エンパワメント: 家族が力を発揮するためのアプローチ
「エンパワメント」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
福祉の用語ですが、源流はアメリカの黒人差別撤廃運動から生まれました。
と聞くと「あまり自分には関係ないのでは…」と思われるかもしれません。
でも私は、悩んだり苦しんだりしている人にこそ必要だと思っています。
ではエンパワメントとは何でしょう。なぜ必要で、どうやったらエンパワメント出来るのでしょうか。
1.エンパワメントとは
エンパワメントとは、一言で言うと「個人が自分の力を発揮できるようになること」です。
そんなの出来るでしょ、って言える方はもうエンパワメント出来ている方です。
病気や障害だけでなく、育ってきた環境や職場、家族、関わる人や今いる文化や環境によっては、自分の力を十分に発揮できず、やりたいことも分からないまま、辛い状況に耐え続けている方がたくさんいます。
そういう方に「じゃあ頑張ればいいじゃん」と言っても「どうやって?」と更に悩みを増やしてしまいます。
他人から見ればその人も色んなスキルや能力を持っているのに、本人がその価値を受け入れられていません。自分の価値を受け入れられない・認められないような環境の中でずっと過ごしてきたからです。
そのような方が、
どうすれば自分の今の(ネガティブな)状況を改善できるか
改善しよう、という意欲を持つ
自分で選択し、決定出来るようになる
自分には価値がある、自分ならできる、と感じられるようになる
のようなスキルや視点を身につけてもらうことです。
2.家族にエンパワメントが必要な理由
通常、エンパワメントとは社会的弱者やそうした集団にとって必要とされます。
うつ病(その他精神疾患)患者の家族自身は、社会的弱者ではないかもしれません。
ですが、「自分の大事な人が病気・障害をもって辛い生活を送っている」ことで自分自身も悩んでいます。
病気や障害によって家族が何らかの差別を受けたり、やりたいことが出来なかったり(社会的障壁)するとき、家族もまた二次的に同じ苦しみを味わいます。
病気本人が自分にとって重要な存在であるほど、その人の受ける痛みは自分にとっての痛みになります。
ストレスになるばかりではなく、家族もまた社会に対する困難を感じ始めます。
すると上述したような「エンパワメント要素」が目減りしてしまうのです。
一方、家族以外の人、例えば主治医や福祉担当者、職場の人からは「家族がしっかりと支えてあげないといけないよ」と言われてしまいます。
自己決定力や自己効力感が低下している中で、その状態では取り組むことが難しい問題が家族には次から次へと降りかかります。が、「出来ない」と言えない状況になっている。
そして無理をする。
結果が「共倒れ」です。
共倒れを防ぐためには、まずは家族こそがエンパワメントされるべきなのです。
3.エンパワメントされた家族は何が出来る?
一つ目は「自己決定」です。
身近な人・大事な人がうつ病になると、一気に不安が襲ってきます。
遠い将来どころかすぐ近くの未来も不透明に感じますし、自分のことだけでなく様子が急変した家族がこれからどうなってしまうのか、を考えると不安でしかありません。
不安が高まると、自分で何かを決める力が弱まります。迷うことが増え、それがまた不安を増大します。
エンパワメントされることで、自分自身や自分の生活に関する意思決定を行う力を持ちます。自分の目標や価値観に従って、「これがいい」と思える選択をすることが出来るようになります。
二つ目は「自己効力感の向上」です。
家族のうつ病(その他精神疾患)が「もしかしたら自分のせいかもしれない」と考えてしまう方は多いです。
すると、一気に自分に自信を失います。これまでずっと頑張ってきた人ほどそうなりやすいです。あんなに頑張ってもダメだったんだ、だから自分には何も出来ないのだ、と考えてしまいます。
エンパワメントされることで、個人の自己効力感を高め、困難な状況に対処する自信を養います。家族の問題や課題に立ち向かう力を取り戻すことで、成功体験を得ることも出来るようになります。
三つ目は「自己発展」です。
家族が病気になることは、やはり辛いことですし幸せなことではありません。
かといって「無かったことにする」ことも出来ません。
どう対処したらいいか分からず、不安で思考力が低下すると、今の状態を「どん詰まり」と感じてしまうかもしれません。将来への広がりが途絶えてしまうのです。
エンパワメントされることで、今の辛い状況を乗り越えるためのスキルや知識を得よう、という意欲がわきます。そして得た知識や経験は、どん詰まりに見えた将来に新しい方向性を示してくれます。
三つ目は私自身がそうでした。
夫のうつ病が中々改善しない中で、一時期私自身も抑うつ状態に近くなっていました。ですがまだ私のほうが夫より動けるわけだし、やらなきゃいけないこともあるし…、と思いながら生活し、気がつけば全く違うキャリア(精神保健福祉士)を目指し、なることが出来てました。
4.エンパワメントする方法とは
ではどのような方法で、上述したような「エンパワメントされた状態」を目指せるのでしょうか。
①良質な情報を集める
今は情報過多時代です。わざわざ調べようとしなくてもいろんなところから情報が集まってきます。以前ならスルー出来ていたようなドラマのセリフ一つが自分にとって重要な意味を持つこともあります。
それがポジティブな効果をもたらしてくれる情報なら良いのですが、必ずしもそうとは限りません。
自分(と家族)が生活を立て直すために必要なもの
元気がない時に元気になれるもの
自分たち家族と似たような経験をした人の意見
医師・ソーシャルワーカー・カウンセラーなどの専門家からの意見
公的なサービス・支援に関する情報
病気についての基礎知識
に限定して、情報を集めましょう。
不安を弱めるためには、自分の明るい思考を裏付けしてくれるような事実が力を持ちます。
②自分たちの選択・決定を大事にする
不安が強い時、ついネットの意見や第三者から言われたことに左右されてしまいます。
しかしそうした意見は、自分たち以上に自分たちを知らない人たちの意見です。
自分たちの状況、何が辛いか、何に困っているか、これからどうなりたいか、を知っていたり感じ取れているのは自分たちです。
その自分たちが決めたことや選んだことのほうが、ずっと現実的ですし価値があります。
自己決定を優先し、大事にしましょう。
③助けを求める
病気になってしまうほど頑張る人は、人に頼ったりSOSを出すことが苦手なことが多いです。
だから「助けを求めよう」「人に頼ろう」と言われても簡単には実行出来ません。
しかし他者からの支援やサポートは、実際にしてもらったことや得た物以上の効力をもたらします。
「自分たちは孤独ではない」という実感です。
ある程度までなら自分・自分たち家族だけでなんとかなる、だけど本当に大変になったら助けてくれる人・機関がある、と、頭で知るだけでなく体験として知っていることは大きな助けになり、不安を小さくしてくれます。
まずは社会保険・福祉制度など、「使う権利がある」と思えるところから利用していきましょう。
5.まとめ
エンパワメントとは非常に広く大きな概念ですので、ここに書かれた以外の方法や効果もたくさんあります。
要は「個人、コミュニティ、団体が自己決定権を行使し、自己効力感を高め、より満足のいく生活を築くための手段」です。
自分・自分たち家族の現状を改善するために、エンパワメントを追求しましょう。