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自分のレア度を起点に未来を描けるか。「資源ベース理論」の良し悪しについてざっくり考えてみる。

世の中でいういい会社や、成功しているビジネスというのはなぜそれが良いと言えるんだろう。

時折いろいろな成功事例に流れてくるニュースや企業分析で触れることがある。

すでに成功しているものを説明するのは比較的楽で、いろいろなフレームワークに当てはめれば過去のことなので大体説明できる。

それじゃあまだ成功する前、いまから戦略を考えるときにどういったことをすれば成功するのかというのは途端に難しくなる。正解がない問題に向き合ってぼくらは心血を注いで日々仕事をしている。

そんなぼくたちの手助けになってくれるのがいろいろなフレームワークや、ビジネスモデルや過去の戦略論たちで、そういったものを使いながら前に進んでいくのが仕事だったりする。

そんなときに使えるアプローチがざっくり二つある。

■ 会社の持っている資源から考える方法もある

会社というのはよい経営資源があるからいい事業ができているのか、いい事業ができているから結果としていい経営資源があるのか。

こういったちょっと禅問答的な議論というのはビジネスの世界では結構するものだし、専門家の間でも重要な研究テーマとして色々な研究がされている分野でもある。

他社との差別化がビジネス成功の根源であるというのはマイケルポーターが理論として組み上げた功績はとても大きくて、ビジネスの勉強をかじれば語られない日はないくらい有名な話だ。5Fや3Cやら4Pやらアンゾフのマトリクスやらポジショニングやら色々なフレームワークについて語っていてはキリがない。

こういった便利なツールの根底には全ての企業は差別化を目指して自社のビジネスを大きくしているという考えがあってそれを否定することはできないだろう。

差別化をめざすことが企業の競争優位性を高めて持続的な成長につながりよいポジショニングをとっていけるという戦略の重要性はいつの時代も変わらない。

一方で全く別の切り口からの議論というのも存在していて、それはいかに貴重な資源を会社が持っているかというところを出発点として企業の成功について考えるという切り口がある。

ここでいう経営資源というのは石油とかそういった資源ではなく、会社を構成している主な構成要素として、人材、技術、チャネル、ノウハウ、ブランド、資金、特許などなどよく自社の「強み」という形で語られるもの全てを資源をさしている。

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そういった優秀な経営資源をもっている会社が成功しているということを提唱したのがバーニーという人で、こういった経営論的な話ではマイケルポーターとセットで必ず出てくる人の一人ともいえる。

経営資源の大切さというのは彼が提唱する以前からも語れていたので、特別彼が全く新しいことを考えたわけでなく、ポーターと同じように体系立てて理論にしたところが彼のすごいところと言われているようだ。

彼の提唱する経営資源を出発点として考える考え方では「優れた企業は複数のリソース(つまり経営資源)がいくつも組み合わさることで強みを発揮している」という点に帰結していく。そういった組み合わせにこそ真似できないポイントが隠されていると考えているのがこの考えになる。

例えば、企業が時間をかけて組み合わせてきたリソースはその会社独自のものなので真似されにくいとか、ぱっと見では何がそのビジネスの成功要因かわからないような仕組みを持っているとか、複雑な人間関係や社会的な関係の上に成り立っていて真似できないとか、ユニークな文化や他企業との連携があるなど、そういった特異的なリソースがあるからその企業は強い。

そういった点を指摘してくれるのがこの経営資源にフォーカスした考えといえる。

こういった考えは日本語では「資源ベース理論」といったり、英語では「リソースベーストビュー(resource based view)」という言い方をしているのでイニシャルのRBVといえば聞いたことがある人も多いかもしれない。

専門的な話はいくらでも本が出ているので割愛したいが、このバーニーさんが一つの体系としてまとめてくれたRBVという経営資源をベースにした考えによれば、他者にはできない価値創造をするためには4つの大切なリソースが必要だといっている。

それはよくVRIO戦略とか結構聞くこともあるかもしれないが、この頭文字はvaluable(バリューがある、価値があること)、Rare(レア、つまり希少であること)、Inimitable(イミテーションできない、ようは模倣困難であること)、Non Sustitutable(他のものに置き換えられないこと)という4つのリソースを指している。

簡単に言ってしまうと、ようは価値があって、レアで真似されにくくて他のものに置き換えられない資源を持っている会社やビジネスは強いということを言っているとまとめることができる。

逆に難しい表現でいうと完全競争(誰も同じ力と情報を持っているような状態)がこの世の中には基本的にないことを前提に、企業リソースの異質性(独自の経営資源がある)と不完全移動性(リソースは簡単には企業間で移動しない)という2つの点で他社にないリソースをもっていると強いということになる。

■現場ではRBV(VRIO)はうまく使えなかったりする

この理論を深く理解しようと思って勉強をしたことが昔あったが、どうも個人的にはビジネスレベルでは使えない理論と感じざるを得ないところがぼくとしては多かった。今でもあまり使うことはない。

とはいえ、成功している会社とか、ビジネスについて分析するときには結構使える。あの企業が成功した理由は「VRIOも4つを全部もっているから」というのはとても使いやすく、多くの成功した企業はこれらの特異的な経営資源を持っている場合も多い。

じゃあどうやってそういう会社になるの?とかどうやってそういったビジネスを作るのか?という発想をするときにこのVRIOの視点というのは使えるのかというとなかなか難しい。

冒頭に禅問答と書いたのは、「結果的に成功した企業は価値があってレアで真似されにくいビジネスだった」というように考えられるのでどちらかというと経営資源を蓄積することをベースに考えるよりもポーターの考えのように差別化戦略やポジショニング、マーケティングなどによる方針を起点として考えた方が百倍わかりやすいと個人的には感じることが多い。

アメリカの大学ではRBVの見方って本当に合っているのか?という研究が2007年にされていて550弱のビジネスを検証した結果、だいたい半分くらいしかあてはまらないというような論文もある。RBVは合っている場合もあるしそうではない場合もあると考えられていることからもなかなか使いづらい理由があるのではないかと勝手に考えている。

なんとなくよい経営資源をもっていればビジネスでは成功するというのはよくわかるし、実際にそうなんだけど、それを意図的に目指せるか、戦略レベルで本質的に使えるかとなると、資源ベースの考えよりもポーター的な戦略ベースの考えの方が実務家には向いているとぼくは思うことが多い。

例えば何か株式投資をやっていて、投資するかどうかを部外者として考える分にはとても使えるすばらしい理論だと思うが、実務をやる人間としてはなんとなく使いづらい。そんな印象をぼくはもっている。

■そうはいっても模倣困難性を考えるのはとても重要

ちょっとRBVやその核をなしているVRIOについてネガティブっぽい感じのことを書いてしまったが、前述の通りとても有効な切り口であるということはぼくも信じていて、使い方次第だと思っている。

VRIOの4つの経営資源をいかにもつかというのは大切な視点であるし、バーニーさんがいっているようなこの貴重な経営資源の組み合わせがとっても大切で、企業の独自性につながって、その企業の優位性を上げているというのは疑いの余地もない。

どんどん特異的な点を組み合わせるという考えは個人のキャリアでも使われる考え方といえる。

自分に強みがないという悩みはぼくだけでなく誰でもあるわけだが、自分のレア度をあげましょうということが書いてある本にはだいたいこの考えが言われているケースが多い。例えば「喫煙しない×パチンコしない×本を月に1冊よむ」という3つの掛け算をすることで全体の10%の人になるというような例があったりする。他にも英語ができる人は世界中にいるけど、「英語ができる×日本のカルチャーを理解している×日本語もできる×経営企画の仕事ができる×アパレル産業」といった形で掛け算をしていけば容易には真似できないことになる。

一見すると、一つ一つは特別なリソースではないけど、掛け算で自分の強みにしていくというこういう考えは企業でも一緒で、ビジネスの世界では「アクティビティ・システム」という理論として体系化されていて、それを提唱したのはあのポーターさんということで、バーニーさんが提唱するRBVの考えとはつながっている部分もある。

結局は差別化のために必要な戦略とポジショニングとかそういった話も大事だし、VRIOのような経営資源の組み合わせが大事というのはどっちがより大事かではなく、両方大事といえるので、2つの見方をしていくということでぼくは自分の中でこの理論を整理している。専門家ではないので間違ってるかもしれないが自分としてはそれでいいと思っている。


■ なんとなくRSV(VRIO)は日本的な会社っぽい考え

この理論を考えるときにもう一つ思うのは、なんとなく日本企業が好きそうという点だ。ポジショニングとかマーケティングとかそういった発想は日本企業は相対的にヘタで、「自社の技術や人を磨けば必ずいいものを作って成功できるとしんじるのだ」という考えの方が優勢だ。

これってなんとなく資源ベースの考えが根本にあるような気がしてて、戦略サファリという本を書いたミンツバーグさんもそのような趣旨のことを本で書いていたようは気がする。

ポーターは日本企業を戦略がなくてカイゼンばっかりやっていると評することがあるが、そんなことはなくて、日本企業はRBVの考え方をしているだけなのかもしれない。

日本企業は確かにこれまでどちらかというと戦略っぽくない企業運営をしてきていて、そういった話を社内ですると「机上の空論」とか「現場の努力をわかっていない」とかそういった批判を受けることもしばしばある。

マーケティングですら軽視する傾向が強くマーケティングと聞いただけでチャラチャラしたイメージをもっている人がいかに日本の伝統的な企業に多いことか。

それで成功しているうちはいいが、アウトプット視点が弱いRBVの考えでは世界では通用しなくなってきているのも事実だ。いいものをつくれば売れる、最高のものを作るという思考では途上国ではオーバースペックで売れなくなってしまう。

なのでポーター的な戦略やポジショニングの話も大事だし、バーニー的な経営資源の話も両方大切にして、片方に寄りすぎないようにしながら他社との比較をして冷静に自社の競争優位になれる製品やサービスやビジネスモデルをターゲットするお客さんのために作り込んでいくという姿勢がより重要な気がしている。

■ 資源論の話は自社だけではなく他社比較が重要

今回は資源ベース理論について簡単に記事にしてみた。以前に記事にしたポーター的な差別化の話にも今回の資源ベースの話にもいえることだが、俯瞰してみる視点というのは「わかっちゃいるけど抜け落ちやすい」といつも感じて気をつけている。

「強み弱み」の話だったり、“だからなんなの?”となりがちな「SWOT分析」などをする場合でも「誰に対して」という視点が抜け落ちる傾向がつよくでちゃう場合がある。

誰々と比べてどうかという視点がないとただの思い込みとか自社に強いの盲信になってしまうので議論をしたり、方針を出すときには気をつける必要がある。「自社の強みを生かして差別化された製品を出す」というなんとも形骸化した目標がIR資料などで世の中にはたくさんあるのも、具体性が乏しく俯瞰した目で戦略を深掘りできていないことを露呈しているともいえる。

ちょっとRBV、VRIO戦略に関して復習したときに思ったことを書いてみました。戦略論ってほんとおもしろい。

keiky

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