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ワインに深入りしないワインの話(11)~ 野中・竹内「SECIモデル」を実行する素材としてのワイン

南アフリカのケープタウン郊外に、ステレンボッスという銘醸地があります。

この地で、イタリア移民の紡績商が取得したワイナリーが、ナブッコという名の良いワインを出しています。


南アのナブッコ

ワインに限らずネーミングとは、名付け親の意志の塊(カタマリ)です。

南アのナブッコという商品名を聞いたとき、これはイタリア系の人だろうなとは思いましたが、なんとネッビオーロの苗木(!)を、本場イタリアのピエモンテ州から選りすぐって持ち込んで植えたということです。

道理でと思いました。

いくら同じ品種だといっても、産地がかけ離れているとワインの味わいも風合いも別のキャラクターになることが多いのですが、このナブッコはピエモンテの2枚看板であるバローロ、バルバレスコを生み出す同地のネッビオーロと酷似した飲み口なのです。

クローンが同じだったのですか、それで得心しました。

1口目の印象は「キレイ」です。とにかく優しい口当たりで、透明度の高い、清明な液体がグラスから口中に流れ込んでいくのがわかります。

店番が推奨するワインの飲み方は、野中郁次郎と竹内弘高が開発した日本発の世界的経営理論である「SECI(セキ)モデル」を最初から参照しています。

SECIの実践では、「つべこべ言わずに体験を共有する」という社会化(Socialize)が出発点とされているので、店番の考える「正しいワイン」を毎月飲むことを推奨しています。

とはいえ、いつまでも「黙って飲んでください」というスタイルではなく、どこかでSECIの第2フェーズである表出化(Externalize)も必要です。

これは、暗黙的な体験にどのような意味があるのかを形式知化することです。

ワインでいえば、支障のない口当たり、バランス、エレガンスといった用語で構成されていきます。

このナブッコは、そのすべてを充足しています。

最初がキレイなのですが、よく味わうと、実は力強さを伴っていることがわかります。

渋みは口中に棘々(とげとげ)しく衝突するのではなく、なめらかに溶け込む形で存在しています。

スムーズな飲み口と同時に、丸いタンニンとして窓の外を並走しているのが確認できます。

東海道新幹線でいえば、木曽川橋梁を並走する名神高速道路のような状況です。

さてこのワインの2016年は、産地では観測史上最も乾燥した年となり、凝縮度の高い傑出したビンテージになりました。

上質なネッビオーロに合わせる料理として、教科書には野兎のシチューなどと書いてあって思わず苦笑してしまいます。

日本の家庭で現実的なものとしては、牛のスネ肉あたりをお好みの味付けで濃い目に煮込むと、美味しく合わせられるかと思います。
酒言葉=望郷。

なんでワインに野中・竹内が出てくるのか?についは、こちらをご覧ください。
https://www.kenja-wine.com/


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