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MBAでの学び11 「企業価値を向上させたいなら金を借りろ」
日本では「借金は悪」という考えが根強く残っています。
多くの経営者が借金をリスクとみなし、可能な限り避けようとします。
しかし、借金を戦略的に活用すれば、企業価値を大きく向上します。
効果的に資金調達し、成長投資に充てれば、規模の拡大やイノベーションの加速が期待できます。
本記事では、MBAでの学びとして、借金を恐れず、上手く利用して企業価値を高める方法について解説します。
企業価値とは
企業価値(Enterprise Value、略称:EV)とは、企業全体の価値を示す指標です。
企業が保有する全ての資産の価値(時価)から負債を差し引いた純資産に加えて、その企業を買収する際に必要な総投資額を反映したものです。
株主資本(株式)に加え、負債や少数株主持分なども含まれます。
つまり、企業を買収するために必要な資金の大きさを示す指標です。
企業価値の計算方法
一般的に、企業価値は以下の式で計算します。
企業価値 (EV)
=株式時価総額+有利子負債ー現金および現金同等物+少数株主持分
株式時価総額:株価を株式の総数で乗じたもの。
有利子負債:金融機関などからの借入金額。
現金および現金同等物:手持ちの現預金など。
少数株主持分:子会社株のうち、他の株主が所有する株式の市場価値。
有利子負債(Debt:デット)から現金および現金同等物を差し引いたものをネットデット(Net Debt)と呼びます。
つまり、企業価値(EV)は下図になります。
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バリュエーションにおける企業価値
ここで注目して欲しいのは、計算式です。
企業価値(EV)の計算式を見ると分かると思いますが、有利子負債(Debt)を拡大した方が、企業価値は大きくなります。
つまり、計算式上では借金が増えれば企業価値は上昇します。
なぜ、借金が増えると企業価値は上昇するのか、皆さんは分かりますか?
企業価値評価は、総合的な視点で価値を算定しているからです。
具体的には、企業価値とは単なる株式価値(時価総額)ではなく、その企業が抱える負債を含めた「全体像」を反映しなければならないからです。
以下はその理由、および重要なポイントです。
企業価値に借金を反映する理由
財務構造
企業価値の計算に借金が含まれるのは、企業が自己資本(株主資本)だけでなく、負債を用いて運営されている現実を反映するためです。企業がどれだけの負債を活用して運営されているかは、その企業のリスクと資金調達を理解する上で重要です。
取得コストの全体像
企業価値は、その企業を買収する際の「取得対価」を示します。買収者が企業を完全にコントロールするためには、株式だけでなく企業の負債も引き継ぐ必要があります。したがって、企業価値に借金を加えることで、買収に必要な全費用を表現しています。
したがって、計算式で借金が企業価値を増加させるのは、企業が負債を利用して資本を調達している実態を反映し、その企業の全負担を考慮した価値評価のためです。
この視点は、特に財務分析やM&Aの文脈で重要です。
借金は悪か?
企業価値を「膨らませる」と言うわけではありませんが、借金が企業価値に与える影響は使い方によってはポジティブなものになり得ます。
借金を増加させた場合、具体的には以下のような影響が考えられます。
レバレッジ効果
企業が借金を活用して投資を行い、その投資が成功すれば収益性が向上します。
この結果、企業価値は株主から見た場合に実際に増加するかもしれません。
これは「レバレッジ効果」と呼ばれ、適切なレベルの借金は企業成長を加速させる一因と言われています。
リスクの増加
一方で、借金は返済義務や利息負担を伴います。
市場環境が悪化した場合や事業計画が失敗した場合、返済が困難になり企業の財務安定性が損なわれるリスクがあります。
過度の借金は企業価値を下げる原因にもなり得ます。
税効果
借金の利息は通常、税金の計算上の経費として認識されるため、企業の課税所得は減少します。
この「タックスシールド(Tax Shield)」効果により、借金によって税負担が軽減します。
結果的に、税金の支払い額が減り、企業の手元に残る現金(キャッシュ)を増やします。
投資家の評価
投資家は、財務分析する際、借金を含めたそのリスクとリターンを総合的に考慮します。
借金が適切に管理され、有効に活用されている場合は、企業を高く評価するケースがあります。
しかし、不透明な財務戦略や過剰な負債は、逆に投資家に警戒されることもあります。
つまり、借金そのものが直接的に企業価値を「膨らませる」わけではなく、どのように使われているかが重要です。
借金による企業価値向上の具体例
海外企業の多くは、日本企業のように「借金は悪」と考えていません。
なぜなら、チャンスがあれば投資は必要です。
しかし、投資する金が手元になければ、借金するしかありません。
それを恐れていては、チャンスを掴めないと考えています。
この辺が、日本の臆病な経営との違いだと感じます。
以下に、海外企業の借金による企業価値向上の具体例を示します。
成功事例: Apple
iPhoneやMacBookなどで有名なAppleは、2013年から積極的に債券市場に参入し、数十億ドル規模の借金を行いました。
これは、海外に保有する莫大な現金を国内に持ち込む際の税負担を避けるためと言われており、低金利を利用しての資金調達でした。
Appleはこの資金を、製品開発、技術革新、さらには株式の買い戻しに利用しました。
結果的に、これが株価を押し上げ、企業価値の大幅な向上に寄与しました。
成功事例: Netflix
ネットフリックスは、コンテンツ製作とライセンス取得に莫大な資金が必要です。
ただ、彼らは市場の期待を背景に戦略的に債務を活用する戦略を採用しています。
借入による資金調達により、ネットフリックスは独自コンテンツを急速に増やし、加入者数の増加に成功しました。
失敗事例: リーマン・ブラザーズ
2008年の金融危機の象徴的な例として、リーマン・ブラザーズの倒産があります。
リーマン・ブラザーズは、高リスクの不動産関連投資に、多額の借金によって介入しました。
結局、不動産市場はバブルだったため、資金繰りが急激に悪化し、経営破綻に至りました。
この事例から、過度な借金は、企業価値を一気に損なうということを明確に示してくれます。
まとめ
日本では『借金は悪』という考えが根強いですが、借金を戦略的に活用すれば、企業価値向上が可能です。
企業価値(EV)の計算式において、有利子負債の加算によって企業価値が増加するのは、負債が財務全体の一部であるという実態を反映しているからです。
重要なのは、借金を適切に管理し、効率的な投資によって収益を最大化することです。
問題は、日本企業の多くが金融機関を過度に意識している点ではないでしょうか。
正直、私は日本の金融機関はリスク管理しかできない「役立たず」だと思っています。
日本の銀行は投資についての知識やサポートが乏しいので、「返せる企業にしか貸さない」風潮があります。
これでは、おそらく日本企業はいつまで経っても成長しません。
適切な投資と資金調達について、議論できる銀行員が増えると良いのですが、あまり期待できないかもしれないですね。
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