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樽熟成の焼酎がもっと美味しくなる理由
「こんな焼酎があったら良いのにな」
3年以上前、会社を立ち上げる以前から親交のあった焼酎蔵、福岡は朝倉郡、クラフトマン多田などを造る天盃の5代目多田匠さんから、「今こんな貴重な原酒があるんだけど、興味ある?」と言われ、それが自分が前々から妄想していた、*ハイプルーフ焼酎だった。
*「プルーフ」とはアメリカやイギリスで蒸溜酒のアルコール度数を表す際に使われる単位。ハイプルーフ = 高度数(一般的には60度前後)
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麦焼酎専門蔵で代表銘柄はクラフトマン多田
https://www.tenpai.co.jp/
個人的にハイプルーフが好きというのもあるが、それ以上に、今までになかった焼酎で、新たなを可能性を見出したい、そして単純に面白いという想いが根底にあり、ウイスキーやラムといった他の蒸溜酒にはハイプルーフの世界が確立されているのに対し、1回蒸留が特徴の焼酎には、まだ自分が知る限り存在しておらず、できるはずだよなと、前々から妄想していた。
焼酎・泡盛の1回蒸留
蒸留酒の蒸留回数は通常あまり注目されることがないため、1回蒸留という言葉に戸惑うかもしれない。また、蒸留酒は1回しか蒸留しないのでは?と思われることもあるが、実際には多くの蒸留酒が2回以上の蒸留を行っている。しかし、焼酎は1回蒸留が主流。その理由は、焼酎のもととなる醪(もろみ)のアルコール度数が約15〜17度と非常に高いことにあり、1回のみの蒸留で40度前後の度数になるので、2回や3回する必要がなかった。この醪の度数は、日本の麹の特徴である並行複発酵により高いアルコール度数を得られることができ、1回蒸留のメリットは、原料由来の複雑な風味が存分に残る点で、これにより焼酎特有の芋や麦の風味を楽しむことができる。世界的にも1回蒸留を行う酒は、そこまで多くない。
要は1回のみの蒸留で製品ができるという、それは日本の麹による並行複発酵のおかげということであり、それは個性も出て間違いなく特徴であるのだが、アルコール収集率の観点において少ない原料から多くアルコールを生み出すという時代においてはマッチしていただけで、現代においてはもっと多様な造りがあっても良いのではないだろうかと思っていた。
COVID-19で消毒用アルコールが多く製造されたため、高度数アルコールを作らなければいけなくなった事を機に、複数回蒸留によるハイプルーフ焼酎を飲める機会が増えた。個人的な印象として、焼酎独特の風味が消えるどころか、むしろ高度数の奥行きの風味に増して感じられることが多々あった。(これは焼酎特有の減圧蒸留の影響もかなりあるとも思る)
そんな中で、天盃はその昔1970年代から2回蒸溜を施していた蔵。他に同様の取り組みをされていた蔵はないと思う。1回から2回に増えると単純に原価が上がるので、安酒の象徴である焼酎、ともすればその時代からそんなに手間をかけているのは、狂ってるとしか言いようがない。そんな天盃と、2021年12月に初のハイプルーフで商品化したものが、58%で甕で10年熟成というスペックの「凜和」という商品だった。(現在は完売)
1回蒸留ゆえの樽熟成の課題
世界の蒸留酒は複数回蒸留を行うので、1回蒸留時点では20度台でも、回数を重ねると60~70度にアルコール度数が上がる。対して、焼酎は1回で40度代のアルコールを獲得できるが、それで終わってしまうため、樽熟成する際も必然的に40度台で熟成されることになる。
ウイスキーなどは樽熟成のプロセスが商品の完成度を大きく左右する。そして世界で流通されているジャンルであり、その市場規模も焼酎とは比較にならないほど大きいため、商品開発への投資や技術の蓄積が圧倒的。そんな中でもウイスキーやラム、ブランデーなどと、焼酎の樽熟成における決定的な違いは、カスクエントリー(樽詰め度数)だと前々から自分は思っていた。
具体的に説明すると、例えば同じ10年熟成で度数が43%の商品である場合、最初から43%のまま10年間樽熟成してそのままボトリングしたものと、60%で10年間樽熟成した後に加水して43%に調整してからボトリングしたものでは、まるで違うものであり、それはカスクエントリー(樽詰め度数)で樽から引き出せる成分が異なるからである。
高度数(60%前後)での樽詰めにはいくつかのメリットがあり、高度数により樽内での成分抽出が効率よく進むため、タンニンやリグニン、バニリンといった木材由来の成分が短期間で溶け出しやすくなる。このため、樽熟成でより強い個性や濃厚なフレーバーが抽出されるのが特徴。
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(https://www.whiskylover-diary.com/filling-strength/#toc7)
このカスクエントリー(樽詰め度数)をウイスキーなどの各蒸留所では1%単位で経過を見て、研究されており、それによって風味が異なるため、蒸留所ごとの哲学や目指すスタイルによって多様であり、試行錯誤を重ねながら最適な度数を見つけている。
つまり、焼酎が1回蒸留だからと言って、ウイスキー評論家である土屋さんの言葉を借りれば、焼酎が漠然とした度数で詰めていいわけがないのである。
世界の蒸留酒がそこまでこだわって樽詰めをしているのに、焼酎が漠然とした度数で詰めていいわけがない。焼酎は焼酎で、樽熟成に適切な度数を見つけるべきです。それは蔵元によっても違うでしょうし、原料によって、酵母によっても違うはず。
https://shochu-next.com/article/1266
「凜和」をリリースすると共に、もう一つやりたかったこと。それは天盃だからこそできる高度数での樽熟成であった。
そして凜和リリース後の2022年初めから、この企みをスタートさせる。
樽と原酒について
天盃の焼酎造りについては語りきれないほどの特徴があり、前述した2回蒸留もそうだが、日本初の麦焼酎では麦麹を使用した焼酎造りを1970年代から取り組むなど、昔からクラフトマンシップのDNAが受け継がれており、ともかく発酵のプロセスも通常の焼酎メーカーでは考えられないほど手間とお金と知恵を使っており、年々造りも進化している。
特に最近自分が驚いたのは、貴醸酒の醸造を焼酎に持ち込んだ商品。
日本酒の貴醸酒の醸造方法を取り入れたもので、蒸留酒としては日本初とされる。焼酎醪の発酵途中で、それ専用に2回蒸留した焼酎を加えてさらに蒸留した作品である。 貴醸酒とは、日本酒造りの工程の最後である三段仕込みの留(とめ)の段階で、仕込み水の代わりに日本酒を入れて仕込んだ日本酒のこと。アルコールの生成が止まって糖分が残るため甘味が増す。
今まで焼酎では体験したことがない味わいであり、これには大変驚いた。ともかくこういう商品をリリースできる変態な焼酎蔵である。
そんな蔵が造る、熟成後に華やかでフルーティーなフレーバーを引き出せそうな原酒をこの樽熟成用に蒸留。そして肝心の樽だが、こちらもせっかく高度数で樽詰めするのであれば、なるべくヘビーな焼き加減が良いと思い、450ℓのアメリカンオークをセレクトし、有明産業さんでヘビーチャーを施した。
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結果的に63%で樽詰めすることを決め、2022年6月から樽で熟成を開始。
2年半の熟成を経て、ボトリング
熟成開始当時から、2,3ヶ月おきにテイスティングを重ねてきた。初めの1年半くらいは話にならないほど、納得できるものではなく、熟成前の原酒を焼酎としてそのまま味わった方がはるかに良いと思えた(熟成期間が短すぎるので当然だけれども)ただ、2024年の春先くらいから、次のステージ進んだような味わいを得て、秋にテイスティングした際、これは飲んでもらいたいと感じ、リリースすると決めた。
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焼酎の最先端を味わってほしい
熟成酒である以上、その真価を発揮するには10年、20年という長い時間を要することは重々承知している。そのため、今回のリリースにおいても全量を市場に出すわけではないが、度数と色、どちらも焼酎の規定から大幅に外れており、おそらく業界初の試みで、多くの方に体験していただきたいという強い思いがある。
商品名は「DDCS61」
ほんの少し加水し、61%でボトリング。DDCSという意味は、ダブルディスティルド・カスクストレングスの頭文字から取っている。
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本格焼酎の規定である44%を超え、世界の蒸留酒が採用する60%以上でのカスクエントリーを実現。幅広いフレーバーを引き出すために、450ℓのアメリカンオーク樽にヘビーチャーを施し、63%でのカスクエントリーで31ヶ月間熟成。
テイスティングノート:カカオやナッツ、温かみのある栗の甘み。中盤にはバニラとカフェラテのようなクリーミーな口当たりに、紅茶の葉やフローラルなニュアンスが広がり、アーモンドやコーヒーのビターさが調和。奥行きのあるスパイスが余韻を引き締める。
一方で、焼酎は樽熟成を施さなくても十分に香味を引き出せるとされるがゆえに、樽熟成そのものを邪道と見る向きも少なくない。しかし、ウイスキーをはじめとする世界の蒸留酒と同等の熟成条件やこだわりを突き詰めていくことで、焼酎はグローバルスタンダードの蒸留酒と肩を並べ得る大きな可能性が少しでもあるのであるならばやらない手はない。どのような手段であっても、焼酎が広く認知されるのであれば、その道を追求すべきだと考えている。
こうした姿勢こそ、私たちJDS(Japanese Dark Spirits)は目指している。グローバル基準の樽熟成に焼酎特有の魅力を活かす。このような取り組みが存在意義であると思っている。
最後に
今回のDDCSのコンセプトもそうだが、樽熟成も、リチャーするのも、そして高度数になればなるほど、原価もかかる。度数については当たり前だが単純計算すると通常の25%焼酎の3倍ほどだ。(当然それ以外の造りも)
以前から自分自身、焼酎をもっと高く売らないといけないと公言してきており、この事業を始める背景の一つでもあった。もちろん賛同してくれる方も多かったが、業界についてよく知れば知る人ほど、鼻で笑われたり、馬鹿にされたりと、そういうことをひしひしと感じてきた。ただやり続けて4年ほどが経ち、自分たちが扱っている商品は通常の焼酎の数倍はするが、それでもご愛顧していただけるお客様がいるからこそ、ここまで原価をかけた造りができている。この挑戦は我々JDSの商品を信じていただいているお客様なしには不可能だったと思う。
もちろん安い商品があって、産業全体のポートフォリオは成り立っているが、高単価があることでそれを再投資でき、結果的に業界が進歩していくと思っている。大層な事を言っているが、これに少しでも賛同してくれる方がいてくれればとても嬉しい。
3/1 20時〜発売開始します!限定204本とかなり少ないですが、これを読んで気になった方、ぜひ飲んでいただけると嬉しいです。
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