軍事的世界観の組織で1on1の必要性を説く
以前、官公庁の人事部門で働く知人から相談を受けたことがあります。その内容は「通常業務が忙しい中で、1on1や対話をなぜ導入する必要があるのか?」という上長の問いかけに対する答え方のアドバイスが欲しいというものでした。
僕は官公庁の現場事情に詳しいわけではありませんが、「何故、1on1や対話が必要なの?」という質問をロジカルに投げかける対話的ではない(?)上司、管理職に対して、彼らのロジックに寄り添いながら、意義を伝えるのは大変さは十分に想像がつきます。
ご相談いただいた官公庁が軍事的な世界観が根付いているかどうか僕には分かりませんし、彼らの努力で少なからず組織状況が改善していることと思います。
当時の会話をふと思いだし、その時にお答えしたドキュメントを再編集し、官公庁・民間問わず軍事的世界観が強めの組織に対話の文化を根付かせようと試行錯誤されている方のヒントとになればと思い、このnoteを書きました。
内容に入る前に、軍事的世界観に基づくマネジメントの功罪については、僕が所属するMIMIGURIの代表 安斎が発信しておりますので、まだご覧になっていない方は、ぜひご一読ください。
組織とは情報処理のシステム
「なぜ人は組織を作るのか?」という問いに対して、さまざまな論がありますが、古典的には、効率的な情報処理のためと言われています。
例えば、政府や大臣が政策の方針を決めて、それを局・課に渡していく時に、情報がリレーしています。その際、僕みたいな政策の素人が、情報を受け取るのと、官公庁のプロフェッショナルの方が受け取るのとで、当然意味合いが異なります。
過去の政策についての知識や、課題の解像度の差が、捉え方の違いを生みますが、出来るだけ意味の齟齬なく情報のバトンを渡せる状況が、(旧来のパラダイムでは)「生産性が高い」と言えます。
組織が扱う情報は、質・量ともに膨大
「情報」と一言で言っても、組織が扱う情報は多岐に渡ります。ここでは、「質」と「量」に分けて、情報の意味合いを整理していきます。
まず、情報の質について。官公庁の状況を推測しプロットしてみると以下のようなイメージでしょうか。
素人目にも、国家レベルの情報を扱いながら、個人の思いやキャリアのことも考えるとなると、途方もないことのように感じます😂「業務が忙しいから」となるのも、致し方ないですね…
次に、情報の量について。人数に比例してコミュニケーションパスは掛け算で増えます。3人の時は3本だったのが14人の時は91本になります。少人数のチームの方がスピードが早いのは、情報のパスが絞れているからとも言えます。
マネジメントの役割の1つは、この情報の量と質をモニタリングしながら、組織内に情報が健全に流れる状況を作り続けること言えます。
情報処理システムをデザインしないと組織内の情報処理に偏りが出る
ここまで、
組織とは情報処理システムであり、
組織(官公庁のような巨大組織)が扱う情報は、個人のキャリアや価値観レベルから、国家方針まで多様で複雑で大変そう💦
ということををお伝えしてきました。
この複雑な状況に相対するために、意図して情報処理をデザインしないと、組織内で情報が偏在化します。情報処理の手段が、「会議」や「メール」、「1on1」ですが、手段論に入る前に、何故情報処理に偏りが出ることが問題なのか、簡単に触れたらと思います。
情報が偏ると、人は憶測で都合のいい物語をつくる
情報に偏りがある=情報の非対称性が生まれると、人は欠けている情報を類推で埋めます。一方で、人は類推する際、どうしても自分のバイアスにひきづられます。
欠けた情報を類推で補って補完された情報群があり、複数の情報群から結論Xが導かれることを目にされたことがある方も多いかと思いますが、類推に類推を重ね、結果何が正確か分からず、誰かの思惑(バイアス)にまみれた情報が組織で流通していくのがバットパターンです。
難しく書きましたが、例えば、上司に相対した部下Aさんの思考プロセスをイメージしてみてください。
自分が提出した資料に対して上司が不機嫌な顔をした
上司は自分のことを嫌いに違いない
そもそもこの組織は自分には合わない職場だ
転職しよう
実は、上司が不機嫌な顔をしたのは、昨日飲み過ぎて二日酔いだったからだとすると、「二日酔いで飲み過ぎた」という情報の対称性が取れていないばかりに、部下Aさんが「自分に合わない職場」という形で、情報を補完してしまい、誰もハッピーにならない結論を導いています。
これが、大組織、省・国レベルで起きる可能性があると思うと・・想像を絶する難しい問題です。
1on1は手段であり、情報の偏りをなくすことが目的
ここまで、情報の偏りをなくすことが重要であることを説明してきました。そして情報の偏りをなくす手段の1つが、1on1という位置付けになります。逆に、1on1という手段を目的化してしまうと、周囲を説得できなくなるので注意が必要です。
軍事的世界観を前提とする組織だと、情報の流れが上から下へと一方通行なので、マネジメントの役割は、下に正しく正確に情報を渡すことになります。
一方、室や課などスモールチームの裁量が大きい組織だと「上位方針」や「部下の状況」など扱う情報が多くなるので、定例会議だけだと、情報の偏りが出ます。その偏りに効くのが1on1ですが、自分の組織状況に適したロジックを構築できるかが鍵になります。
ここまでお読みいただき、「情報の偏り」という視点で、ロジカル上司とも課題認識を合わせるイメージが湧き始めていたら嬉しいです。課題認識が揃えられたら、組織の特性や年間スケジュールに合わせ、例えば、
新卒クラス:入社後は1年間、週次で1on1して、タスクベースのフォローする
ミドルクラス:長期キャリア開発について、課長クラスと月1で1on1を実施する
責任者クラス:年間の中で重要政策が決まる時期は、週次で1on1し方針をすり合わせる
など、コミュニケーションポイントを可視化しながら施策を検討してみてください。
コミュニケーションポイントごとの目的を検討する際、以下のマトリックスをご活用いただくこともおすすめです。
まとめ:1on1の必要性を説くための具体的な検討手順
最後に、僕に相談を寄せていただいた方に提案した、具体的な検討手順をご紹介します。
まず最初に、[図1:組織内で流通している情報を整理する]を活用しながら組織内で流通している、情報の量・質をざっくり整理
次に、[図2:コミュニケーションポイントごとに扱う情報]を活用しながら、情報がどのような手段で流れているか整理
今後どのような情報を増やしたいか/減らしたいかの目線を合わせ、必要なコミュニケーションポイントを定義する
変革プロジェクトを実験する部署を選定し、小さくナレッジをためながら成功法則を探る
補足:1on1の必要性はわかった。では何故対話的である必要があるの?
本稿では網羅的には扱えませんが、「1on1や会議体を整備して情報のつなぎ目を作る」だけでなく、「組織内の情報のつなぎ目で、良質の情報が流れること」が必要になります。
例えば「短期の仕事の質にのみ話題が終始し、個人のキャリアや価値観について話されていない」と課題定義して、情報の質の偏りをなくすことに論理的に合意し、そうした一人一人の価値観に触れるような営みの大切さなら、軍事的世界観が根付いていても訴求できそうです。「対話」という言葉にこだわらない方が、結果として対話的に進められる場合もあるかもしれません。
おわりに
最後までご覧いただき、ありがとうございました。このnoteを読んでくださった方の組織が、当たり前のように、お互いの心の声を聞きあい、尊重できるようになることを願っています。その道を歩む上で、何か参考にれば幸いです。
首尾よく上司を説得でき、1on1やミーティングの場を設定できたとして、次の壁は、各場における情報の量・質を上げていくことです。そうしたことに試行錯誤をされている方のヒントになるようなウェビナーを実施します。無料でご参加いただけますので、よろしければ是非ご覧ください!
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