読書メモ 十二国記(前半戦)
長らく気になっていたけど、シリーズが多くて尻込みしていた十二国記。一念発起で読み始めてみたらまぁ面白い。
とりあえず前半戦のメモを、忘れないうちに。
(一応ネタバレ含む)
・魔性の子
序章。ホラータッチ。小野不由美作品では屍鬼も読んだけど、ぞっとする感じがうまいなぁって思う。
昨今巷には「異世界もの」ファンタジーがあふれているけど、これって「ここじゃないどこか、自分がもっと活躍できる世界、理想郷」への羨望を抱く人が多いからなんだと思う。
十二国記自体は異世界の話だけれども、この序章はむしろ、「自分の世界は他にあると思っていても、どうしようもなくこの世界で生きていくしか無い」現実を読者に突きつけているのだと思った。
・月の影、影の海
陽子の成長譚。あと世界観の説明。でも説明臭くないし、とんでもない設定の世界なはずだけど、なんだか妙に納得してしまう。それは主人公が何も知らないまま放り出され、徐々に世界の様子を明らかにしていくプロセスを読者も一緒に歩むからなのか。世界が違えば人々の考え方も全然違うという異文化理解のような気づきもある。
放り出されて、殺されかけて、裏切られて、でも生き延びていく陽子さん偉い。(語彙力)
元の世界では八方美人というか、日和見主義というか、何も反発しない故に逆に味方もいないというような陽子のような人って結構いるんじゃないかと思う。そんな主人公が、かくも逞しくなっていくのは逆境のせいなのか、主人公だからなのか。
・風の海、迷宮の岸
魔性の子の前日譚。この後もう一騒動あって、魔性の子へ繋がるくらいの時系列。
泰麒が「本来の世界」へ戻ってきて、そうかやっぱり向こうで合わなかったのは世界が違うからかと思ったのも束の間、こっちの世界でもうまくいかない。どこまでも引け目な性格はもどかしくもあるが共感もある。「期待されるのがプレッシャー」「期待に応えられていないのに与えられる優しさがかえって辛い」というのは分かる気がする。(自分がこんな泰麒のようにチヤホヤ(?)されているわけでは決してないけども)
月の影、影の海と同じように主人公が逆境に遭い成長していく話。ただ、土壇場の強さも、王を選ぶのも、泰麒の成長だと思う側面、「どうあがいても麒麟」という運命からは逃げられないという感じもする。ただ自分たちだって「どうあがいても人間」で、人間として与えられた運命を超えるような事は出来ないのだから、そう思うといかに自分を自分として受け入れるか、という話なのかもしれない。
・東の海神、西の滄海
前2作からするとずっと前の話。シリーズの年表が見たい。公式ガイドブック買ったらあるんだろうか。六太と尚隆が出会う(過去の)時間軸と、国を治め初めて内乱をどうこうする(現在の)時間軸の2つを追っている。交互に追いながら、過去パートで何を思い、いかにして尚隆が王になったかが分かってきて、それが現在、一見ヘラヘラしてる王としての尚隆の芯が透けて見えてきて、やっぱ凄いな!ってなる。
巻末の養老孟司氏の解説が、内容に対しての解説という感じでなくて、いろんな本読んでますよという氏の知識の披露のように思えて個人的には好みでない。
(巻末の解説で、他の人がどう読み解いたのかを知りたいタイプ)
・風の万里、黎明の空
これまで複数の時間軸を行ったり来たりする展開の見せ方が多かった気がするけれど、これは3人の女性の主人公を軸に動き、全員が邂逅して結末を迎える流れ。こういう流れはやっぱり邂逅して各々の軸が最後繋がる時にすごく気分が高揚して楽しい。アベンジャーズとかでよくある(?)。
それぞれが最初は苦しい思いをし、読み手としては「歪んでるな~」という気分にさせるけれど、色んな人との出会いや経験が個々の認識を変えていく様子も読んでいて清々しい。
結局、状況が悪いのかどうかという他責的な考えではなく、全ては自分の認識(バイアス)次第であるという事、思い込みや決めつけがいかに自分を苦しめていたかを自覚するという点は、どこか自己啓発本を読んだような気にもならなくはない笑 でも物語なので百倍万倍おもしろいし、フィクションには違いなくとも、タイトルと目次で内容が分かる自己啓発本なんかよりよっぽど身に沁みる。