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壺を作る人ーーあるアスリートのことば
オリンピックも残すところあと2日となりました。当初は、それほど真剣に見ようと思っていたわけではありませんでしたが、在宅時間が長い分、たまたまテレビをつけた時に素晴らしい試合に出会い、見入ってしまうことも何度かありました。
期待通りの結果を残せた選手、期待以上の大金星を挙げたと言われる選手がいる一方で、大きな番狂わせに涙するケースも度々報じられています。
ともすれば結果だけで評価してしまいがちな私たちですが、予想外の(残念な)結果を手にしたときにどう受け止めるかが次の一歩への鍵になるようです。
一つひとつの試合の中にその選手の人生のストーリーがある・・・と考えながらオリンピックを見ていたとき、体操の亀山耕平選手を紹介する新聞記事に目がとまりました。
これまで全く名前を知らなかった選手ですが、その紹介記事を読んで好感を抱き、体操男子あん馬の決勝を、珍しくドキドキしながら観戦ししました。
亀山選手は前回のリオデジャネイロ五輪の代表選考会で敗退、一度は引退を考えたものの、所属先の監督に引き留められて現役を続行、今回、32歳にして、初めての五輪出場の切符を手にした選手です。
以下、『産経新聞』(8月1日朝刊)の記事より引用します。
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「壺を作ると自分で売ることもしてチヤホヤされたくなるけど、そうすると壺が濁る。良い壺を作り続けないと上に行けない」
壺作り職人とは体操選手で、壺とは演技だ。自分の得意なことで突き抜け、その成果物で喜んでもらう。ここに人間が生きる幸せがあるのではないか、と思考がまとまった。
(20)13年(世界選手権種目別金メダル*筆者注)の頃は、まだ自分自身に目を向けてもらいたがっていたが、ひたすら演技を磨くべきなのだ、と。
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亀山選手は決勝で5位入賞。メダルこそ逃したものの、決勝の舞台で失敗する選手もいる中、最後まで見事に演技を通し切りました。
銅メダル獲得の萱選手の陰で、亀山選手の報道は少なかったので、ご存じない方も多いかもしれませんが、他のアスリート同様、メダルの有無に関わらず、素晴らしい人生ストーリーを見せていただきました。
自分の得意なことで突き抜け、その成果物で喜んでもらう。ここに人間が生きる幸せがあるのではないか
このフレーズが妙に心に残ったため、自分にとっての得意なことーー「壺」とは何かを考えてみました。
心をこめて丁寧に作り続けたい「壺」、私にとっては何でしょうか?
中国語も日本語も、「ことば」そのものが好きで、これまで深く関わってきました。
若い頃は、通訳レッスンですぐに反応できる人のことが羨ましかったりしましたが(もちろん今でも羨ましいのですが)、自分の得意分野は何だろう?と改めて考えてみたとき、じっくり考えながら日本語に訳すこと、中国語と日本語という二つのことばに向き合うことが何よりも好きなのだと思い至りました。
スマートではないかもしれませんが、これからも私の「壺」を丁寧に作り続けていきたいと思います。
あなたのにとって、大切な「壺」とは何でしょうか?