五平餅作り ~アクティビティプログラム~
行事の紹介
高齢者の福祉施設(入所型)で実施した昨年の11月の行事について、記載したいと思います。昨年のような日々がまたやってくることを願い記載します。
アクティビティ・サービスの視点から、この行事は企画しています。(アクティビティプログラム)
利用者の方皆さんで「五平餅」を作り、皆さんで食べるという企画になります。私の勤務する施設ではこのような企画はここ数年しておりませんでした。このアクティビティプログラムを企画するにあたっての行事日までの取り組みについて記載していきます。
五平餅作り ~アクティビティプログラム~
このプログラムは、利用者の方々が調理をする機会が今までなかったので、なにかを調理することをやってみたらどうか・・とふと思いついたのがきっかけです。
利用者の方からお話を聞くと思いのほか反応があり、今回の企画を進めることにしました。
そうした中で、候補に上がって来たのが、「干し柿」と「五平餅」です。11月という季節から、この二つがあがってきました。「干し柿」は11月というイメージがでてきましたが、「五平餅」はなぜ?というのが正直な感想でした。
「五平餅」は祝い事の食べ物として考えられていたようです。利用者の方に話を聞くと、なにか祝い事があって皆が集まるときに、比較的簡単に(私から見たらそんなに簡単ではないですが・・・)できるからよく作ったよ・・なにかと言えば五平餅だった・・と多くの方から色々なお話を聴くことができました。なぜ11月かというお話では、稲作をされていた方が多くいらっしゃり、お米がとれた時に、その収穫のお祝いとして五平餅を作って、皆でお祝いをしたとのことでした。
そこから、新米で「五平餅」を作ることで、季節感を感じることができるのではないかと思い、今回の企画を実施することとなりました。
行事の担当職員と相談して、結局、2日に分けて「干し柿」と「五平餅」作りを実施することにしました。干し柿作りは数年前にも実施しており、比較的好評でした。
リスクマネジメントの視点 (介護福祉施設として)
今回の企画では配慮したことがあります。
それは、集団として利用者の方が作ったものを、皆で「食べる」という企画は、前例がなく下記のリスクマネジメントの観点が一つのハードルになりました。(干し柿も食べるところまではしていませんでした。)
①衛生管理、感染対策の問題
②窒息、誤嚥のリスク管理
皆で作ったものを、皆で食べるという・・昔は当たり前にしていたことが、施設という生活の場面では当たり前にできないことに複雑な思いを持つと同時に、上記のリスクは、考えなければならない現実があります。上司とも相談し、下記の方法で、今回は実施することとしました。
①のリスクについて
・手荒いをしっかりする。
・手指消毒をする。
・調理時は、手袋、マスク、ヘアキャップを着用する。
・ご自身で作ったものを、ご自身で食べる。
②について
・小さめのサイズとする。(様々な意見がありましたが・・・小さいことでリスクもありますので本来の五平餅より小さくという観点)
・誤嚥、窒息のリスクのある方は付き添い、または介助をさせて頂く。
・食べるときは職員が見守りをしている。
上記の点を配慮して、今回の企画をはじめることになりました。
アクティビティプログラムの開始
行事日を設定、そこで「五平餅」を作り、食べる企画をします。
そこへ向けて、普段のレクリエーションのなかで、日常生活のなかで、利用者の方に「五平餅」について、お話をお聴きはじめました。
・どんなときに五平餅を作ったのか?
・五平餅の作り方は・・・・・?
・五平餅の「たれ」はどのようなものか?
・「たれ」に必要な材料は?
・五平餅の形は、どんな形?、大きさは?
・五平餅を焼くときは、どのような風に?
そこから、プログラムが広がっていくこと感じ、少し手応えを実感しました。
当然ながら、私自身は五平餅を作ったことはありません。
しかし、その情報収集については、困ることがありませんでした。
ネット等で、作り方は簡単に得ることはできましたが、それ以上に利用者の方から聞くお話を中心に情報収集ができました。そして、職員や知人からも多くの助言をえることができました。
まずは、「たれ」を作るときに、胡桃が欠かせないということ・・・・
早速、ある職員の方が、胡桃を持ってきてくれました。予想外のできごとでした。山から拾ってきたとのこと(その方の山)で驚きました。
胡桃をとって、皮を剥く、洗う、殻を割る、実を出す という一連の作業は、多くの利用者の方が実際にされていたことでした。
皮付きの胡桃を、剥く作業から、利用者の方と一緒に行いました。最初は軍手をしていましたが、時間がたつにつれて、素手でおこなっている方が多くなりました。
昔、よくやったことだが、今は手がうまく動かなくて、うまくむけない・・・ともどかしさを感じている様子でしたが、その作業スピードは想像以上に速く、あっというまに、たくさんの黒っぽい胡桃が姿を見せはじめていました。利用者の方の表情が明るく、心が動いている様子が見てとれました。「こっちはもうないよ」・・そんな声が聞こえるようになりました。
こうした様子を見ていて、こんな作業が、たくさんあったらいいなあと思いました。とうもろこしの皮を剥いたり、大豆の豆をとったり、昔の生活になじんだ作業を・・・いろいろなアイディアが浮かんできました。・・・
利用者の方とそんな話をしたとき、昔は「こんにゃく」を作っていたよと話がありました。その時、周りにいた多くの方が作っていたようでした。こんにゃく芋・・・かなり興味が湧きました。同時に、なんとかソーダ、化学物質?の名前もでてきましたが私には理解できず・・・後で調べて理解しました。
話は戻ります・・・
その胡桃は、私が洗い、干しました。(環境上の理由でそのようにしました)私にとって、初体験でした。利用者の方に洗い方を教えていただきました。なんどもこすりながら、すすぐことを繰り返しました。ある利用者の方からは、木の棒でかき混ぜるように洗うといいよとか、とって来た胡桃は、土にいれておけば、皮は自然に朽ちて、簡単にとれるようになるよ等、様々な生活の知恵を教えてくれました。胡桃は先が尖っていて洗うと痛かったです・・・それも、事前に教えていただいていたことでした。
胡桃を入れていた桶の水がきれいになるくらい洗いました。そして、その胡桃を外に干しました。数日はかかるということで、利用者の方が通る場所、見える場所に干して、日々、胡桃の様子を観察しました。そこを通った際には、胡桃の話から、五平餅の話題になりました。
このように、日常生活のなかで話題になること、それは今回の企画のひとつのねらいになります。
たれの話
利用者の方から教えて頂いた「たれ」について紹介したいと思います。
五平餅の「たれ」の作り方は?
シンプルな回答は「たれは、胡桃、味噌、砂糖で混ぜれば良い!」でした。
「味噌、醤油、砂糖、混ぜればいい・・・」最初に聞くととても簡単に思えました。
しかし、よくよく聞くと、微妙な味加減、それぞれの方法があるようでした。
例えば、胡桃をすり鉢で擦る、そこへ「でがらしの番茶」を入れる…「でがらしですか?」「そう、でがらしの番茶!」そこへ味噌を入れて、「どのくらい入れるのですか?」「いい加減で….」「塩も入れるよ!」「砂糖もいれる」「柚子をいれると、おいしくなるよ、柚子は皮を擦っていれるんだよ」
などなど、使う材料は限られてきましたが、味付けは様々なことが分かってきました。
そこで考えたのは、「懐かしの味」を再現するということです。
手が昔のように動かなくても・・・
すり鉢でうまく胡桃を擦れなくても・・・
お手伝いをさせて頂く中で、味見をしてもらいながら「懐かしの味」に近づくことができるのではないか?
このようなことを考えていると、なんとなく、数名の利用者の顔が私の頭に浮かんできました。
いくつかの小グループに分けて、グループで相談しながらいくつかの「たれ」を作りあげていくことにしました。そこでは、自分の「たれ」の作り方を発信できること、自分の「たれ」を昔のように実際に作れること、また、その「懐かしの味」を再現でき、さらには味わうことができるように考えました。
もうひとつのポイントがあります。それは、他者との交流という面です。それは、ある意味入所型施設のストロングポイントになります。
内面的な昔を思い出し、昔を懐かしむという思いを、誰かに話す、伝えるということは大変重要なことだと考えています。発信することで、生活の快を得ることができると考えています。そこで発信されたことを否定する要素は全くないことが容易に分かります。五平餅のたれを通じて、自分の生活歴を肯定的にとらえられることが目的になります。このコミュニケーションのなかでは、自分の「懐かしのたれ」を語ること(発信すること)と同時に、他者の「懐かしのたれ」を聴くこと、更には味わうことができる場になるように意識していきたいと考えました。
そんな、グループを作って進行していくことが見えてきたなかで、更なる課題が見えてきました。
それは、五平餅の「餅」の部分に当たるところです。
どうやって、米を炊くのか?
どうやって、焼くのか?
そこにも、各家庭、独特のこだわりが見えてきました。