雑誌『教育と医学』(2024年11・12月号)「特集にあたって」「編集後記」公開
雑誌『教育と医学』の最新号、2024年11・12月号が、10月28日に発売されました。今号の特集は、特集「早期教育の再考──多様な子どもへの支援を考える」です。
学校内外での各種幼児教育や早期就学・飛び級など、幼少期の子どもたちへの教育的働きかけを「早期教育」として広くとらえ、いわゆる「ギフテッド」と呼ばれる子どもたちへの働きかけなども含め、多様な子どもの支援としての早期教育の可能性と課題や注意点などについて検討する機会とします。(責任編集:鈴木 篤・田上 哲・藤田雄飛[九州大学大学院人間環境学研究院])
「特集にあたって」と、「編集後記」を公開します。ぜひご一読ください。
●特集にあたって
子どもの支援の観点から早期教育を問い直す
田上哲
幼い子どもたちは、自分に向けられる教育的働きかけ、自分を取り巻く教育的環境について、自らの意思で選択することが基本的にできません。教育的働きかけや教育的環境の選択には、養育者である親や教育者として関わる保育者、教師の意図が働くことになります。その意図に基づく教育的な働きかけの一つが「早期教育」です。「早期教育」については、そのメリットやデメリット、それを行ったほうが良いのか行わないほうが良いのか、これまでも賛否両論多くの議論がありました。現在も立場によって「早期教育」についての認識と評価は大きく異なります。
一方、文部科学省が「その才能や認知・発達の特性等がゆえに、学習上・学校生活上の困難を抱えることがある」、「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方」について検討を始めました。ここで検討されているのは、児童生徒の指導支援ですが、当然、幼児期の段階から困難を抱えることがある子どものことについて考えていかなくてはならないでしょう。
このような状況の中で、幼い子どもたちへの意図的な教育的働きかけである「早期教育」をどのように考えていけば良いのでしょうか。
今回の特集では、学校内外での各種幼児教育や早期就学・飛び級など、幼少期の子どもたちへの教育的働きかけを「早期教育」として広くとらえ、いわゆる「ギフテッド」と呼ばれる子どもたちへの働きかけなども含め、多様な子どもの支援としての早期教育の可能性と課題などについて検討しています。
内田伸子氏には、早期教育が子どもの育ちにどのような影響をもたらすのか、第二言語として英語を習得する場合を例に、早期教育の光と影の両面について、松村暢隆氏には、個々の子どものニーズに応じて才能を最適に伸ばせる体制、特異な才能が生かされる学びの場としての「ギフテッド教育」、環境との不適合を伴う「困っているギフテッド」の支援について、⻆谷詩織氏には、幼稚園や保育所でのギフテッド児の困難とその対応に関する豊富な事例を踏まえて、幼児期のギフテッド児の特徴とその支援のあり方について、伊藤寛晃氏には、IQの高さと才能を安易に結びつけたギフテッド教育の失敗の経験とその後の一人ひとりの特性と能力に即した教育の取り組みについて、福井逸子氏には、保育現場における支援や配慮を要する子どもたちの中でこれまで焦点が当てられてこなかった「生まれつき高度な知的能力を兼ね備えている子ども」の調査を踏まえて、七木田敦氏には、一〇歳で進路の決定を迫られるドイツの教育において、「一人ひとりに合ったペースを大切にする」これまでのドイツの幼稚園のあり方と近年の変化について、是永かな子氏には、それぞれ特色ある取り組みを進めている北欧諸国のギフテッドをめぐる早期教育の現状と課題について、それぞれ執筆いただきました。
これまで「早期教育」においては、主に積極的に教育する立場に立って子どもの能力や才能を伸ばそうとする大人側の意図や目的の観点が重視されてきました。今回の様々な立場からの「早期教育」についての多面的・多角的な捉え方が、本来は「多様な」という言葉を取り立てて使わなくとも、もともと多様で独立した存在である子どもへの支援の観点から、「早期教育」のあり方を誠実に考えていくための一助となれば幸甚です。
↓ 特集はこちら
●編集後記
本号ではギフテッド教育を含めた早期教育の再考に向けて、様々な視点からご寄稿をいただきました。近年、英会話や各種の習い事なども含めると、様々な教育の早期化が進められており、さらには、いわゆる「ギフテッド」(この語の使い方の難しさについては松村暢隆氏の論考をご覧ください)の子どもたちへの教育もまた注目を集めています。
こうした傾向の背後に見られるのは、社会の中での競争の激化だと言えるかもしれません。通常、子どもたち自身は「将来のことを見越して、今から○○をしておきたい」とは言わないでしょう。習い事などに通う友達やきょうだいなどの姿を見て、「自分も始めたい」と言う子どもは存在するでしょうが、そのもととなった友達やきょうだいが自らの意志のみでそうした習い事などを始めているという事例は、必ずしも多くないと思われます。子どもたちの早期教育において決定権を持つのは主に保護者です。社会構成員の間での競争が激化し、同一世代の間、そして異なる世代の間で、より大きなチャンスを獲得させるためには、自らの子どもが持つ力を高めておかなくてはいけないという、保護者の側の危機感や恐怖心が子どもたちの早期教育を促進しているのです。
そして、「ギフテッド」の子どもたちに対してできるだけ早期に支援を行うことで彼ら/彼女らの能力を伸ばそうとする動きは、国際競争の中で危機感を募らせる、政府や経済界などの事情ともあわせて考える必要があります。
これらのことは決して否定されるべきことではないと思われます。ただし、そこで忘れられてはならないのが、早期教育を受ける子どもたち本人の意志や満足感です。多くの場合、子どもたちは保護者や周囲の人々の影響を受けて早期教育を受けることになります。そうした際、子どもたちの意志や満足感を尊重するためにはどのような対応が求められるのか、本特集の各論考を通して考えていただければと願っています。
鈴木篤(九州大学大学院人間環境学研究院准教授)
▼最新号の目次、ご購入は以下から
また、「教育と医学」では毎月末にメルマガを発行しています。奇数月末の号では、最新号に掲載した連載の冒頭部を立ち読みすることができます。ぜひご登録ください。
また、「教育と医学」では毎月末にメルマガを発行しています。奇数月末の号では、最新号に掲載した連載の冒頭部を立ち読みすることができます。ぜひご登録ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?