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雑誌『教育と医学』(2022年11・12月号)「特集にあたって」「編集後記」公開

 雑誌『教育と医学』の最新号、2022年11・12号が、10月27日に発売されました。今号の特集は、「子どものコミュニティとコミュニケーション」です。
 コロナ禍で学校や家庭での子どもたちの生活は大きく変化しました。公園や運動場で遊んでいた子どもたちも、今は「適切な距離」を工夫しながら遊んでいるように見えます。当初、疫学的な対応によって生じたそれらですが、次第に子どもたち自身による創意や適応が加わり、新たなコミュニティやコミュニケーションのかたちも生まれているのではないでしょうか。それらの可能性と課題に改めて注目します。
 「特集にあたって」と、「編集後記」を公開します。ぜひご一読ください。

●特集にあたって

子どもたちの新たなコミュニティ形成とコミュニケーション
藤田雄飛

 子どもが学ぶコミュニティとして真っ先に私たちが思い浮かべるのは学校ではないでしょうか。子どもたちが同輩集団とともに生活するなかで、イニシエーターたる教師を通して知識を学ぶ近代的な制度としての学校は、私たちの意識の奥底にまで浸透しています。それ以上に、学校が当たり前のものとなった現代では、社会そのものがこの制度によって維持・再生産されています。この意味で学校とは、社会という比較的大きな規模のコミュニティの内部において作り出された入れ子状のコミュニティであると同時に、それ自体が社会そのものを構成しているのです。コミュニティとはかように子どもの生を取り巻いています。
 ところで、子どもが育つコミュニティの尺度を大きく捉えるなら、その規模は国家のレベルに達します。縦横に張り巡らされた教育制度とはまさにそのようなものです。一方、その尺度を小さく捉えるなら、その規模は家族システムにまで狭まります。家族とは子どもを育てる社会的コミュニティの要素であると同時に、個人にとってはコミュニティの最小単位であるのです。このように、国家システムから家族システムまでの大小の共同体が子どもを取り巻いていると言えるでしょう。
 教育学者の岡田敬司は『「自律」の復権』(ミネルヴァ書房、二〇〇四年)のなかで、国家という巨大システムと個人や家族という極小のシステムの間に介在する学校を「中間共同体」として捉え、その重要性を指摘しています。巨大システムによる管理の力の前で主体性や自律性が萎縮してしまわないように、中間共同体は個人を覆い隠して保護すると同時に、個人がみずからの選好を他者たちと相互調整しながら社会的結合を構築する能力を育む場となります。それはまた、個人の無際限な恣意的選好の追求を抑制する社会的な生を学ぶことで、社会の維持を可能にする装置でもあるのです。
 岡田が示したのは、国家のような大きなコミュニティと家族のような小さなコミュニティの間において、子どもを支える「中間共同体」を捉えることの重要性でした。そして今日、子どもの生を下から支えるコミュニティは学校に限定できないような多様な広がりをもつようになってきました。それはこれまでのような権力vs個人や大きなシステムvs小さなシステムというような枠組みでは捉えられず、子どもたちによるコミュニティ形成とそこでの多様なコミュニケーションを含むものであるように思われます。インターネット上やSNS上などの局所的で限定的に生起するようなコミュニティを含むでしょうし、コミュニケーションの可能性を拡張するような実践的な取り組みも含まれているように思われます。私たちのまなざしから容易に逃れていってしまうが、今日の子どもが育つことにおいて重要であるこのコミュニティを示すのに適切な呼び名を私たちは未だ持っていません。「中間共同体」を理論的なベースとしつつ、この新たなコミュニティについて本特集を通して一緒に模索して頂けたらと思います。

藤田雄飛(ふじた・ゆうひ)
九州大学大学院人間環境学研究院教授。博士(人間・環境学)。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。専門は教育哲学。著書に『人生の調律師たち──動的ドラマトゥルギーの展開』(共著、春風社、二〇一七年)、『教育/福祉という舞台』(共著、大阪大学出版会、二〇一四年)ほか。

▼特集の内容はこちら

●特集●「子どものコミュニティとコミュニケーション」
「コロナ禍以降の学校における子どものコミュニティの理解と援助」
 水野治久(大阪教育大学教授。専門は学校心理学)
「今、子どもの居場所がなぜ求められるのか」
 田中聡子(県立広島大学保健福祉学部人間福祉学コース教授)
「子どもの生きる場を支えるもの──学校・学童保育の日常から」
 木下寛子(九州大学大学院人間環境学研究院准教授。専門は環境心理学)
「里親家庭の子どもを支えるためのコミュニケーション・デザイン──『フォスタリングカードキットTOKETA』ができるまで」
 田北雅裕(九州大学大学院人間環境学研究院専任講師。専門はまちづくり、コミュニケーション・デザイン)
「子どもにとってのオンラインコミュニティ」
 吉川 徹(愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長。専門は児童精神医学)
「子どもの環境と身近な大人の関わり」
 畑 倫子(文京学院大学人間学部心理学科准教授。専門は環境心理学、発達心理学)

●編集後記

 『教育と医学』では、2020年7・8月号緊急特集「社会不安のなかで子どもを支える」以降、「『新しい生活様式』における子どもの学びと育ち」(2021年1・2月号)、「子どもの安全・安心を支える」(2021年3・4月号)、「コロナ下におけるオンライン教育の可能性」(2021年7・8月号)、「子どもの健康を守る教育と医療の連携」(2022年5・6月号)等のコロナ禍に関する特集を企画しました。
 今回は、コミュニティとコミュニケーションをキーワードに特集を組みました。コロナ禍の制約やリスクを理解することも目的のひとつですが、大人以上に逞しく、しなやかに現状に適応しながら、自分たちの世界を楽しいものにしようと試みる子どもの姿を描くことも意図しました。三密回避による子どもの「居場所」の減衰、直接的なコミュニケーション機会の縮小が危惧されています。しかし、子どもたちは貪欲な好奇心と適応力を最大限に発揮して、新たな遊びやつながりの場を開発しています。
 昨年、幼稚園で心理劇(『教育と医学』2020年11・12月号をご覧ください)を実践しました。「見えないもの回し」という見立て遊びで、ボール、ビー玉、西瓜など大きさや重さを変化させながら、そこにはないものをまるで存在するかのように隣の子に渡す遊びを展開しました。実在しない「お花」を手渡された園児たちは、花を大事そうに持っている仕草をずっと続けました。隣の子の頭にかんざしのように「お花」をさす園児、部屋の隅にいた園の先生に駆け寄り「お花」を渡そうとする園児もいました。
 マスクで顔・表情の大部が覆われていても、身体と身体で触れあうことができなくても、園児たちはイメージを共有し、心を通い合わせることができると確信しました。コロナ禍のなかで安全・安心を守ろうと躍起になり、心を不自由にしていたのは大人の方かもしれません。子どもたちの力を信じて、子どもの世界が豊かになるように見守っていきたいと思います。
(古賀 聡)

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