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読書感想文:「SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか」

『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』を読みました。

今回の記事は、読書感想文になります。

本書は、SNS上での炎上や誹謗中傷といった問題を社会的な視点から多角的に掘り下げ、加害者側の視点にも焦点を当てている点で、他の類書と一線を画しています。

SNSの普及によって匿名で発信する機会が増え、誹謗中傷が日常的に行われるようになってしまいました。

その背景や加害者の動機について書かれた本書を通じて、匿名性の理解が深まりました

匿名性の罠

本書によると、SNSでの誹謗中傷の加害者は特別な人ではなく、私たちと変わらない「普通の人」のようです。

では、なぜ普通の人が攻撃的になるのかというと、SNS上では匿名だからです。

匿名性がもたらす「責任感の希薄化」が問題のようです。

実名の場では「社会的な視線」を意識し、発言や行動に慎重になる一方で、SNSの匿名性はその抑制力を失わせます。

その結果、普段は言いにくい不満や批判がエスカレートし、攻撃的な言葉が飛び交いやすくなります。

批判的な発言でも、多くの「いいね!」によって共感されることで、発信者の承認欲求が満たされ、ますます過激な言葉に拍車がかかるという悪循環が生まれます。


内在的公正推論

本書が特に興味深いのは、炎上に参加する人々の傾向やその背景にある心理的な要因を丁寧に分析している点です。

調査によると、SNSでの炎上に参加する人の傾向として「男性」「若い」「世帯年収が高い」「SNSの利用時間が長い」などの特徴が見られるそうです。

とりわけ「世帯年収が高い」という点は驚きでした。

SNS上での攻撃や炎上といえば、経済的に不満を抱えた人がストレスのはけ口として行っているといった先入観を抱いていたため、この結果は意外でした。

本書では、この現象を「内在的公正推論」に基づいて解釈しています。

内在的公正推論とは、他人が不幸に見舞われた際、「お前の日頃の行動が悪いからだ!」と考える思考です。

簡潔に言えば「悪事が起きたのは自業自得」という潜在的な信念のようなものです。

年収が高い人の中には、自分の成功を「正当な努力の結果」と認識し、自身の中で正義を遂行する意識があります。

そのため、他者の「不正」や「悪事」を見過ごせず、炎上に参加してしまうようです。

いわば、匿名の場で他人を制裁する行為が、自分の正義感を満たす手段として機能しているのかもしれません。

単なる感情的な攻撃ではなく、「正義感」という一面が加わっていることを知り、問題がより複雑化していると感じさせられました。


社会における匿名の影響

本書は、単にSNSでの炎上や誹謗中傷の実態を描くだけでなく、匿名性がもたらす社会的影響についても多くの示唆を与えてくれました。

匿名は「承認欲求の満足」に結びつく一方で、無責任な発言が社会に悪影響をもたらすとは想像できない人たちを、次々と生み出します

現実の世界で、あまり評価されていないと感じる人が、SNSで他者を批判することで一時的な自己肯定感を補完し続ければ、世の中はどうなっていくでしょうか。

実際のところ批判への賞賛は、一時的なものです。

おそらく長期的には、虚しさや孤独感を強めるリスクがあるのではないでしょうか。

最終的には自己の精神にも悪影響を及ぼすと考えます。

現実でのつながりや、自己評価を高める行動がないままでは、SNSでの攻撃的な行動は空虚感を補うための一時的な手段でしかないと痛感しました。


終わりに

『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』は、SNS時代に生きる私たちにとって、匿名性がもたらすメリットとデメリットを再認識させる一冊です。

ネット上での軽率な発言がどれほど他人の生活に影響を及ぼすか、その裏に潜む社会心理を理解することは、今後のSNS社会において非常に重要な課題です。

本書は、SNSを利用するすべての人に一度手に取ってほしい、現代における必読書であると感じました。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
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#読書感想文

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Kei | MBA| 元銀行員
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