もっと誉めよう!:コンプリメントの力で変わる自信と関係
現代社会において、私たちは他者からの承認や評価に飢えていると言っても過言ではありません。SNSの普及により、誰もが簡単に自分を表現し、他者からの「いいね」やコメントを求めることが一般的になりました。
しかし、実際に身近な人々からの承認や感謝の言葉が少なくなっていると感じることはないでしょうか?
他者を賞賛することが自己の価値を下げるという誤解が広がり、結果的に互いに承認し合う機会が失われています。この不足は、個々の自己肯定感や人間関係に大きな影響を与えています。
今回は「誉める」技法であるコンプリメントについてご紹介いたします。
1.現代はあり得ないほどの「承認不足」
承認欲求、という言葉はすでに誰もが普通に使う言葉になりましたね。
元々はマズローの「欲求階層説」の下から4番目の欲求で、他者からの賞賛や良い評価によって、自分の内面や自尊心を満たしたい、と望む欲求のことです。
とかく悪者扱いされる承認欲求ですが、社会的な繋がりの中で生きている人間にとってはごく当たり前の欲求です。強まり過ぎることで対応が難しくなり、本人も周囲も困ってしまう、という点が厄介です。
ただ、あえて「承認欲求だ」と認識しなくても、現代は他者に対する承認、評価、賞賛が少なすぎるとは思いませんか。
他者を良く評価することで自分の価値が下がるのでは、のような勘違いも見受けられます。
承認欲求と並んで聞かれる「マウンティング」が絡んでいるのかもしれません。
現実離れした「ホメ」は必要ありませんが、他者の努力や取組み、持っている特質を積極的に評価し承認することはごく当たり前のことなのです。
何らかの理由によりそれを躊躇したり目がいかないとしたら、相手も自分も欲求不満に陥ってしまいます。
その果てが「承認欲求おばけ」かもしれません。
2.相手をもっとコンプリメントしよう!
コンプリメントとは、SFA(ソリューションフォーカストアプローチ:問題解決志向)の技法のひとつです。
コンプリメント(Compliment)の日本語訳は「誉める」ですが、SFAでのコンプリメントは少し意味が違います。
このコンプリメントには次のような目的があります。
1つは「相手を深く知る」ことです。
大抵は相手の目立つところに意識が行きます。
背が高い人、無口な人、歩くのが早い人、顔立ちが整っている人。
どれもその人の一番の特徴かもしれないし、それがそのまま長所や美点かもしれません。
初対面ならまだしも長く付き合っているのにそこにばかりフォーカスすることで、その関係性は続くでしょうか。そしてその人の自信回復が期待できるでしょうか。
相手を敢てコンプリメントしよう、としたら、一見して分かる点だけでは不足です。相手の行動、言動、意思、嗜好など色んな点に目を向ける必要があります。
例えば人より仕事が早い人は、「仕事早いね」と言われることにあまり価値を見出しません。それは結果に過ぎないからです。
その人が他者から承認されたいことは、そのためにどんな工夫や努力をしているか、かもしれませんよね。
なぜその人は他の人より早いのでしょう。何か他の人がやっていないことをやっているとしたら。そして他の人がやっていないことに自ら気づいて取り組んだ結果だとしたら。
相手をよく知って、そこで気づいた点に高い評価をするのがコンプリメントです。
2つ目は「自己効力感を高める」です。
他者から深く理解してもらった上で良い評価をしてもらうと、言われた側は、そのスキルに対して自信を強めることが出来ます。
それが「自己効力感」です。
「飲み会の次の日も疲れを残さないってすごいね。何かコツがあるの?」
と言われたら、自分の健康管理法が間違っていなかった、と自信を持つことが出来ます。
そして健康に関してもっと気をつけようと思ったり、情報を調べたり、他者へアドバイスするようになるかもしれません。
そのままその人のストレングス(その人の出来ること)になります。
3つ目は「問題解決の手がかりを得る」です。
何かに悩んでいる人は、解決のための道具や方法を見つけられずに悩みを深めます。
「朝寝坊癖が治らない」人は、目覚まし時計を工夫したり前夜早めに寝る努力はしているでしょう。それでも解決しないから「悩み」にまで発展してしまいます。
自分の弱点をカバーする方法にフォーカスしすぎているからです。
コンプリメントは、自分の強み・長所・実績を指摘してくれます。
朝6時に起きることがどうしても出来ずに悩んで、「自分には働くことは出来ないのでは」と思い込んでしまうのは勿体ないです。
朝6時に起きる必要がない仕事を探せばいいだけです。
6時に起きられないだけで、その後は精力的に一定時間活動し続けられるなら、そういう時間帯の仕事に変わればいい。
コンプリメントで「長時間体力が続くのすごいよね」と指摘されれば、そうした視点の転換、解決策の一助になるでしょう。
3.コンプリメントの方法 3ステップ
①具体的な行動や態度に注目する
誰かをコンプリメントするための第一歩は、相手の良い行動や努力に気づくことです。
日常の中で、小さな成功や頑張りを観察してみましょう。
例えば、仕事での努力、家庭での気遣い、友人関係でのサポートなど、さまざまなシーンで相手のポジティブな面に注目してみましょう。
②具体的に誉める
コンプリメントは、ただ「すごいね」や「偉いね」という抽象的な言葉ではなく、相手が具体的に何をしたかに焦点を当てて誉めることが大切です。
具体性があると、相手は自分がどの行動や選択が評価されたのかを理解しやすく、同じ行動を継続するモチベーションが高まります。
また、結果だけでなく、プロセスや努力そのものを認めることも重要です。
相手が達成した結果だけではなく、その過程でどれだけ努力したかや、どんな強みを活かしたかを認識し、それを言葉にします。努力を認めることで、相手は自分の行動に自信を持ち、より挑戦的な取り組みにも積極的になれます。
③感謝の気持ちを込めて伝える
コンプリメントをする際、相手の行動に対する感謝の気持ちを添えると、さらに効果的です。
相手が自分のために行ってくれたことに感謝することで、コミュニケーションがより温かく、親密なものになります。
感謝の気持ちは相手にポジティブな印象を残し、関係性を深めるのに役立ちます。
4.毎日の生活にコンプリメントを活かそう!
以上、見ていただいたように、コンプリメント自体は難しいことではなく、すぐに実行できるスキルです。
では実際に日常生活の中でどのような場面で活用できるか、をご紹介します。
①職場
【事例】同僚が大きなプロジェクトを成功させた場面
同僚がプロジェクトを完了した時、単に「よくやったね」と言うのではなく、プロセスや具体的な行動に焦点を当ててコンプリメントします。
【コンプリメント例】
「チーム全員の意見をまとめて調整していたところ、本当に助かったよ。ありがとう!」
【ポイント】
具体的な行動や貢献度を認めることで、相手が自身のスキルや努力に気づくきっかけとなり、さらに仕事へのモチベーションが高まります。
②家庭
【事例】パートナーが家事を手伝ってくれた場面
パートナーが普段しない家事を手伝ったときや、何か特別なことをしてくれたとき、その行動や努力に感謝の気持ちを込めてコンプリメントします。
【コンプリメント例】
「忙しいのに食事の準備をしてくれて、本当にありがとう」
【ポイント】
感謝の気持ちを具体的な行動に結びつけて伝えることで、相手が自分の行動が価値あるものだと感じ、家族の連帯感が強まるでしょう。
③友人関係
【事例】友人が困難な状況を乗り越えた場面
友人が何かに困ったり悩んでいる時や、それを乗り越えたとき、友人の努力や精神力を認めるコンプリメントを伝えます。
【コンプリメント例】
「最近、色々と大変だったみたいだけど、それでも前向きに取り組んでいて本当に尊敬するよ」
【ポイント】
友人の精神的な強さや支えになってくれたことを認めることで、相手の自己効力感を高めると同時に、相手との信頼関係も強くなります。
④お店やサービスのスタッフ
【事例】レストランのスタッフが素晴らしい接客をしてくれた場面
外食や買い物の際、スタッフが特に気配りをしてくれたり、良いサービスを提供してくれたと感じた時に、感謝を込めてコンプリメントを伝えます。
【コンプリメント例】
「お料理について丁寧に説明してくれてありがとう。おかげで本当に美味しく楽しむことができました。」
【ポイント】
スタッフの気遣いや配慮に対する感謝を具体的に伝えることで、サービスを提供している人も喜びを感じ、その場の雰囲気がさらに良くなります。
5.まとめ
SFAにおけるコンプリメントは、悩みや病気でメンタルバランスを崩し自信を失っている人にもう一度自分の価値を再評価してもらうために活用する技法です。
ロジャーズ,Cの有名な言葉で、
があります。悩んでいる人自身が答えを知っている、というものです。
コンプリメントは、言われる側が自分の価値に気づくきっかけをシャワーのように浴びることが出来ます。それは必ず相手の自信回復に繋がり、コンプリメントする側との関係強化に繋がります。
ただ誉めるだけではない「コンプリメント」を、是非活用してください。
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