［ショートショート］Cloud-Nine

　今日からリュウノスケが家で待っててくれる。ウッキウキだ。有頂天だ。
　こういう状態を英語で『クラウドナイン』とか言うらしい。同期で親友のマキちゃんから教えてもらった。マキちゃんは私なんかと違ってチョー優秀。いわゆるデキるオンナってやつ。それでも私にはすごく良くしてくれる。ご飯もいっしょに行く。グチも聞いてくれる。
　だけど……だけどさ、女友達も良いけどさ、だけどやっぱりアタシの人生にはオトコが必要なの。イケメンであればあるほどヨシ！ 優しければカンペキ！
　もちろんそんなオトコ滅多にいないけどね。でも滅多にいないって事は、すっごく少ないけどどこかにはいるって事でもある。
　え？ いる訳ないって？ でも、いたのよ。
　それがリュウノスケ。
　リュウノスケとはまさに運命の出会いだった。アタシの好みにどストライクの超イケメン。とっても優しい。
　ぎゅっと抱きしめられたらトロけちゃう。トロけちゃうと言えば、エッチの方もね。うひひ。
　思い出すだけでニヤけちゃって困る。マキちゃんにはすぐバレた。他の人にもバレバレだったって。
　でもいいんだ、アタシはリュウノスケの為に生きると決めたんだから。今日はこれで仕事オシマイ！ さっさと帰らなくっちゃね。

　リュウノスケに初めて会った時、アタシはもう腰が抜けるかと思った。下手なアイドルよりずっとイケメンで、あまりの尊さに感激して涙がちょっと出ちゃったし、ここだけの話アソコもちょっと濡れた。そんな感じだもんだからリュウノスケは本当に一瞬でアタシのイチ推しになってしまったの。
　もう全てを捧げたい！って、頭の中はそれだけでいっぱい。気を引くためにプレゼントしたり、変な虫別のオンナがつかないようしょっちゅうお店に通ってドンペリ開けたりしてね。
　そしたらね、リュウノスケったらどんどんアタシに優しくなっちゃって、もう困っちゃった。シアワセ過ぎて。
　思い出したら知らず知らずのうちに口元がニヤけちゃう。
　でもニヤニヤしながら道を歩いてたら怪しいじゃない？ だから一生懸命こらえるんだけど、これがまぁ大変。上手くいかないの。
　だって初めてリュウノスケがキスしてくれた時を思い出したら、も～ぅガマンできないっ。あんっっっなに甘～いキスは初めてだったんだから。

　帰りの電車は割と空いていて座る事ができたけど、揺れでイスがお尻を突き上げてきたのがきっかけで、リュウノスケと初めてエッチした時の事を思い出しちゃった。本当にアタシってスケベだなって思う。でもね、本当に素敵だったんだ～。いっぱいプレゼントしたかいがあったわ。
　全部リードしてくれて、手でも口でもしてくれて、もうそれだけでトロけたわ。それにリュウノスケの裸ったら、思ったよりもマッチョだったのよ。痩せマッチョってやつ。そこもまた好き。
　おまけにあんな可愛い顔してアレは太くて凶暴なの……お口でご奉仕したけど、おっきくて硬くて大変だったんだよ？ それで最後はそんなアレに前からも後ろからもされちゃって、アタシのアソコ、そりゃ～もう凄かったんだから……ふひひ。
　……おっとっと、あの甘～い夜を思い出してたら、乗り過ごしそうになっちゃった。危ない危ない。リュウノスケが待ってるんだから少しでも早く帰らなくっちゃ。
　駅からアタシの家ウチまで歩いて二十五分。この二十五分を何とか一秒でも縮めたい。本当は走りたいけど、この靴ヒールが高くて無理だからさ、できるだけ早足で帰るよ。
　待っててね、リュウノスケ！
　昨日の事は何にも気にしてないから安心して。

　え？ 昨日の事？ 気になる？
　それはね、うふふ、昨日もエッチしたのね、リュウノスケと。
　そしたらリュウノスケの事、ますます好きになっちゃって、もう帰って欲しくなくなっちゃって、それで、ずっと家にいて欲しいって言ったの。
　そしたらさ、リュウノスケったらアタシの言う事を全然聞いてくれなくてね、さっさと帰ろうとするんだよ？ ひどくない？
　がんばって何度もお願いしたの。『手を替え品を替え』ってやつね。前にマキちゃんから教えてもらった言葉だけど、でもそれがぴったりだったと思う。なにしろリュウノスケったらガンコなんだから。
　そりゃガンコなところも好きだけど、度がすぎるのは良くないわ。しまいにはアタシの事メンヘラだのブスだのカネヅルだの心にも無いことまで言っちゃってさ……ううん、全然平気だよ、ありがと。だって最後は包丁をお腹に刺して、首をくくって締め上げたら、ようやく家にいてくれる事になったんだもの。エッチはもう無理だけど、でもいいの、家にいてくれるだけで。
　だから一日中ウッキウキの有頂天、クラウドナインだったって訳。当然だよね。
　リュウノスケは永久にアタシだけのものになったんだから。

＜了＞