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小さな理髪店にて

最近は気候も良く歩くことが
楽しくて仕方がないです
少しでも時間があれば
のんびり散歩してます

季節によって咲いてる花や
風の香りの変化を感じられるのは
とても心地良く心が弾んでしまう

何も考えず歩いていると
心の中や頭の中が整理される気もする
考え事や悩み事や突然の閃きなど
凸凹がカチッとハマる瞬間が稀にある
それが堪らなく心地良かったりする

また歩いていると
その日の自分の体調にも気付ける

調子が悪いときは
ゆっくり湯船に浸かって
早く眠ろうと思ったり

調子が良いときは
長い距離を歩きたくなり
あえて隣町の本屋まで行くこともある

✳︎

昨日は近所から遠く離れた町の
裏路地を中心に歩いてみた
知らない町の知らない道を歩くのは楽しい

少し疲れてきたので
どこかで休憩できる場所はないかと
漠然と日陰を歩いていた

すると赤と青と白がグルグル回る
細長いポールが目に入った
昔ながらの理髪店でした

殺風景な場所にポツンと立つ理髪店
興味がそそり、お店の前で立ち止まってみた

外にメニューの看板があり
「顔剃り」の項目があったので
直感的にやってみようと思い立ち
勇気を出して入ってみることにした

店内に入ると椅子が2席しかない
とても小さなお店だった
店内の匂いやポスターや理容道具など
この空間だけ昭和が残されてるようだった

店内には誰もおらず
「すみません」と店の奥へと声を届けた
すると70歳くらいの白髪のお爺さんが
「は〜い」と言いながら顔を出した

お爺さんは突然訪れた自分の姿を見て
とても不思議そうな顔で驚いていた

おそらくこの理髪店には
常連さんしか来ない店だと思われ
見知らぬ男の訪問に驚いていたんだと思う

「顔剃りだけやってもらうのは可能ですか?」

その言葉でお爺さんは
自分の事を客だと認識したようだった

大きな鏡の前にある
茶色い椅子に座った瞬間
小学生の頃によく通っていた
理髪店の風景を思い出してしまった

そこは夫婦で営んでいる小さな理髪店で
「あまり短くしないで下さい」
と言ってもガッツリ短くされる理髪店でした

おそらく「もっと切ってくれ」という
親からのクレームが沢山あったんだと思う
そんな懐かしい記憶を思い出してしまった

こんな風に忘れていた記憶が甦える瞬間は
堪らなく心地良いものだと
歳を重ねるようになってから
染み染み思うようになってます

✳︎

柔らかいハケに塗られた
シェービングクリームの熱が
滑らかに顔全体に広がる感覚は
とても新鮮で気持ち良かった

そしてカミソリが丁寧に顔の輪郭を走る
お爺さんの熟練の技を顔で受け止めるのは
何だか感慨深いものがあった

「この辺の方ではないですよね」
「引っ越してきたんですか?」
「この店は41年目になるんですよ」
「大谷翔平はすごいね〜」

思ったよりも話しかけてくるタイプの
陽気なお爺さんだった

カミソリが肌から離れたときだけ
話しかけてる事から
そのお爺さんの優しさが伝わってきた

最後におっさんの匂いのする
スースーする液体を顔全体にかけられ
そして非日常で不思議な顔剃りが終わった
時間にしたら25分くらいだったと思う

そしてお会計をした後
コンビニやスーパーなどでは
あまり見かけないタイプの
大きな飴を1つ貰った

その時も小学生の頃を思い出してしまった
それは耳を切られてしまい流血したとき
特別に飴を2つ貰い
ラッキーだと思った記憶でした
(今考えると、とんでもない雑な扱いですね笑)

✳︎

自宅に帰って珈琲を淹れ
剃ったばかりの顔を何度も触りながら
さっきの出来事を考えていた

突発的に理髪店に入って
顔剃りをしてもらった事は
奇妙な出来事だったなと思えた

ついさっき経験したばかりなのに
何だか理髪店へ行った実感が全く湧かなかった

もしかしたら今からその理髪店へと
猛ダッシュで戻ったとしたら
そんな理髪店は存在しないかもしれないと
意味の分からない事を真剣に思ってしまった

ツルツルでスースーした顔面と
顔面から出るおっさんの匂いと
マイナーな大きな飴があったので
ぼんやりだけど今日の出来事に
現実味を感じる事ができた

そんな小さな理髪店での
小さな出来事でした。


【後記】

理髪店の店内には昭和の男前の
古いポスターが貼ってあった
現在の韓国風の綺麗なイケメンよりも
昭和のゴツゴツした男前の方が
断然格好いいと思ってしまった


それではまたCiao!

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