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「自ら学びをコントロールする力を育む自己調整学習」 友田真

本書の整理

自己決定理論

 自己決定理論は、エドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱され、内発的動機づけを高めるために満たすべき3つの基本的な心理的欲求を以下のように定義した。
1.自律性(Autonomy): 自分の行動を自分の意志でコントロールできると感じること。
2.有能感(Competence): 自分が環境や課題に対して効果的に対応できていると感じること。
3.関係性(Relatedness): 他者とつながり、理解し合い、受け入れられていると感じること。
 
 桜井茂男(2009)は、この理論を日本の教育現場に適用しやすい形で整理し、外発的動機づけから内発的動機づけへと移行するプロセスを次のように示した。
1.外的規制(External Regulation): 報酬や罰に完全に依存する段階。
2.取り入れ規制(Introjected Regulation): 罪悪感や義務感で行動する段階。
3.同一化規制(Identified Regulation): 行動が有意義だと認識する段階。
4.統合規制(Integrated Regulation): 行動が自己の価値観や信念と一致し、アイデンティティに統合されている段階
5.内発的動機(Intrinsic Motivation): 行動が純粋に喜びや興味から生じる段階。

この理論に基づいて、自己調整学習を取り入れるには、内発的動機づけへの移行が重要であり、そのためには「関係性」「有能性」「自律性」の3つの欲求を満たすことが必要である。

関係性・有能性・自律性

 自己調整学習を促すためには、「関係性」、「有能性」、「自律性」の3つの視点を重視した指導が重要である。
1.関係性教師が子どもの努力や学習過程を認める言葉がけを行い、「増大的知能観」を育むことが重要である。
2.有能性子どもたちが成功と失敗の原因を自身の努力に関連づけられるように指導し、達成感を感じられるようにする。
3.自律性:子どもたちが自らの成長を感じられるように、教師は自律性支援的指導行動を意識して支援する。

 これらの指導を実践するためには、小さな成功の積み重ね「やればできる」という自己効力感を育むことが重要である。そのために、教師は学習目標を具体的なステップに分け可視化し、評価やフィードバックを定期的に行うことが求められる。
 授業では「フリ」(目標や課題の提示)、「オチ」(行動の評価)、「フォロー」(フィードバック)が重要である。特に「フォロー」により達成点や改善点を明確にし、次のステップへ導くことが大切である。さらに、学習者が挑戦しやすい安心した環境を整えることも重要である。

学習方法

 学習方法の重要なポイントは「知識を与えるのではなく、知識を習得する方法を教えること」である。これは、子どもたちが自分に合った学び方を見つけるプロセスを支援することを目的とする。例えば、ノートの取り方をいくつか紹介し、最適な方法を子ども自身に選ばせたり、定期的に学習を振り返り、改善点を見つけるサポートを行うことが有効である。このように、学ぶ力を育てることが学習指導の中心となる。

UDLを活用した学習プロセスの5ステップ
1.GoalとWhyの明確化
 
実生活に結びつくような問題を出題し、子どもが「なぜ?」という疑問を持つ状況を作り、学習への興味を引き出す。
2.学びを阻むカリキュラムの障害を探し出す
 
特定の学習スタイルに適応できない子どもに対し、その障害を解消するための支援を計画する。
3.学びの選択肢を用意する
 子どもが自分に合った学び方を選べるよう、特性に合わせた学習環境や方法を提供する。
4.自己調整しながら進む
 子どもが学習を自己調整しながら進め、深い学びに繋げられる環境を整える。
5.振り返りと改善を行う
 子どもと教師が共に振り返り、成功点と課題を確認し、次にどう改善するか考える。

自己調整力の発達段階

 シャンクとジマーマンは、自己調整力の発達を次の4段階でまとめている。
1.観察段階
 自己調整の意識が低く、学習に関しては受動的で、外部の指導に依存している。 教師は、学習目標や必要性を説明する。
2.模倣段階
 他者の行動を観察し、模倣することで自己調整の方法を学び始める。教師は、具体的なモデルを提示し、選択肢を与え、生徒が自分に合った方法を試せるようにする。
3.自己制御段階
 
生徒は自らの行動を自己調整し、目標達成を目指す。教師は、自己評価や振り返りの機会を提供し、定期的にフィードバックを行う。
4.自己調整段階
 
生徒は、自己調整を完全に習得し、自分の学習を管理できるようになる。教師は、学習方法をさらに洗練できるようにサポートしていく。

メタ認知

メタ認知とは、自分の認知的活動を俯瞰し、理解や学習のプロセスを調整する能力を指す。この能力を育むことで、自己調整学習が効果的に進められるようになる。メタ認知を育むための授業デザインには、次の3つの段階がある。
1.予見段階(導入):学びのマップを用いてゴールを明確にし、学習の目的と進むべき道筋を子どもたちに示す。
2.遂行段階(学習活動):子どもたちは自分で選んだ学習方法を意味づけし、理解度を客観的に把握する。教師はこのプロセスをモニタリングする。
3.内省段階(振り返り):学んだ内容やプロセスを振り返り、学びの進め方を見直す。振り返りが苦手な子どもには、教師が整理をサポートする。

メタ認知を育むための方略として、「教訓機能」(自分が賢くなった点を教訓として引き出す)と「仮想的教示」(誰かに伝えるとしてどのように伝えるかまとめる)を意識することが効果的である。これらを授業に取り入れることでメタ認知を促進する指導が実現される。

まとめ

 自己調整学習には段階的な発達があり、それを生活の発達段階と結びつけながら指導することが重要と感じた。特に、「なぜ」その活動に取り組むのかを私たちが明確に説明できるようになる必要性を感じている。本書で整理した段階を意識し、これに基づいた授業デザインを検討し、実践していく。

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