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雑誌『教育と医学』(2021年7・8月号) 「特集にあたって」「編集後記」公開

 雑誌『教育と医学』の最新号、2021年7・8月号が、6月28日に発売されました。今号の特集は、「コロナ下におけるオンライン教育の可能性」です。
 新型コロナウイルスの影響で、オンラインによる新しい学習を経験する子どもたちが増えています。不登校の子どもたちのサポートとしても機能しうるこの試みについて、どのような展望を持つことが可能か、さまざまな観点から考えます。
「特集にあたって」と、「編集後記」を公開します。ぜひご一読ください。

●特集にあたって

オンラインがもたらす新しい教育の姿            藤田雄飛
 
 コロナ「下」の生活様式がニューノーマルとして定着してきています。感染症が覆ったこの状況を私たちは「禍」として生きるというよりも、むしろその「下」で新たな日常を営んできています。

 このコロナ下において、私たちは他者とソーシャルディスタンスをとって生活し、接触の機会を物理的に減少させてきました。これまでありふれたものであった「多くの人が集う」という光景が、突如として奇異なものとして感じられつつあり、行き交う様を見ただけで生理的な違和感さえも感じてしまいます。このことからすれば、知覚の変容が生じているとさえ言えるのかもしれません。誰かと関わろうとすること自体がリスクであるかもしれない今日の世界は、社会的な動物としてのヒトのあり方に関わる大きな変化を生じさせているとさえ言えます。

 しかしながら、このような困難にあって、私たちは状況を積極的なものとして生きる方策を見つけてきています。オンラインのネット空間とシームレスに繋がった新たな日常のあり方は、まさに現在の状況を生きるためのポジティブな反応あるいは戦略であるように思われます。それはパソコンやスマホを通して人と会い、顔をつき合わせて集うことを可能にした点において、新しいコミュニケーションの空間を作り出しました。では、こうしたオンライン空間でのコミュニケーションは、私たちの対人関係をどのように変えてきているのでしょうか。

 現在、私たちはマスクという顔を隠す様式で対人コミュニケーションを行うことを当たり前として生きていますが、その反面、私たちが「生の顔」を持った他者に出会うのはむしろパソコンやスマホ越しというオンライン空間に移行しました。この意味で、いままでのような「顔の見えるお付き合い」はオンラインのなかでこそ生じているのであって、対面状況においては、顔を隠しながらお互いに距離をとるという形式になっています。私たちはオンライン上で「直接に」人と出会い、コミュニケーションをしているのであって、対面的な場面においてはマスクに隠された顔と「間接的」に出会うのみです。オンラインはそれほどに私たちの日常を逆転させるかたちで浸透してきました。

 こうしたコロナ下においては、子どもたちが通う学校もまた、様々な対応を求められてきています。先生たちによる放課後の消毒や早朝の体温管理は、いまや学校の日常風景に組み込まれ、給食や休み時間の静かな過ごし方がすでに子どもたちに身体化されつつあります。そうした学校生活における変化とも相俟って私たちがいま気になるのは、現在の学校ではオンラインという新たな学習の経験を通して、従来の教育の枠組みを超えたどのような教育実践が行われているのかということです。

 加えて、オンライン授業のプラットフォームはそのまま、不登校の子どもたちの教育的なサポートとしても機能しうるポテンシャルを有していることを考え合わせれば、コロナ下において実践されている教育の持つ可能性を正確に分析することは、今後の学校教育の意義を考えるためにも重要な転回点となるはずです。おそらくそこには、教育という近代的な装置に対する何らかのポジティブな変化の兆しが垣間見えるように思われるからです。コロナ下での教育実践はどのように学校という旧来の制度と空間を変え、どのような新たな教育の姿を見せてくれるのでしょうか。本特集では、困難な時代状況にありつつも、未来に向けた希望の光とともに現在を見通していくこととしたいと思います。

藤田雄飛(ふじた・ゆうひ)
九州大学大学院人間環境学研究院教授。博士(人間・環境学)。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。専門は教育哲学。九州大学大学院人間環境学研究院准教授を経て現職。著書に『人生の調律師たち――動的ドラマトゥルギーの展開』(共著、春風社、二〇一七年)『教育/福祉という舞台』(共著、大阪大学出版会、二〇一四年)ほか。

▼特集の内容はこちら

●特集・「コロナ下におけるオンライン教育の可能性」
「コロナ下におけるオンライン教育」
 小柳和喜雄(関西大学総合情報学部教授。専門は教育方法学)
「オンライン教育の効果と課題」
 坂本將暢(名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授。専門は教育方法学、教育工学)
「非対面型授業の可能性と限界」
 鈴木 篤(九州大学大学院人間環境学研究院准教授、専門は教育学)
「Society 5.0時代のオンライン教育と学校」
 小宮山利恵子(スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院教育学研究科准教授。専門は教育とテクノロジー)
「遠隔スクールカウンセリングへの期待と課題」
 平泉 拓(宮城大学看護学群准教授。専門は臨床心理学、家族心理学、遠隔心理学)
「オンライン化時代におけるICTを活用した家庭と園の連携・協働」
 北野幸子(神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授。専門は乳幼児教育学・保育学)

編集後記

 昨(2020)年度、私の勤務する大学でもオンライン教育が主となりました。私自身、十分な準備ができないまま、まさに走りながらオンライン教育に手探りで取り組み、様々な失敗も経験しました。本(2021)年4月からの約 1ヶ月間は、対面の授業も行いましたが、COVID-19の感染者が再び急増し、本学のある福岡県も緊急事態宣言の対象地域となり、再びオンラインを主とした教育に戻りました。このような中、6月3日には教育再生実行会議は第十二次提言「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」をまとめ、そこでは「ICTを活用したデータ駆動型の教育」が提言され、対面指導と遠隔・オンライン教育とのハイブリッド化に言及しています。

 私は本年1・2月号(特集「『新しい生活様式』における子どもの学びと育ち」)の編集後記で、「私たちは『コロナ禍』を、『コロナ下』の『新しい生活様式』を能動的に作っていく契機」にすること、「因習を排して地に足をつけた内実を伴う『新しい生活様式』を作っていく」ことが重要であると述べました。

 COVID-19のいわば外圧によって教育現場におけるICT機器の整備が一気に進められ、十分な吟味がなされないまま、それぞれの思惑を持つ様々な勢力が主導権を得るために争いながら、急速に物事が進められている状況にあると思います。それでも何とかより良い方向を探りより良い実践を創造していくためには、オンライン教育をはじめとした新たな教育によって改善された面をとらえるとともに、問題状況を生み出している根本的な問題を把握して、科学的に正確に分析していくことが必要です。本特集はこのような課題に応えるものだと考えています。

 現在の混迷した状況を鑑みると、そのような科学的な検討と合わせて、これまで人材育成として、個人や団体、国家の利益に資する方向で考えられてきた教育を、世界全体をよりよくしていく方向で再構築していくという倫理的な検討が切に求められると思います。(田上 哲)


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