タイラー、ケンドリック、「男たるもの」
タイラーがケンドリックの新作『Mr. Morale & Big Steppers』を称賛しまくっているのは有名だけれど、タイラーがこのインタビューで語った絶賛の理由がむちゃくちゃ興味深く、本質を突いていると感じている。その影響力には人種的な要素も大いにあるけれど、普遍的なものでもあるように思う。
タイラーの説明を要約してみました。自分の忘備録にもしたくて。
同じLA近郊出身でありながら、スタイルがかけ離れているせいか、意外に繋がり(とはいえ、表面上はタイラー→ケンドリックの作品への称賛だが)がなかった2人。
タイラーの告白は、決して彼だけが感じた気持ちではないと思う。ケンドリックは少なくとも、タイラーの心を開いた。正直に語り、感情をオープンすることに、大いにインスピレーションを受けている。はたまた、タイラーからケンドリックへのラブレターというか、タイラーが受けた連鎖反応を正直に認めて告白したというか。彼の気付きはまた、波のように広がっていくだろう。
タイラーは元々ど正直に語る人ではあるけれど、それを容易にさせない、「男たるもの、こうあるべき」という鎧をがっしりを身に付けたまま脱げない、社会的なプレッシャーを、ここでは語っているように思う。でも名もない多くの人たちが、タイラーと同じような感覚を覚えているのではないかとも推測する。
そして、アルバムリリースをアメリカでお祝いする代わりに、Spotify主催のドキュメンタリーをガーナで撮影していたケンドリック。
彼が今作で一番好きなラインが、「男たるもの、セラピーなんて行くもんじゃない」だという。頭おかしくなっちゃったんじゃない?と思うような発言をする彼に対し、パートナーのホイットニーが「セラピーに行った方がいい」と諭すと、彼はこう答える。
何世代も続いてきた、この「男たるもの、(傷ついていたって)セラピーなんて行くもんじゃない」という価値観から、ケンドリックがセラピーに行くことが、どれだけ新たな大きな一歩(Big Step)だったかを語っている。もしかしたら「Big Stepper」には、その意味も込められているんじゃないだろうか、とふと。
ケンドリックはこのアルバムを、「(今までの作品の中でも)最も今の自分を表現している」作品だと言う。
彼に初めて会ったのは、2011年の『Section.80』のリリース前にインタビューしたときだった。ステージ上の彼はとても勇敢なビッグスターだけれど、普段の彼はとても物静かでシャイだ。言葉をひとつひとつ慎重に選び、じっくり考えながら発している印象が強かった。カメラを向けても、決して「イエーイ!」とかでしゃばったりしない。もちろん、親しい人たちの前では、また別だろうけれど。
ガーナでの彼を見て、11年前のあの時の彼を思い出した。あの頃の彼から、世界を何往復もして大きく成長したけれど、人の本質はそんなに変わるもんじゃないのでは、ということを、このドキュメンタリー映画を見て考えさせられた。
彼が、めぐりめぐって、まわりの人たちの面倒を見るよりも、まず自分を大切にしなければという結論に至ったことに、祝福を送りたい。