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[無料]架空遭難 68歳男性、甲武信ヶ岳に向かっている途中で体調不良

架空遭難とは?

架空遭難とは、筆者が設定した状況で当事者ならどうする?どうなる?自分ならどう行動する?などを考えることで山岳遭難に備えようという試みです。ツイートに反応することで参加できます。

今回の条件

  • 68歳単独男性、登山歴は40年

  • 5月中旬の土曜日、晴れ

  • 金曜日に韮崎駅から瑞牆山荘までバスでアクセスし、10時にスタートして17時に大弛小屋に到着、宿泊

  • 8時に大弛峠を出発。甲武信ヶ岳15時、甲武信小屋15時半の宿泊計画

  • 13時に赤点の地点に到達したところ、胸が苦しくなり痛みと動悸

  • 携帯電話は圏外で繋がらない

  • ツエルトとコンロはある。水残り1L、食料600kcal

  • 雪はあるかも知れないし、一部を除いて無いかも知れない。今年のように2月の八ヶ岳でも雪が無いのであれば5月の甲武信ヶ岳は無雪の可能性も十分あります

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甲武信ヶ岳はどんな山?

標高2475mで、山梨県、長野県、埼玉県の三県にまたがる県境となっています。千曲川、荒川、笛吹川の水源であり日本百名山でもある。奥秩父主脈の中でも代表的な一座で、位置的には主脈の真ん中辺りに位置します。山頂近くには甲武信小屋があります。

登山のコースは多数ありますが、今回のケースで使われた大弛峠からのコースは比較的マイナーな部類です。一般的には、山梨県側(南側)の西沢渓谷、または長野県側(北側)の毛木平から日帰りで登る登山者が多いようです。

甲武信小屋

ルート途中で胸に違和感、どうする?解答例

いつものことですが、これから書くのはあくまで解答例で、この通りにすれば必ずしも助かる訳ではありません。今回のケースは運の要素も大きいので、そのまま死んでしまうかも知れないし、運良く助かるかも知れません。運の要素が入ってしまった時点で、ある程度負けている状態です。

疲労や息切れ?狭心症?心筋梗塞?持病?

『胸が苦しくなり痛みと動悸』とのことですから、心臓や肺になにか問題があるような気がします。また、他の原因で胸に違和感があるのかも?

私は医療従事者ではないので「68歳男性が胸の痛みと動悸を訴えている」という条件から、可能性をAIに考えてもらいました。AIも医療従事者ではありませんが、私の医療知識よりはマシな気がします。

心臓疾患

  • 狭心症
    心臓への血流が一時的に不足し、胸痛や動悸、息苦しさを引き起こします。労作によって症状が現れ、休息で改善することが一般的です。

  • 心筋梗塞:
    心臓の血管が閉塞し、心筋への血流が遮断される病状。心筋の一部が壊死する。胸の強い痛みや圧迫感、動悸、息苦しさ、冷汗などが特徴的で、緊急医療が必要です。

  • 不整脈
    心臓の拍動が異常になり、胸の違和感や動悸を感じることがあります。種類によって症状や治療法が異なります。

  • 弁膜症
    心臓の弁が正常に機能しない状態で、血液の流れが妨げられることで胸の痛みや動悸、息切れなどの症状が現れることがあります。

  • 大動脈解離
    大動脈の内膜が裂けて血液が大動脈壁内に侵入し、大動脈が二重になる病状。突然、胸あるいは背中に杭が刺さるような激痛が特徴で、非常に緊急性の高い状態です。解離が進むにつれ、痛みが胸から腹、脚など、体のいろいろなところに移動する場合があります。

消化器系の問題

  • 胃食道逆流症(GERD)
    胃酸が食道に逆流し、胸焼けや胸部不快感を引き起こすことがあります。

  • 胆石症や胆のう炎
    胆石が胆のうや胆管を塞ぐことで発生し、胸部に痛みを感じることがあります。

心因性の症状

  • パニック障害
    強い不安や恐怖から突然の動悸、胸の痛み、息苦しさなどが発生することがあります。

その他

  • 肋間神経痛
    肋間の神経が刺激されることで胸部に痛みが走ることがあります。

  • 筋肉痛
    胸部の筋肉が過度に緊張することで、痛みや不快感を感じることがあります。

  • 高血圧症
    血圧が持続的に高い状態。自覚症状は少ないこともありますが、高血圧が原因で心臓に負担がかかり、胸痛や動悸を感じることがあります。

  • 低血糖症
    血糖値が異常に低下する状態。動悸、冷や汗、ふるえ、強い空腹感、集中力の低下などを引き起こします。

  • バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
    甲状腺ホルモンの過剰分泌により、代謝が亢進する病気。動悸、手の震え、体重減少、耐え難い暑さ、不安感などが特徴です。

  • 貧血
    血中のヘモグロビンが正常より低い状態。酸素運搬能力の低下により、疲労感、息切れ、動悸などが現れます。

こんなにあるんですか。プロからしたら「無いわwww」というものも混じっている可能性もありますね。逆に、他にも様々な可能性があるかも知れません。要は、症状の原因は多様で、短時間で死んでしまうものから休めば回復して普通に歩けるようになるものまで幅広いということです。

さて、どうするか?

選択肢は二択です。

  1. 休憩して歩けそうなら行動を続けて甲武信小屋を目指す

  2. 歩けそうにないので、近場で良い場所を探してビバーク準備をする

時刻は13時。ソロで携帯電話は繋がりません。いずれにせよ休憩は必要なので、適当に広い場所を見つけるか、座りやすい倒木にでも座って休憩しましょう。深呼吸をして、心と体を落ち着けるのも大事です。

狭心症、大動脈解離、弁膜症になる人がこんなソロ登山を続けているとは考えにくいですが、これが初めての自覚症状や、これまではそれほど深刻に考えてこなかったのかも。『胸が苦しくなり痛みと動悸』から予想される原因の多くは休憩で回復するものです。すべてが死に繋がるものではありません。

これまでに自覚症状があって、薬を処方されていたのなら指示に従って服用します。休憩や薬の服用、水分補給、エネルギー摂取によって症状が改善し、動ける状態になったらゆっくり甲武信ヶ岳を目指せます。ただし、緊急性が低い症状だった場合に限ります。

心筋梗塞や大動脈解離の場合は、ここで行動停止となるでしょう。歩けるかどうかは自分で判るはずです。無理そうならビバークをして助けを待ちます。

助けを待つ場合の行動

  1. 安全な場所に移動する
    まずは、稜線上でツエルトを張れる程度に広い場所を探します。登山道から離れず、木や地形も利用して風を避けられる場所がよいでしょう。ツエルトとコンロはあるので、ビバーク態勢を整えます。雪が残っていれば当面の水は確保出来ますが、今年の少雪傾向であれば雪が無い可能性もあります。

  2. 安静にする
    激しい運動や動作は心臓に負担をかけますので、安静にして体の負担を最小限に抑えてください。動けないほどの痛みや動悸があるわけですから、安静にするしかありません。ただ、心筋梗塞であれば35%~50%の方が発症から48時間以内に死亡するそうです。死ぬのは時間の問題かも知れません。

  3. 薬を持っている場合
    心臓病などの既往があり、医師から処方された薬を持っている場合は、指示に従って服用してください。

  4. 体を温かく保つ
    体温が下がると心臓に余計な負担がかかるため、防寒対策をしっかりと行ってください。防寒着を雨具を着込む、落ち葉や枝を集めてツエルトの下に敷く、ザックに足を入れるなどで対処しましょう。コンロでお湯を沸かして飲むのもよいですが、水と燃料は節約してください。

  5. 助けを求める
    携帯電話が圏外であっても、時々電源を入れて圏内になっていないか確認し、110番や119番への通報を試みてください。または、ホイッスルを吹く、コッヘルで木を叩く、声を出すなどして登山者の注意を引く試みをしてください。動けそうなら電波が入りやすいピークを目指せるといいのですが、動けないなら無理はしないほうがいいかも。

  6. 救助信号を出す
    ヘッドランプで夜間にSOS信号(3回短い光、3回長い光、3回短い光)を発信します。昼間であれば、目立つ物を使って救助信号を作ることも一つの方法です。ヘリが飛んできたのなら鏡で光を反射させるという手もあります。

  7. 呼吸をコントロールする
    深呼吸をして、できるだけ落ち着いた状態を保ちます。パニックになると症状が悪化することがあります。

5月中旬の2200m地点で何日ビバークできるかは分かりませんが、動けないのなら助けを待つしかありません。

原因や症状によっては自力で歩いて甲武信小屋まで行けるかも知れません。ただ、緊急性が高い病気であれば無理に動くことは出来ませんから、誰かが通りかかるか、自力でビバークをして救助が来るのを数日待つしかないのかなと思います。それまで生きていられれば、ですが。

もし誰かが通りかかって救助要請を頼めるのなら、氏名、性別、年齢、住所、電話番号、緊急連絡先、現在地の座標、症状、持病、残り装備などをメモとして渡してください。通りかかるのを待っている間に暇なら、その様な情報を紙に書いておくといいかも。

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まとめ:助かるかどうかは、分かりません

今回は、中高年以降のソロ登山には病気からの行動不能や死の可能性があるということを提示してみました。誰もいない山中で突発的な病気によって行動不能になり、そのまま死んでしまうかも知れない。助かるかどうかは、運次第。可能性を残すために土曜日と設定し、それでいてあまり人が通らないルートにしました。悩ましいですね。

今回の68歳ソロ男性が死なずに済むのか、登山を継続できるのか、一人で死ぬのかは、考えられるパターンが多いため分かりません。心臓が止まる系の原因でなければ、休憩によって回復してそのまま問題なく登山を続けられるでしょう。逆に、心筋梗塞など心臓が止まってしまう病気が原因ならもう動けませんし、そのまま死を待つだけかも知れません。

そうならないように、なってしまった時に対処できるように普段から健康診断を受けて、不安があれば病院で検査などしてもらうことが大事です。山行前に不調の兆しがあったら中止して病院に行くという判断をしてもよかったかも知れません。

持病があって薬を処方されているのなら、仲間に薬をしまっている場所と使い方を伝えておきましょう。狭心症用のニトロを持っているなら舌下投与の仕方を教えておくとか。持病についてはプライバシーもあるので触れるのが難しかったりもしますが、命に関わる情報は共有しておいた方がよいでしょう。

ここ数年、山岳遭難統計では病気の件数が増えています。他に増えているのは転倒と疲労です。これは登山者の高齢化を示しているのではないかと思われます。今後もしばらくはこの傾向が続くでしょう。若い登山者が病気にならないわけではありませんが、高齢になれば病気のリスクが上がるのも確かです。

また、ソロ登山はパーティー登山の3倍死にやすいと統計にも出ています。年齢を考えてソロを引退してパーティー登山で仲間と楽しく登るとか、携帯電話が通じて安全地帯までの距離が近い山を選ぶなど、登山のスタイルについても考えたほうがよいです。年齢を考えて、楽しく安全な登山をしてください。

ソロ登山中の急病、そのときあなたは適切な対処が出来ますか?自分の事として考えてみてください。

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松本圭司@ジオグラフィカ開発者
わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。