通の(男の)武者が5人束になって掛かってきても、簡単に討ち取ってしまう場面が語られます。
女=弱きもの、守るべき存在という一般的な通念へのアンチテーゼといえます。
そこで思い出すのが、「ロゼ=甘いワイン」「ロゼ=初心者向け」という固定観念です。
西欧現代においては、すでにそんな過去の通念は20世紀ノスタルジーとしてとっくに捨て去られています。
南仏ニースやリビエラ海岸では、夏季バカンスシーズンにはロゼワインがもっとも飲まれていますし、店番が今夏に現地に行った際にも、ワイン売場の棚は白よりもロゼのほうが大きいスペースを占めていました。
ところが、こと我国においては、依然として昭和の亡霊が令和の現世にも徘徊しています。
とくにシニア層にはその観念が強く、本日のこのような美味しい辛口のロゼをお奨めしようとしても、話も聞かずに怒り出すお客さんを何名も接客して参りました。
もっとも、日本のワイン愛好家にも世代交代の波は避けがたく、ロゼに対する先入観のない次世代によって、ようやく世界標準のロゼ消費が始まりつつある今日この頃という光景です。
こちらは南フランスのラングドック地方のロゼワインです。
ラングドックとは、オック地方の言語(ラング)という意味だそうです。
そのオック地方も広く、このワイナリーは、ほとんどスペイン国境のピレネー山脈にも近いオード県のラ・パルメ村にあります。
地中海に沿っていくつか連続して形成されている小さな潟湖のうちの1つの湾奥にある村です。
海と丘の双方の特徴をいかにも取り込む地形です。
祖父の農地を継承した当代が、機械の代りに牛馬を葡萄畑に導入し、農作業をさせるとともに、その堆肥やハーブを用いて化学肥料を廃止しました。
賢者のワインは、ことさら自然農法を信奉しているわけではなく、純粋にワインを評価して選定しています。
鮮やかなピンク色で、ロゼとしては濃いめの色合いです。
赤いベリー系の果実の高い芳香が立ち上ります。
口当たりは柔和で、エレガンスを感じます。
ミネラルのニュアンスがあります。
バランスにすぐれていて、素直に美味しいと感じます。
使われている品種はシラーとカリニャンです。
うまくまとまっていますが、特筆すべきは果実感あふれる香りと、トータルなバランスの良さだと思います。
酒言葉=慈愛